一也くんが大好きだよ
一也くんからの突然のキスを受けて、美優の頭はパニックになっていた。
美優ファーストキスしちゃった。
ゲームセンターの騒音が全く耳に入らない。
どうしよう?どうしよう?
恥ずかしさよりも、この場をどうしていいかが分からなくなり、目を何度もパチクリしながら、今のは夢だったのでは無いかとも思ったが、唇にまだ温もりが残っている。
だけど…。
キスをしてきた当の本人の一也くんは美優よりも慌てていた。
一也くんはぐるぐると美優の周りを回って、ただただ同じ言葉を何度も繰り返していた。
「あ…え…あ、オレ、何て事…。あ…え…あ、オレ、何て事…」
その姿はいつも冷静沈着な一也くんからは想像もつかなかった。
「か、一也くん」
美優の声も耳に入らないようで、同じ動きを繰り返している。
一也くんに美優の声が届かない事なんて初めての事だった。
一也くんは、どんなに遠くにいても美優が呼べば必ず答えてくれるはずなのに。
「一也くん!」
挙動不審の一也くんの両手をぎゅっと握り締め、彼の目を覗き込んだ。
落ち着き無く動いていたカサカサの目が美優に気が付くと、次第に色を取り戻し、いつもの一也くんに戻っていく。
「あ、オレ…」
「一也くん大丈夫?」
美優の問いにコクンと頷いたものの、その後の言葉が続かず、手を顎に置いたまま美優をじっと見た。
「ごめん」
「ごめんってキスの事?」
その単語に極端に反応し、耳まで真赤にして、ブルブルと首を振った。
「まぁ、まぁ…。確かに、その突然ごめん。ファーストキスはもっと考えてしたかったのに…。頭に血が上ってた…」
そこで、一也くんは言葉を区切り、長く伸びた前髪に手を触れると、いつも隠れている片目が見えた。
「美優にはオレだけを見ていて欲しい。今もこれからも…。オレ、こう見えて嫉妬深いんだ。本当言うとクラスメイトにも美優の友達にも…。美優の家族にも嫉妬してしまうんだ」
…すごい、人にこんなに愛される事ってそんなに無いよね?
美優、めちゃめちゃ愛されてる!
「大丈夫だよ、美優は永遠に一也くんだけのモノだよ!」
「美優…」
「さっき一也くんが聞いた事に答えるね!美優は一也くんの事大好きだよ」
そう答えると一也くんは心から安心したように、ふわりと笑った。