最後に勝つのは『拗らせた性癖』
「私たちは、お前をぶっ倒す者だ!」
『私たちは、あなたを倒す者だ!』
私と意識の中の陽彩はブーに向かって同時に叫ぶ。
この身体は大きく変わった。
濡羽色の生糸のような美しい髪は下品なピンク色に染まり、ストレートヘアは風に結ばれツインテールへとチェンジ。
校則遵守でピシッとと着こなされたブレザーは徹底的に着崩され、胸元は豊満な胸が作り出す谷間がバッチリ見えており、スカート丈常にパンツが見えそうなほど短く、誰がどう見てもエッチでだらしない恰好になり下がった。
私は【性癖】を発動し、陽彩の見た目を好みに変身させた。私の性癖どストライクな姿に。
ブーは変化した私の出方を伺い、間合いを取る。
互いの距離は五メートルほど。
強い風が砂ぼこりを巻き上げ、私たちの間を抜けてゆく。
風に吹かれ、森がざわめきだす。同時にピンクのツインテールも一緒になって暴れだす。
毛先が視界に入ってくるのも気にせず、私はブーを睨み続ける。
「陽彩」
風音にかき消されるくらいの小声で、陽彩に話しかける。
『なんですか?』
「アイツのことどう思う?」
『人の精神に入り込んでるんだから、聞かなくても分かるでしょう?』
陽彩の指摘の通り、彼女の考えはもうわかっている。
でも、
「本人の口からちゃんと聞いておきたいと思ってね」
私は彼女の口からその言葉を聞きたい。というか、言わせたいんだよね。
彼女が抱くその感情を。
『そりゃあ、もちろん』
陽彩は答える。
そして、
「絶対に許さない!」
『絶対に許さない!』
私たちは声を揃えて、駆け出す。
変身したおかげで速力も上がってる。向こうが構え終わる前に間合いに飛び込み、先制パンチを見舞う。
よろけたところへ、ワンツーパンチ。ブーの反撃のアッパーカットもギリギリかわせる。
いいね! この身体! すっごい動ける!
「何だそのスキル……!?」
「こういう性癖なの。説明すると長いけど」
「だが、ドマイナーに変わりはない! レアスキルだろうが、隙の無く構築されたテンプレには勝てないんだよ!! スキル同士がガッチリとかみ合っているテンプレのおかげで俺の性癖力は6000に届いてんだ!!」
ブーは思い切り力んで、筋肉を肥大化させる。スポーツウェアっぽい服がはち切れそうなほど、パンパンな筋肉。
「力こそ、パワーだ!!」
筋肉ダルマは丸太のような腕を振るう。
私は岩のようなヤツの拳を手のひらで受け流し、瞬時に片脚を引く。
スカートの丈が短い分、足も動かしやすい!
先ほどまでより、速く、強く、足を振るって、ヤツの背中に蹴りを入れてやる。
ボレーシュートのような形で蹴飛ばすと、ヤツはボールのように転がってゆく。その行き先には巨木。彼はそのまま、木の幹に身体をしたたかに打ち付ける。
「6000ねぇ……。立ちな。遊びは終わりよ!」
『ルナさん、あんまり調子に乗らない方が』
「舐めやがって!」
『ほら……』
陽彩の心配は的中し、ブーは激昂し向かってくる。
腕を高く引き上げ、掴みか殴打のどっちかの構え。
今回は……、殴打! パリィで決める!
「おっぱいパリィ!!」
胸をググっと突き出そうとする。
すると、
『違う!!』
という、陽彩の強烈な拒絶の言葉と共に、突然胸を突き出せなくなる。
ビックリ仰天し、私の思考は固まる。
「馬鹿め!」
動けない私は、そのままヤツに胸を掴まれた。
握り潰されそうな握力に私たちは悶え苦しむ。
「そのまま死ねぇ!」
ヤツは背負い投げの要領で私を投げた。強く地面に打ち付けられるも、身体が自然と受け身を取ったおかげで、ダメージは少なく済む。
急に声を荒げた陽彩に問う。
「何で止めるの! おかげでまともに喰らったじゃんか!!」
『ルナさんの判断が悪いから止めたんです! 今のはどう見ても掴みの構えでした!! そのあと、あなたの思考まで止まるとは思いませんでしたが……』
うそぉ!? 私にはどう見ても殴打の構えに見えたけど。
「似てて分かんないじゃん! それを瞬間的に判断するのは無理! てか、頭の中でいきなり大きな声出さないで! ビックリするから……」
『ごめんなさい……。その……、受け身はとりましたから』
「一人で何ぶつくさ喋ってるんだ? 気持ち悪い!」
『来ますよ!!』
陽彩とやり取りしている途中でブーが蹴りかかってくる。素早く身を引き、すんでのところで何とか避ける。
身体の主導権はこちらにあるけど、何かギクシャクして戦いづらい。
というか、人間の判断速度じゃ、掴みかパンチかなんて分かんないし。
まてよ……。それなら彼女に判断してもらえばいいんじゃん! それに若干戦うのをアシストしてもらえば……!
対人戦でAIアシストはズルい? いやいや。この身体はもともとAIキャラのものだし、別に問題ないっしょ!!
「ねぇ、陽彩? 掴みかパンチか分かるなら教えてよ。あんなん、人間の反応速度じゃ判断するの無理だもん」
私はブーと戦いながら陽彩に聞く。
『分かりました』
「あと、ちょっと戦闘のアシストしてくれない? ほら、私たち二人で一人の憑依体だし、協力しよっ? ねっ?」
『まったく盗人猛々しいというか、なんというか。いいですけど……』
陽彩は呆れ気味に承諾してくれた。でも、その承諾には含みがある。
「けど?」
『その代わり、アレはやめてください』
「アレって何?」
私の脳天に向けて、ブーの巨大な腕が振り下ろされる。私は両腕を頭上でクロスさせてそれをガード。
そのまま腕を押し返し、腹に蹴りを一発くれてやる。
『そのっ……! 私の……、胸で攻撃を弾くやつです!!!』
「それはダメ。必殺技だし」
『じゃあ協力しませんよ』
「えー。協力してくれなきゃ、みんなの前で『アレ』やっちゃおうかなぁ」
『ア、アレってなんですか?』
「またまたぁ。アレだよアレ。陽彩のい・ち・ば・ん、恥ずかしいこと! 私はさぁ、あなたの心を覗いちゃってるからそれは丸わかりだし、あなたの意思に関係なくこの身体を好き勝手できるんだよ? だからぁ、みんなの前で――」
『分かりました! 協力します! む、胸で弾くのもやっていいです!!』
陽彩は慌てて私の声を遮り、条件を飲んだ。
「そうこなくっちゃ!」
交渉成立!
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」
ブーが来る! また、腕を掲げた構え。
掴みか、パンチかどっち!
『掴みです』
陽彩の声が静かな感じで脳内に響く。
彼女を信じて気持ち大きくバックステップ。また虚空を掴まれたら困るからね。
腕が身体の直ぐ前に振り下ろされる。その手は開いており、確かに掴みの構えだった。
ブーはすぐさま、逆の手で追撃を図る。
『パンチ!』
間髪入れずに、陽彩の指示。
掴みでないなら!
「おっパリィ!!」
胸でパンチを弾き、のけ反る顎先に掌底をぶち当ててダウンを取る。
私の頭にはグーで殴ることしかなかったけど、陽彩アシストの殺意高いな。
『これは戦いですから』
可愛い顔してやるんだよなぁ、陽彩は。でも、そこがいい。
「クソッ、クソッ。なぜ、なぜだ!! どうして、急にこんなにも押されなきゃいけない! これが、この【性癖】の組み合わせが最強テンプレのはずなのに!!」
ブーはよろよろと立ち上がり、冷静さを欠いてただ突っ込んでくる。
「さっきキバさんが言ったように、このゲームの強さはスキルの強さでも、その組み合わせでもない! その性癖に対する愛の深さだって、実感できた! だから、私が抱く『憑依』への拗らせた愛の前では、そんなイヤイヤ使ってますみたいなテンプレも、環境スキルも通用しない!!」
「憑依なんて、そんなもん流行んねぇんだよ!!」
ブーはフルスイング殴ってくる。
「そんなんどうだっていい! 流行らないなら流行らせるまで!! そんな環境なんて乗っ取ってやる!!」
彼が目の前に迫る。片手は掴み、片手はパンチの体勢で、捌き切るのは困難。
そのとき心臓が、ドクンと高鳴る。
周囲の音が遠のいてゆき、なにも聞こえなくなる。
切迫した状況だってのに、気持ちがスーっと落ち着き、拳がゆっくり迫ってくるように見えた。
『いくよ、陽彩』
『はい! ルナさん』
一ミリ、一ミリ、両手が迫る。
身体と間一髪の距離に攻撃がくる。
そこで私は一言呟く。
「憑依解除!」
「なっ!?」
ブーはおののく。
「攻撃が……すり抜けた!? 確かに、俺は急に現れた変な女を殴ったはず……!」
彼の言うように、その攻撃は何にも触れなかったのだ。
「残念でした。想定とはちょっと違うけど、どうやら私の憑依動作中には実体ないし、当たり判定がないみたい。殴るなら、憑依を解除したときに位置がズレた陽彩を殴らなきゃ」
そして、
「憑依」
と唱え私は再び陽彩の身体を乗っ取る。
「さぁ、終わらせようか」
『さて、終わらせましょう』
陽彩とともに決意は十分!
ブーは攻撃をあり得ない方法で躱され、意気消沈。伸びていた背はすっかり丸まり、両の腕もだらりと垂れている。
心のガードが緩い今ならいけるはず! 憑依の基本、憑りついて支配する!! 男にやるのは嫌だけどしょうがない!!!
「陽彩いける?」
『分かってます!』
私は一気にブーのもとに駆け寄る。やる気のないフックを潜りぬけ、彼の眼前へ躍り出る。そして力強く拳を握り締め、思い切り振りかぶる。
それを見て、彼は腕を構えガードを作ろうとする。どこまでも往生際の悪い。
『ルナさん、今です!』
「憑依解除! からの、憑依バインド!」
私は陽彩の身体を抜け、ブーの肉体に入りこむ。
同時に身体の制御を奪って、ガードの構えを解く。
「か、身体が動かない!?」
「そりゃ、私が乗っ取ったから。趣味じゃないけどね!!!」
「うぉりゃああああああ!!!!!!」
陽彩の全力ギャルパンチが迫る。
「だが、お前もこのままお陀仏だ!」
ブーのその主張を鼻で笑ってやる。
「そんなわけないじゃん」
私はパンチの着弾直前で、
「憑依」
陽彩の身体に憑りつき直す。
そして、
「往生せいやぁああああ!!!」
陽彩が構えた拳をフルスイングで無防備な身体へと叩きこんだ。ドッという鈍い音が腕から伝わってくる。
「ぐッはぁ……」
ブーは力なくぐったりと私の腕に体重を預け、片腕で支えられない重さに私は思わず地面に彼を転がした。そのまま、倒れたままなところを見ると、気を失っているようだ。
ピコンという電子音とともに、目の前にメッセージウィンドウが飛び出してくる。
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【称号:初勝利!】
『性癖決闘、初勝利おめでとうございます! 新たな世界へ踏み出した貴方に称号をお送りいたします! 理想のバディと良きVRライフを!!』
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「勝った……んだよね」
『ええ、その通りです』
その事実に嬉しくなり、無意識に手を閉じたり、開いたりして、勝利をかみしめる。
同時に、今まで感じていなかった精神的疲労がどっと襲い掛かってきて、思わずため息が出る。とはいえ肉体的疲労にはそこまででもないので、陽彩の身体の凄さを思い知らされる。
そんな感じで私と陽彩が勝利の余韻に浸っていると、
「てりゃあ!!」
気合いの入った可愛い声が聞こえてくる。
見ると、アオが鎌でバッドを切り裂いていたところだった。
「三人ともよくやった! あとは、リスポーンする前にこれをつけてっと……」
キバさんが倒れているブーとバッドのもとに足を引きずって近寄り、二人の手首に光る手錠のようなものをかけていた。
「これでよし!」
「これで、終わりですか?」
「ああ、これでようやく初心者狩りを捕らえることができた。巻き込んでしまって悪かったが、君らのおかげだ」
「ルナさん、陽彩さん、助けていただいてありがとうございました!!」
アオはとびきりの笑顔で深々と頭を下げる。それに遅れてキバさんも、ありがとうと頭を下げる。
「いいんですよ。アオちゃんとキバさんがいてくれなかったら、私も彼らの餌食でしたから」
そんなやりとりの最中、アオが私を舐めまわすように見て、
「陽彩さんのその格好も、すっごくかわいらしいです!」
と一言。
先ほどまで、死闘を演じていたとは思えない、乙女な会話。
「でしょ? 私が陽彩もこんな格好したらいいなぁ、って変身させたの」
『はじゅかしいから変身解いて!!』
わざと陽彩の心叫びを無視する。
「似合ってます、とても。憧れちゃうくらいに」
そう言われ、陽彩は黙りこんでしまう。
本当は嬉しいのはお見通しだけどね。流石に言うのは野暮だと思って黙っておいた。
初心者狩り、成敗!
次回でチュートリアル終了です!
ここまでお読みいただきありがとうございました! まだまだ頑張ります!
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これからも性癖を刺激できるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!
次章の新キャラは属性多目の予定です!




