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2 天玄山の悪夢

2005年の年末も近いある日、報道デスクからの連絡でたたき起こされた戸田は自分の車で東里市内の家から真夜中の天玄山へ向かっていた。


―ついに動いたか。


カメラマンの高山にも連絡を入れ、現地で合流する事を約束すると、ナビ画面の軌跡を追った。戸田は以前からある行方不明事件を追っていた。

それは約2週間前、東里市郊外の大学に通う女子大生Aがバイト後行方不明になったのだ。捜索願が出され、周辺の聞き込みなどを警察が行ったが情報はつかめなかった。誰かと会ったという聞き込み情報もあったが、結果は最悪な方向に動いていた。


戸田が天玄山のふもとの駐車場に着くとすでに警察は規制線を張り、現場検証を行っていた。カメラマンの高山も合流したが、既に始まっていたという。


戸田は携帯で本社の報道に連絡を入れる。現場は押さえられないと伝えると、現場の状況を知りたいと本社の衛星中継車も向かわせていると伝えられた。

規制線から出てくる県警の刑事達の姿を見ると、戸田はカメラマンを置いて聴きに入る。


「どうなったんですか?」

「すまないが、まだ話せない。追って県警本部で会見がある。」


戸田はそのことを聞くと高山と周辺の撮影に入った。

何箇所かで気になるところを撮影すると、今度は広場に出て、駐車スペースの確認を行う。

衛星中継車は中型トラックサイズの大きさと周辺にはさえぎるものが無ければならない。中継のテレビカメラは無線ではなく有線であるため、なるべく道路には干渉しないなどと言った制約が発生する。戸田は中継の場所と中継車の場所をほぼ確定させると、場所取りに車を用いることにした。本社に連絡して、中継車があと30分程度で現場に到着するという連絡をもらうと、車を動かそうと仮停めしていた車を取りに行こうと歩いていた。


事件の情報をどこからか聞いて野次馬がやってきている。野次馬の格好はどれも登山に適した格好に近いというとは、朝のハイキングに来て物々しい雰囲気に勘付いたところであろう。それぞれ目の前で起こった状況を話してはいるが、それが何かを理解する物は少ない。中には珍しい風景とばかりに携帯を開いて内蔵のカメラで写真を撮ろうとしている。


何か時代だな…、などと少し自分が老けたように感じた戸田である。だが、その中に感じている違和感を戸田は見逃さなかった。


ハイキング客の中に一人、登山にはにつかないラフな軽装でカメラも用意せずに静かに厳しい表情をした若者だった。戸田の疑問をよそに、掛けていた眼鏡を外して周囲を見る様などその動きには少し不思議なところがあった。


「戸田さん」高山に呼ばれた。

「なんだ?」高山の声に顔は向けず声だけで反応する

「本社からですけど、中継は別の記者に任せて県警本部へ向かってくれとの指示が来ました。録ったテープは一旦本社に持って帰ってくれとも」

誰だったか…、戸田には引っ掛かるところがあった。

「そうか。入替わりと場所は?」

「もう少しで記者が着くのでそのとき交代してくれと。本部会見が後30分ぐらいで始まるそうです。」

「わかった…」

返事が上の空になる。

「…どうしたんですか?」高山が気になる。

もう少しでわかる気がする…。戸田は思考回路をフル回転させる。どこかで見たんだあいつを…。


「おい、高山」回路が結果を弾き、戸田が高山を向く。

「あそこにいるあの青年…、あれはうちの営業じゃないか?」

戸田は、そこにいた場違いな青年を以前スポンサー物件の取材で担当した海原テレビの営業の顔と似ていた事を思い出した。確か名前は…。

「ああ、この間いましたね。確かさかきじゃなかったですか?」

高山が即座に返す。

「そうだ、名前が思い出せんかった。何でここにいるんだろうかね?」

「知り合いですかね?」

高山のボケともいえない返しに、戸田は眉をひそめる。

「いや、だとしたら歳も違いすぎるだろ」

「でも、歳差変わんないでしょう。確か出身は四国ですけど大学はこっちでしょ?もしかしたら同じ…」

戸田は少し考えた。後で聞いてみても良いなと…。しかし疑問に思ったのはその榊という青年の行動だった。


「アイツは何を見ているんだ?」


榊は規制線の外にはいたが、辺りをきょろきょろと見回したり歩いたりしていた。何かを探すような仕草だが、それは事件の手がかりを追い求めているようにも見える。しかし、その行動には違和感がある。その違和感を詳しく説明すると複雑ではあるが、戸田にとってそれは『熱』の有無として考えている。あの榊にはその『熱』がなかった。


この『熱』というのは至って単純ではあるが、事件の被害者の関係者だった場合、その手がかり的な物を探すという行動には、理由が知りたいという『執念』と犯人を恨む『怨念』が交わった得もしれない感情がどことなくにじんでる。それは怨嗟えんさ的な物で、仕事柄この感情の持ち主に出会うことが多い。事件が凄惨で悲惨である程この感情が強くなり、目を背けやすい物ではあるが、それを追い掛けて伝える必要性もあると、その『熱』の強さにおしつぶされることがある。


榊がなぜあの場所にいたかについては、後日聞くとして、戸田達はやってきた記者と交代して県警本部へと向かった。

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