見ててください! 私の、憑依!
8/13 【憑依】のスキル効果部分に、性癖力に関する項目を追記しました!
3/31 性癖力に関する修正
歩き続け、引きこもりオタクの足はもうパンパン!
だけど目的地もボスモンスターも見えてこないし、キバさんも歩みを止める気配はない。
「うわっ!」
「大丈夫ですか?」
足がもつれて木の根に躓いた私に、陽彩が手を差し伸べてくれる。でも、この泥だらけの手で綺麗な手に触れるのは気が引ける。
「いいよ。私の手、汚いし」
「そんなことないですから。気にしないでください」
その言葉に甘え、彼女のすらっとした手を取る。すべすべで、柔らかい手。
その肌触りと手の温もりを意識すると、なんだか変な気分になりそうになる。照れてるような、むず痒いような、鼓動が高まってくるような。
繋いでる手からそれが陽彩に伝わりそうな気がしたから、慌てて手を解いてキバさんを追いかける。
森の奥に進むにつれ木々はその密度を増してゆく。見通しも足場も酷いのなんの。
それ加えて、スライムとの遭遇頻度も上がってきた。出会う度に陽彩が相手をして難なく倒していくけど、たまにスライム濡れになるのが気の毒でしょうがない。ただ、肩代わりしたいとは思わないけど。
しっかし、気味が悪い。段々と霧がかってきたし、なぜかファンタジーの世界には似つかわしくない柳の木が目につくようになってきたし。果てには、どこからか見られているような視線も感じる。
「なんか、幽霊でもでてきそうな雰囲気ですね……」
「このフィールドにはスライムとボアファングしか出ないから安心しな」
「ボアファング?」
「目的のボス。イノシシの化け物ってのが近いかな」
そういうエンカウントしかしないと聞いてホッと一息。多分、感じていた視線は気のせいだったのだろう。
いや。やっぱり変だ。気配ではなく、聞こえてくる音が。
足音が一つ多い。……、気がする。
もう一度、耳を澄ます。
今、木の枝を踏んで折ったのは私。草むらを掻き分けて進むのはキバさん。規則正しいリズムを刻んでいるのは陽彩。
――そして、もう一つ。
微かにではあるが、どこかで草を踏む音がする。
「止まれ!」
キバさんは私たちを制す。
多分、彼も気づいたんだ。私が感じた『何か』に。
「キバさん」
「静かに」
その一言でこの場は静まり返る。
気を張り詰め周囲を探ると、互いの呼吸の音まで聞こえてくる。それに、足音がだんだんと大きくなってきていることも。
キバさんと私はその方に顔を向け、目にする。
薄もやの中にギロリと輝く二つの光を。
「跳べ!!」
その光を認めるや否や、キバさんは私たちを巻き込み道脇へ身を投げる。
地面を揺るがす衝突音。
目の前の木が折れ、空を飛び、私たちがいた場所に倒れる。
口の中がジャリジャリ……。手のひらも擦りむいてヒリヒリするし。とはいえ、直撃はすんでのところで逃れたからよし! 陽彩も無事! 死ななきゃ安い!! でも、今のは一体!?
「キバさん……、何が……!」
「噂をすればってやつさ。見ろ、アレを」
彼が指さす先には軽自動車くらいのサイズの巨大イノシシ。特徴的なのは口から伸びる一対の牙。象の牙のよりも巨大なうえ、先はかなり尖っていて見るからに危ない。
「あれがここのボス、ボアファング。その名の通り特徴的な牙をもったイノシシだ」
出た! ボスモンスター! 待てよ。そういうことなら……。
「アレ倒すんですか!?」
「そうさ! そして、もう戦いは始まっている!」
ボアファングを見ると、既に視線は陽彩の方へ。
「陽彩、避けて!」
陽彩は横に転がり、ボアファングの突進を回避。
かわされたボアファングはその勢いのまま、木を二、三本なぎ倒す。
あんなん喰らったら一撃でお陀仏だ! 陽彩が攻撃を喰らわないように回避を命じ続けるけど、一向に反撃の機会がない!
陽彩は私が指示しないところでも、ある程度自己の判断で頑張ってくれてる。必死にボアファングのヘイトを受け止め、避けるときも背後にいる私たちと軸が被らないように位置どってくれている。
その上、回避をしつつボアファングにパンチを繰り出してもくれる。ただ、あまり効いているようには見えない。
クソッ! 一体どうしたらいいの!
自然と舌打ちが出る。私の悪い癖。
そんな私を見かねたキバさんが叫ぶ。
「このゲームで大切なのは怒りじゃない、性癖だ。逆境は全部、己のフェチが切り開く。【性癖】を使うんだ」
【性癖】……!
「でもどうやって?」
そう言われても、私にはそれが分からない。
「簡単なことさ。自分の癖を思い浮かべ、自分を信じて性癖を惜しまずさらけ出せばいい」
――性癖を惜しまずさらけ出す。
なんだ。そんな簡単なことが発動条件だったとは。
性癖をさらけ出すこと。それすなわち、私がこの世界に来た理由! だから、その準備はとうにできている!!
私の性癖は『女の子の身体を乗っ取って、好き勝手する』こと!
乗っ取る! 乗っ取る!! 身体を、乗っ取る!!!
私は憑依フェチだ!!!!
「憑依!!!」
全力で叫ぶ。
その瞬間、私は半透明になり感覚を失い、身体がフワリと宙へ。そのまま陽彩の方に吸い寄せられ、私の彼女の身体が重なる。
感覚が、戻ってくる。しかしそれはさっきの感覚とは違う。
鼻をくすぐる爽やかなシャンプーの香り。
少し身体が前方に引かれる、両肩にのしかかる新鮮な重み。その発生源に目をやると、パンパンに膨らんだブレザーに阻まれ、足元が見えない。初めてで、そして一生味わうことのなかったであろう経験。
視界の上側を覆うサラサラとした黒髪。
「両手を結んで開け」と頭で命じると、すらっとした手がグーパーする。ついでに腕をさすってみると、ツルツル、すべすべ。まさしくさっき感じた感触。
「これは……!」
そう呟くと、鈴を転がすような声が私の体内に響く。
間違いない。これはまさしく、陽彩の身体!
ついに、成し遂げた……!!
「この身体、私が乗っ取ったぁ!!!」
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【性癖】:【憑依】発動
『アバターに憑りつき、操作可能にする』
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