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7 手がかりの様なモノ

「まださまよっているのか?」

先に榊が、知りたいなら直接聞けばいいと言った老人に問う。


『そうだ。いつも同じ場所に夜な夜な向かうようだがな』


「同じ場所?」

戸田の質問に壁の老人は人差し指を向ける。それは榊や戸田を指してはいなかった。二人は指した方を向く。その先は道がつながっていた。


『お前、見る限りでは只の物探りではないな』壁の老人は問うた。

「――」榊は答えず黙っていた。

『お前のようにあの娘のことを聞いた奴は他にもいたが、気をつけろ。今のあいつはまだ自分の事に気付いてはおらん』

「ありがとうございます」

榊は一礼をすると、壁の老人は消えていった。


壁の老人が消えると同時に戸田はその場に崩れた。

「大丈夫ですか?」

若干の立ち眩みだった。不思議なものが見えていた分、その異質感の処理が後回しになっていたようだった。その部分は戸田が培った『記者魂』なのかもしれない。

「君はあんなのがいつも見えているのか?」

「まあ、そうですね。慣れてはいますが」

榊は最初に会った時とは違いかなり上目線でその声には芯のような鋭いものを感じた。その芯はまるで真実を求めようとする記者のような心意気みたいなものに似ている感じがすると戸田は感じていた。


「どうするんだ?次は」戸田が立ち上がる。ふらつきが無いということは気分が安定したのだろう。

「直接訊いてみますか?」榊が壁の老人がさしていた方向を指さす。

「一度戻らないか?体勢を立て直したい」

戸田は一度別れた高山を思い出した。


「わかりました。私も一度会社に戻って案件片づけたいので」

二人は営業車で海原テレビに戻った。お互いに各種処理を行ってからもう一度会う約束をした。


「どうでしたか?榊は?」高山が戻ってきた戸田に訊いた。

「ああ、榊…」榊のことを話そうとしていた戸田はふと話すのをやめた。

「いや、特には。追加の情報もそんなに参考になるものはなかった。一応あの関係者の…えっと、藤本さんの話は一度、亡くなった彼女の地元で裏付けてもらうべきだろう」

「そうですか。分かりました」高山は少し不満のある顔で席を離れた。


自分の席に疲れた体をどっしりと座らせると、若干追い付かなかった今日一連の動きを脳内で論理的に順番良く組み立て直していく。解釈も含めたこの流れは記者になってから何度も行っている。

戸田は榊の一連の行動について、甚だ疑問ではあった。特に壁から老人というのは何かのマジックなのかも思ったが榊は憶することもなく対処していたのは何かと奇妙ではあった。

そして榊の情報はかなり正確性を得ている。それは事実だ。その状況であっても榊たちの言葉には必ず超常現象の類がまとわりついている、それは極めて完全にと言っていいほど邪魔だ。結果的に全くといっていいほどの証拠と確証がない。


――榊は何がやりたいんだ?


戸田はネットに出ている今回の事件の情報を見直していた。特段何かが変わっているわけでもない。亡くなった女子大生のイメージも悪くなっている。根拠のない情報が流れている状況に戸田はパソコンを閉じた。


そんな時会社の内線が鳴った。電話は榊だった。

『遅くなってすいません、そろそろさっきの続きをやろうと思います』

「じゃあ、現地で会おう。どこかで飲みたいしな」

『現地ですか?』榊の声が少し曇る。

「そうだ、さっきの老人がいた場所だ」

『構いませんが…、待ってますので気を付けてきてください。』

気を付ける?さっきの立ち眩みのことだろうか?問題はないと言おうとしたが電話はそこで切られてしまった。

戸田は受話器を戻すとデスクに帰ることを告げて会社を離れることにした。

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