新たなる旅立ち!
性癖決闘の終わった森は再び静けさを取り戻す。
聞こえてくるのは楽し気な鳥の囀り、木々のざわめき。そして、初心者狩りたちのうめき声。
キバさんに光の手錠をかけられた彼らは、これまた光でできていて虹色に輝くゲーミングガムテープ――とでも呼べばいいのだろうか――で口をふさがれている。
キバさん曰く、リスポーン防止措置だという。
そんな初心者狩りたちを地面に転がしながら、私たちは丁度いい高さの切り株に腰かけて休息をとっていた。
戦いで身体が火照っていて、額からツーと汗が流れ落ちる。べたつきのない、そしてダラダラと垂れてくるわけでもない、健康な人特有のサラっとした汗。不健康を極めた私とは無縁の、青春特有のキラリと光る汗だ。
新鮮で爽やかな風に吹かれ、汗の軌跡がひんやりと冷たい。バカみたいに開いている胸元にも風が当たって、スースーする。
あっ、陽彩、谷間の内側にほくろある。どこまでエロいんだこの身体は。
『あの、そろそろ身体返してもらえません?』
宿主の陽彩が脳内に直接語りかけてくる。
「どうしよっかなー」
『返せ!!』
適当にはぐらかすと、彼女はさらに抗議の声を強める。
そうした脳内問答をしていると、思わぬところから声がかかった。
「ルナさん!」
アオだった。
「はい! なんでございましょう!!」
身をググっと乗り出し、玉のように輝くまん丸お目目で瞳を覗かれると、思わずかしこまってしまう。
「その……、ルナさんのお姿を拝見してもよろしいでしょうか?」
ふぇッ!? 私の姿?
「それは、ど、どど、どうしてでございますか?」
「私、ずっと姿を消して皆さんの後ろをついて回っていたので、ルナさんのアバターのお顔をお見掛けしていないなと思いまして。よろしいでしょうか?」
「もちろん! 喜んで!!」
私は何の躊躇もなく憑依を解く。意識が陽彩の身体から離れ、半透明の私の身体が彼女の隣に実体化した。
自分の身体を取り戻すと胸と肩が軽い。その元凶をに目を落とすと、やっぱりない。視線を遮る身体のふくらみは何もなく、足先までしっかり見える。
目線の高さもさっきまでより低い。
こうも違うと帰ってきたなぁなんて思う。女干物オタクの身体に。
アオがそんな私の顔をじっと覗く。
日陰女は今までの人生でそんなことされたことない。だから、どうすればいいのか分からず、軽くパニクって、息をするのも忘れていた。
アオは可愛げのある顔を、私にジーっと向け続ける。
長い、長い! 顔を見つめ続けられて、どんどん熱くなってくる。
息を忘れているせいか分からないけど、段々苦しくなるし、鼓動もどんどん早くなる。
「素敵なお顔ですね!」
笑みを絶やさず、彼女は言う。そのシンプルな言葉が心にグサっと刺さり、自然と顔が緩む。
「……ソンナコト、ナイデス!」
でも、返答はよろしくない! 答える声は上ずってしまったし、なぜか片言になっちゃったし……。ああ! 印象最悪だあああ!!
「そんなことないですって! とっても素敵だと思いますよ!!」
「あ、ありがとう……ございます……」
社交辞令だとしても、お礼は言っておこう。もう二度と言われないかもしれないから。
「アオはさ、素直で、正直で、ひたむきな性格でな。そこが俺の癖にグッとくるんだ」
キバさんが急に口を挟んできた。
「まっ、嘘や世辞とは無縁ってことさ。お嬢さん」
「やっ、と身体帰ってきたーーーー!!!!!」
うわっ! ビックリした!
突然の陽彩の声。喜びに満ち溢れた叫び。
両腕を上げてガッツポーズしてるし、めっちゃ嬉しそう。
「って、変身が解けてない!! ルナさん解いてください!!!」
彼女は腕を組み、眉間に皺をよせ、私の前に仁王立ち。
「まぁ、まぁ……。落ち着い――」
「落ち着いて、いられるか! こ、こんな、恥ずかしい恰好! 早くなんとかしろぉ!!!」
そんなに詰め寄られても、解除の方法知らないし……。
私はそーっと視線を泳がせる。
すると、
「まさか、知らないとかないですよね?」
ギクッ!
観察力と、洞察力がヤベーよこの子!
「へ、変身解除!」
そう呟くと、陽彩は風に吹かれて元の姿に戻った。
「も、戻った!!」
「も、戻った!!」
陽彩と声が重なる。
「って、やっぱり、知らなかったんじゃないですか!」
興奮した陽彩が掴みかかってくる。
痛い! 痛い! 胸倉掴まないで!!
「キバさん!」
私は話題を反らすべく、キバさんに声をかける。
「これからどうしますか?」
「君らは、町に戻って自由にするといい」
「じゃあ、みんなで帰りましょうか!」
私がそう言うと、キバさんは俯き気味に言った。
「すまない」
「何が、ですか?」
「君らとはここでお別れだ」
陽彩が私の胸倉から手を放す。
確かに思惑通りだけど、展開が少々想定外の方向にそれてしまった。
「お別れって、どうしてですか?」
「俺らの任務は初心者狩りを捕まえること。それは、君らのおかげでこうして成った。でも、こいつらの出どころを調べたり、再発防止に努めたり、俺らにはまだやることが残っている。そこにまで君らを巻き込むことは、流石にできない」
彼は真剣な表情を一切崩さない。その上、彼の隣に佇むアオも何とも言えないような、ぎこちない笑顔している。
「だからこれで、チュートリアルはおしまい。後は君ら二人の物語だ」
「私たちの物語……」
キバさんは私の両肩に手を置き、私の瞳を見据えて言った。
「君はこの世界で何をしたい?」
私がしたいこと……?
そんなの……、決まってる!!
「私は可愛い女の子に憑依したい! 陽彩だけじゃ物足りない! もっと、もっと、可愛い女の子に憑依して、最高最強の性癖ライフを満喫してやりますよ!!」
私は睨むように、ギリっとキバさんの目を見返す。
「君ってやつは。ある種、このゲームには一番向いてる人種しれない」
陽彩はやれやれという感じで溜息をつきながら、頭を抱えている。
「君ならきっとできる、最高最強の性癖ライフってやつを」
「私たちはゲームを辞めるわけではありません。フェチフロを続ける限りは、またどこかで会えると……、いや、また会いましょう!」
「次会うときはアオちゃんにも憑依しちゃいますからね!!」
「それは、ごめんこうむりたいね」
キバさんはニヤリと口角を上げ、私の提案を断る。
「お二人とも、最後までルナが迷惑かけてすいません……」
流石、優等生。っていうより、これじゃ、お母さんみたいじゃないか! でも、小うるさいのは嫌だけど、母性なら受けたい。
「いいんだ。そういえば……」
キバさんはそう呟きながら、私に何かを差し出す。
彼の手のひらの上にあったのは、綺麗なカードだった。この世のものとは思えない不規則な七色の輝きを放つ、何か栞のようにも見える細長いカード。
「これはβ版のときのイベント景品の引継ぎアイテムだが、君にあげよう」
「いいんですか!? そんな大切なもの」
「俺が持っていてもただの記念品にしかならないが、道具は使いこなせる人がもってこそ輝く」
キバさんからそのカードを受け取る。
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アイテム:【メモリーカード】を入手しました
『バディやプレイヤーデータを記録し、情報を出し入れする』
『このアイテムは使用しても消滅しない』
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私は『メモリーカード』の説明を読むが、特にこれと言って使い道が分からない。だからとりあえず、アイテムポーチにしまっておく。
「あ、ありがとうございます!」
「最後にもう一つ、『性癖を惜しむな。出せるだけ出せ。そして楽しめ』。それがこの世界の真理。人の受け売りで良ければくれてやる」
――性癖を楽しめ、か。
貰った言葉を反芻していると、キバさんとアオの身体が眩く輝きだす。
「それじゃ、頑張れよ」
「お二人とも、またお会いしましょう!」
「キバさん、アオちゃん。どうも、ありがとうございました!!」
私と陽彩は言葉を揃え、同時に頭を下げる。
私たちが言い終わると同時に、彼らは光の中に消えていった。
静けさだけが残された。
でも、寂しくはない。
「二人とも、行っちゃったね」
「そうですね」
「とりあえず、戻ろうか!」
「そうですね!」
だって、これから本当の意味で、私たちのゲームがスタートするのだから。
その決心を胸に、私と陽彩は二人で始まりの街に帰るのだった。
待っていろ、最高最強の性癖ライフ!!!
私は【性癖】【憑依フェチ】の力で思い切りこの世界を楽しんで、環境さえ乗っ取ってやる!!!!
次回、少し予定変更して申し訳ありませんが、掲示板回を挟んで序章完結です!
頑張りますので、応援よろしくお願いします!
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次章のキーワードは……「スク水」「パーカー」「ロリ」そして、「包帯」!
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