ピッキング犯
・までが問題編、・以降が解決編のような構成。
街中を歩いていると、アパートの部屋の前で怪しい行為をしている男を見つけた。
こそこそと扉の前をいったりきたりしている。
最初のうちは、友人でも待っているかとも思えたが、特に連絡をすることもなく、身をかがめて、扉を舐めまわすように見つめている。
これで不審と思わない方がおかしい。
しばらく様子を見てみると、男の指先に針金らしきものがちらりと見えた。
もしかしてこれは、ピッキングというやつではないのか―――
私は即座に警察に電話を掛けた。
数十分して、鍵穴に針金を差し込み続けていた男に、警官がやってきた。
ある程度の距離があるため、話し声は聞こえない。
ピッキング犯の仕草からして、身分証明等をしているように見える。
警官はしばらく話をし、最終的に男と一緒に階段を降りて行った。
おそらくは連行されたのだろう。これで凶悪犯が一人減ったと、私はほっとしていたのだが……
数日後、ピッキング犯と再会した。
あろうことか、あの時のように街中を歩いている時、あのアパートの部屋で。
しかも、今回は事情が違う。出会った時、男が部屋の扉を開け、出てこようとしていたのである。
頭の中に疑問符が多数浮かんだ。
男は捕まったのではなかったのか?
警官がグルだった、なんて考えにくいだろうし。
初犯だから厳重注意だけで終わったにしても、こんなに早く、しかも同じ場所で再犯するだろうか普通。
そもそも、男はどうやって入った?
今のご時世にピッキングは厳しい気がする。
鍵の構造的に、現在存在する大半の鍵穴に対して、ピッキングは通用しないという話をテレビで聞いた。
鍵を盗んだか、それとも複製したのか。
よほど、男にとって重要なものが、部屋の中にあったということか?
考えれば、考えるほど分からなくなった私は、警察に電話した。
しかし、犯行場所であるアパート名を伝えた瞬間、受付の警官が口を開いた。
「ああ、いいんです。その人は……」
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男は相当に用心深い性格だったらしい。
それ故、部屋の鍵の扱いにはかなり困っていたようだ。
衣服のポケットに入れてもスられる可能性がある。
カバンの中に入れても、ふとした拍子にひったくられるか、落としてしまうか。
そもそも屋外に持ち出す以上、紛失してしまう可能性は、どうしても避けられないのだが。
かといって、施錠せずに部屋を出るなんて、もってのほかである。
鍵をかけ、なおかつ安心して鍵を管理するには、どうしたらいいのか。
事件の日、男はようやく解決策を見出した。
ドアを施錠した後、男はその鍵を、扉の前にある新聞受けの中へと入れたのだ……