初戦闘はドロッドロ! 美女とスライム、お戯れ!
8/23 一部会話を修正しました
町を抜け、丘を過ぎ、キバさんについて行くこと、しばらく。
私たちは町はずれの森の入り口にいた。
その道中はキバさんに導かれて迷うことなく来れたわけだけど、町から森まではビックリするほど遠かった。キバさんは「軽い散歩くらいの距離」なんて言ったけど全然そんなことはなく、実際に待っていたのは引きこもりには辛いハイキング。
でも、私がヒィヒィ唸ってたり、ぼつぼつ弱音を吐いたりするたびに、「大丈夫?」とか「ちょっと休憩します?」とかって、陽彩が私の傍まで来て言ってくれるのは悪くないね。控えめに言って最高。
「この先が目的の森だ」
障害物のない開放的な丘から一転、目の前には木々が生い茂った薄暗い森が広がっている。
「この先はモンスター出るけど、準備はいいかい?」
キバさんは私の顔を覗き込む。
「まあ、それ倒しに来てますからね」
「じゃあ行こうか」
「行きましょう」
そう言うキバさんの微笑みもカッコいいけど、やっぱり陽彩の笑顔の方がいいね! 普通にどっちも顔の良い人たちなんだけど、単純に好みの問題。やっぱり『好きな顔』がニコってしてくれると気分が高まる。
「あれっ?」
鼻の下伸ばしてたら二人がいない。
目を凝らすと二人は森の奥へズンズンと進んでいってる。
「ちょ、ちょっと!!」
端から見れば完璧お似合いカップルなんだけど、陽彩は私のバディだから! 私に寝取られの癖なんてないから!! そもそもAIにバディを寝取られるなんて前代未聞だから!!!
「待ってー!!!」
キバさんから陽彩を取り戻すべく、私も二人を追いかけて森の中へと進んでいった。
◇
二人に追いついて森の中を進むけどなんともいやーな感じ。
ちょっと暗くて、空気はヒヤッとしていて、じめっとしていて、なんか怖い。なんか私の性格を……、って誰が森女じゃ。でも森ガールって言うと聞こえはいいな。
そんな感じに自分に自分で突っ込みを入れていると、ふとさっきのことを思い出す。
「ねえ、キバさん? 紅いコートを着た、銀髪長身でものすっごくいいおっぱいの持ち主の美人さんって知ってます?」
一応、彼女がCMに出てる人ってのは伏せておいた。
だってそういう約束だもんね。
「……、さぁ。知らないな。
でも仮にその人を知ってたとして、『知ってても教えられない』が正しいかな。プレイヤーのプライバシー保護の観点から、そういう情報は知ることはできないし、どこかで知ったとしても教えられないのさ」
「そうですか……」
流石、運営元が大企業なだけあって、その辺りの理念はしっかりしてる。
「さっき初心者狩りに絡まれたんですけど、颯爽と現れて私たちを助け、名前も名乗らず去っていってしまったんです。だから、いつか会ってその、お礼とか名前とか、いっぱいお話したいなって」
「なら、ソイツに会えるように、頑張らないとな」
「まずはこのクエストから、ですね!」
二人がそう言ってくれて、私もなんだかやる気が漲ってきた。
それじゃあ頑張りますか!
そのときだった。
突然、背後の草むらがガサガサと音を立てて揺れ出した。
「何っ!」
「私の後ろに!!」
陽彩の凛々しい声に従い、彼女の後ろへ。
茂みの揺れはさらに大きく、激しく。
大きめの猫だったらいいなと思ったけど、全然そんなことなかった。
出てきたのは黄緑色のスライム。
私の膝くらいのデカさ。ヌルっとして、テカテカ輝いてる。
プルプルの水まんじゅうみたいで美味しそう。でも毒々しい蛍光色だから食べようとは思えないけど。
「スライムか。逃げてもいいが、肩慣らしにはちょうどいい。おい、陽彩とアイツを戦わせてみろ」
「戦うんですか?」
「そう。なに、君は簡単な指示を出せばいい。それに、既にあの子はやる気みたいだけどね」
両手の拳を構えスライムと対峙する陽彩。
私の視界の端には逃走というアイコン。
確かに、私の指示で逃げてエンカウント回避をすれば戦闘は避けられるみたいだ。
どうしよう。目的はボスモンスターだし消耗は避けたい。
ゲーマーとしての勘がなんとなくやめておこうと囁いている。
陽彩と目が合う。
「スライムくらい、どうってことないですよ!」
余裕の笑み。
目には闘志の炎が灯り、少し上がった口角からは自信がうかがえる。
「やろう! 陽彩」
「任せてください!」
陽彩は私の前へ立ち、半身でスライムに身構える。
その場でプルプルと小刻みに震えるスライム。なんだか、陽彩の醸し出すオーラに怖がっているようで可愛い。初級モンスターだけあって、優しくて弱っちい感じなのかな?
でも、何か引っかかる。向こうからこっちに突っかかってきたのに、怖がるか?
それに一回りくらい小さくなったような……?
突然、スライムの震えが止まる。
そうか!
「ぷにぃ!!」
スライムが跳ぶ。
まるで黄緑色の弾丸。
陽彩に狙いをつけ、スライムは宙を走る。
「弾いて!」
腕とスライムが触れ合い、張りのある衝突音が響く。
陽彩の左腕に弾かれたスライムは空へ。
「はッ!!」
陽彩の綺麗なハイキックがスライムに炸裂!
スライムは「きゅう」と短く唸って、弾力を失いデロンと伸びた。
モデルのように美しい陽彩の蹴りだけど、私の目線はどうしても荒ぶるスカートに引き寄せられる。
だってスカートがべろんと捲れて、その……、丸見えなんだもん! 白い素肌と対照的な、結構派手めの黒のパンティーが。意外と……、ああいうの履くんだね。
パンティーを眺めている最中、急に水風船が割れたような音がする。
音の方に目線を向けると、スライムの雨が陽彩に降り注いでいた。
黄緑色のネバっとしてドロッとしたスライムの残骸。それが陽彩の艶やかな髪に、整った顔に、新品同然に見える制服に、露わになった白と黒のセクシーな境界付近に、ピッカピカのローファーに、べっとりと纏わりつく。
重力に従ってとろりと彼女の身体から滴り落ちるスライム。それは口端やボディの頂点の出っ張った部分から糸を引いて垂れ落ち、彼女の大胆な輪郭を浮かび上がらせている。
ベチャベチャに汚れてしまった彼女は微妙に眉をしかめ、なんともいえない表情。
もうなんか、そういう行為にしか見えない。
そういうのを好きな人が見たら大興奮間違いなしだよ、これ。
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アイテム「スライム」を入手!
陽彩が装備しています。
能力値に変化はありません。
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私の前に現れるウィンドウ。
スライムを入手したけど、装備品扱いなんだ……。見た感じ、能力値上がってないし。そういうプレイ用アイテムかな……。
「なんか、このゲームのスライム、粘度高いっすね……。しかも装備品だし、そのくせ能力値上がらないし」
「レアドロップ、ラッキーだな。まあ、彼女の能力値が上がらないのは、対応する【性癖】がないからさ。その【性癖】があれば、液体系のアイテムを装備したときに能力値が上昇するようになる」
「ちなみに聞きますけど、それはなんて名前の【性癖】ですか?」
なんとなーく想像はできてるけど……。
「確か……、ぶっか――」
「あー! はいはい! わかります、わかります!! 確かに私にそういう癖はありません!!」
私の予想のど真ん中なスキル名がキバさんの口から出かける。
残念ながら、私にその癖は無い。
だって、髪とか制服についたら洗ったり落としたりするの大変そうだし。目とかに跳ねそうで嫌だし。基本的に私たちはかけられるだけだし。
っていうか「確か」って、言わなかった? AIが思い出すほど似たようなのがあるの……? 私の貧弱な想像力ではそれ以上思いつかないけど。
無心で陽彩の装備しているスライムを外すと、身体に纏わりついていたスライムはきれいさっぱり消え、その表情も穢れなく晴れる。
それと同時にキバさんが残念がっていた気がするが、きっと気のせい。
多分、そう。だってAIに特定の嗜好があるとも思えないしね。
湧き上がる感情を飲み込み、私たちはさらに森の奥へと向かうのだった。
陽彩が浴びたのは『スライム』です。『スライム』ですよ!
次回、乗っ取ります。
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