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9 その男共、若干の難癖あり

戸田はそばの電柱に隠れようとしたが、榊が止めた。


「向こうに気付かれる」


だがその判断は遅かった。榊たちの行動に彼女の表情はもっと厳しくなると次の瞬間には姿を消した。

「消えた?」

戸田の声と榊の判断よりも早く、目の前に女子大生は現れ榊を見つめる。

「なに!!」

女子大生は榊をじっと見つめる。その眼窩は窪み闇しかなかった。榊が状況を理解した次の瞬間に榊は突き飛ばされた。榊はむなしく後ろにあったゴミ捨て場にぶつかった。


「榊君!!」


戸田が叫ぶと女子大生は戸田の方を向くと飛び掛かる。戸田はこぶしを作りファイティング・ポーズの様に構えたが、それは逆効果の様だ。女子大生はそのまま戸田の首を絞める。


「うそ……、だ……」


強く絞められているため意識が遠のく。そもそも女子大生は榊と私以外誰身も見えなければ、触れられるものではないはずだ。


――ではこの状況はなんだ?夢なのか?いや、夢ならここまで痛みが強い事があるのだろうか?


その時、ごみ捨て場から起きた榊が戸田と女子大生に近づく。そして二人の間に左手を入れるとまた右手を唇につけて印を唱える。


『――滅波惨壊魂めっぱさんかいこん


榊の詠唱と同時に戸田と女子大生の間が光り、間に衝撃波が走る。女子大生は飛ばされ、戸田を締め付けていた、腕が外れる。そのまま戸田はその場で崩れせき込む。女子大生は10メートルほど飛ばされるが体制を立て直す。一度榊たちを見るが、そのまま消えてしまった。


「大丈夫ですか?」


榊が戸田に駆け寄る。戸田のせき込みは既におさまっていた。榊が締められた首元を見る。特に痕も残っていないので安堵する。


「しかし、あれはどこに行ったんだ?」

「わかりませんね。しかし…」


榊と戸田は女子大生が立ち止っていた、古い一軒家を見る。


「ここに何かがあるということか?」

「でしょうけど…、人の気配ありませんね」


榊は表札の無い家の周囲を見る。外置きのポストを見つけると、榊は中を漁る。中は整頓をしておらず、新聞やチラシが乱立していた。


「この時間に何の反応もないのも変だな。」

戸田が振り返ると、榊は携帯電話で喋っていた。

その榊の反応には些かの疑いと悔しさが表れている。

「榊君?」

榊が電話を切ると、戸田に振り返った。


「戸田さん、これで捜査はおしまいです。」


榊はさっきとは全く違う表情で言った。そこには失望と溜息の混じった表情だった。

「何?どういうことだ?」

突然の出鼻をくじかれるような動きに何を言っているのかわからなくなっていた。

「これ以上もう追いかけられません。」

榊は携帯電話を見ながら言った。

「何を言っているんだ?この家の人間を少し調べれば……」


足掻こうとする戸田に榊は自分の携帯電話を突き出す。携帯画面を見るとそれはニュースサイトの記事だった。


『中国道で事故、縁石に乗り上げ炎上』


書かれた記事をスクロールすると東里市在住の男性とその親族が事故で亡くなった記事だった。


「この記事なら私も前に読んだが……」

「その男の家がここ」榊がさっきの家を指さす。

「なに?」戸田は榊を見る。

「関係者が死んだ以上、これ以上何を探しても犯人には至れません。」

「ちょっと待ってくれ、ここまできて終わりだなんて……」


「犯人と彼女をつなぐ線はこの男の死によって消えました」

榊の一言に戸田は沈黙した。

「消えたってそんな一方的に……」


「信憑性皆無の情報に踊らされてどうするんですか?」

戸田ははっとした。榊の言葉に反論ができなかった。

「裏付けをすれば何とか…」

「この男と彼女をつなぐ線はあの『壁の老人』の証言だけですよ。警察がそこまで動くには情報と条件が足りないでしょうね」

榊の言うとおりだ。関わりのある人物が線上には出てきたが、それを知る関係者は人ではなく、だれにも見えない訳のわからないもの。榊とここまで進めた時点で、ここまで得た情報に証拠能力はない。さらに追い詰めたとしても被疑者死亡の可能性もあれば、ここまでたどった結論を証明させるだけの手立てはない。

「提案したとしても、この証拠は…。」

「ただの『戯言たわごと』みたいなものですね。」


榊はため息をつくと改めて戸田を見ていった。

「どこかで飲みますか?」

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