プリンセス
人間は食べなければ生きていけない。
眠らなければ生きていけない。
呼吸をしなければ生きていけない。
…などと人間にはやる事がたくさんある。
これ等の事は必要不可欠な事である事に間違いは無い。
一也くんは美優に。
「オレは美優がいなければ生きていけない」
って言うけど実際美優がいなくても一也くんは生きていけると思う。
頭のいい一也くんならその事分かっていると思う。
だからと言って、一也くんは嘘をつくような人ではない。
と言う事は一也くんは本心でそう言っているのだろう。
イケメンでスタイル抜群で頭も良くて運動神経も良くて非の打ち所の無い一也くんにそこまで言ってもらえるなんて、美優は本当に幸せ者だ。
その事を周りに話すと、『騙されてるんじゃないの?』とか言われるけど、美優は『それは断じて違う』と言える。
だって、一也くんが美優を騙して得する事なんて何も無いもん。
「え?バイト増やすって?どう言う事?」
その日の放課後、いつも通り美優の右隣には一也くんがいる。
その左手を握り締める手に力が入ってしまう。
「ごめんね。美優。これから土曜日もバイト入る事になったんだ。それから平日の夜も何日か働こうと…」
「どうして?」
一也くんの言葉を遮ってしまった。
「今だって日曜日会えないの寂しいのに…」
言ってからしまったと思った。
そんな事言ったら一也くんを困らせるだけだと分かっていたのに。
「ごめん。美優。オレだってずっと美優の側にいたい。時間が許してくれるのなら、美優の側から離れたくない」
前髪の隙間から見える右目が悲哀の色を写していた。
一也くんがバイトをする理由は、大学費用のためだと言っていた。
一也くんの家は決してお金が無い訳じゃない。
でも、早く自立したいと思っている一也くんは少しでも自分のお金を貯めたいらしい。
バイトで貯めたお金を運用資金にしているらしい。
難しい事はよく分からないけど、一也くんはすごいと思う。
そんな一也くんを応援してたけど…。
「なら美優も働く。美優も一也くんと同じ場所で働いて美優のバイト代全部一也くんに渡す。だから…」
「美優」
今度は一也くんに言葉を遮られた。
怒ったように眉を吊り上げていた。
一也くんが美優にそんな表情見せる事なんて滅多に無いから、ビクッとしてしまった。
「バイト先の人が体壊しちゃって暫く出れないと言うから、代わりにオレが出る事になったんだ、本当にごめん」
優しい一也くんは頼まれたらイヤだって断れない人だもんね。
そんなの分かっていたのに。
でも、一也くんの事だから、それでも美優との時間を選んでくれると思ってた。
なんて考えてたら、一也くんの口からとんでもない言葉が出てきた。
「その変わり、その人が仕事復帰してきたら、オレしばらくバイト休むよ」
「え?」
「当然だろう?美優との時間を奪われたんだから、ちゃんと返して貰わないと」
前髪に隠れていない方の目でウィンクしてから続けた。
「オレにとって美優は世界で一番大切なプリンセスなんだから」
くらっと軽い目眩を起こしてしまった。
ああ。
こんなイケメンにそんな事言われて卒倒しない女のコなんているはずない。
やっぱり美優は騙されてなんていない!
深くそう思った。




