3 手がかりと介入
天玄山の事件は死体損壊遺棄事件という残忍な内容だった。
最終的に遺伝子(DNA)捜査の結果、行方不明になっていた東里市郊外の大学に通う女子大生Aの物と一致していた。
そこから先は騒動となる。テレビ局はニュース取材特集が全てこの事件を中心的に扱うようになり、海原テレビの系列キー局である大日本テレビからも取材クルーが押し寄せたりと東里市では恐怖と不安が覆うようになった。単純な死体遺棄事件だけならばここまで騒ぎ立てるわけでないかもしれない。しかしそれが行方不明だった女子大生という、いかにもな前提が絡んでいる為か、各メディアはこぞってこの内容を大々的に報じている。
「もどりました…」
戸田とカメラマンの高山が取材現場から戻ってくる。
「お疲れ様です、今日はとりあえず勤務終了してください」
二人が時計を見るとまだ夕方だった。しかし、連日の取材漬けの為、かなり時間を割き続けている。
確かに戸田と高山はへとへとではあった。しかしこの後は取材した内容をまとめる必要がある。
「ワンパターンになってますね…。」
高山が編集からあがって来た特集のニュース映像を見ながらぼやく。
「まぁ、仕方ないだろう。初動も含めて後手に回っている分手がかりを見つけるのも難しいからな。」
高山のぼやきに戸田が反応する。戸田は取材の途中で買った週刊誌の特集を読んでいた。
戸田の週刊誌の誌面には「殺された女子大生の裏の顔!?」等という本当か嘘かもわからないような文字が躍っている。戸田もこの手のネタには反吐が出るほど嫌いな場合がある。仕事柄何が正しいかを見抜く必要がある以上、これらの情報が必要な場合もある。
「戸田さん」
「何ですか?」デスクから呼ばれて、戸田が反応する。
「明日大学に取材に行ってください。女子大生のことで話してもいいという学生さんが出てきたので」
「了解です、その人の情報あとでください。」
戸田が反応する横で、高山はパソコンを開いてネットを見ている。
「その雑誌の情報、結構反応大きくて、ネットの掲示板とかではほとんど女子大生攻撃になってますね。」
高山の声に戸田がモニターを覗く。ネタ元がメディアからでしかない掲示板での情報では各自の思い思いの意見が羅列している。ほとんどがネガティブな内容になっており、これでは参考にもならない。
単調かつ事件の動きもなく、不愉快な言葉で言えば『つまらない』事件の内容と化して、視聴者にも不愉快で且つ醜い内容へと変化している状況は、先に戸田が言った捜査の後手感がもたらしている。行方不明の時点で防犯カメラの映像は乏しく、元々犯罪なんてほぼ皆無なこの田舎の一地方都市での防犯カメラ設置状況は芳しくない。
しかもその行方不明をただの感受性の高い女子の家出では?と思われていた節もあり、警察も本腰でなかった感もある。そんな怠慢のような入り組んだ要素が絡まり続けた結果がこんな残忍な事件になってしまうのかと思うと、何のための警察だという不満にもなりかねない。
そこにメディアは何が出来る?等と問えば綺麗事になってしまうが、対岸でピーチクパーチクとうるさく騒ぐ事も一つの方法では無いかと、戸田は最近の報道体勢を見ていると思うこともある。メディアが多様化して、テレビだけがただ一つの媒体と言うわけにもならない。これも定年間近の老人の戯言かもしれない。
「なぁ高山、時間が合ったら営業の榊に会うか?」
戸田がぽつりと言った。
「いや、俺は結構です。まだ作業あるので」
高山は拒否をした。
戸田は内線電話で営業部に連絡して榊守を呼んだ。しかし榊は外回りのため不在だった。戸田は電話があった事を事務に伝えた。
榊から連絡がきたのは、それから30分後だった。
戸田は榊に天玄山にいた理由を聞いたが、行っていないと言っていた。
しかし話したいことがあると榊は言っていた。
「話とは?」
「電話と会社ではいえません。」榊は静かに言った。
「わかった。明日外回りの時に時間割けるか?」
榊は構わないと答え、戸田が時間と場所を指定した。
電話を切ると高山に行った。
「明日関係者に会うぞ」