あと四話。
あと四話。
次の日になった。祖父の命日だ。
「こんにちはー!」
「こんにちはですー! 義母さま! 義父さま!」
「「こんちはー」」
朝から騒々しく入ってきたのは、弟2の一家だ。
元気が取り柄の弟2は、お嫁さんもその双子の娘たちも、元気だ。
「あらあら、朝早くから元気ねえ。フウタくん一家は」
「母さん! 今年は姉ちゃんも来てるってほんと?」
「ええ、本当よ。ほら」
「朝なのだから、声量抑えて欲しい」
「姉ちゃん! ひさしぶり! 元気だった?」
「うん。元気元気」
元気を分けて欲しい。
お昼前に、弟3の家族が来た。
弟2とは打って変わって、静かに入ってくる。
「母さん、父さん、こんにちは」
「こんにちは。おじゃまします」
弟3の娘はお嫁さんに抱かれてスヤスヤと寝ている。まだ赤ちゃんだ。
ふにゃふにゃとしていて、かわいい。
家族はみんな赤ん坊の末の娘にデレデレしている。
うちの家族はみんな仲がいい。
世間ではこんなことはあまりないと聞く。就職して独立したあとは、疎遠になることが多いらしいから。
「姉貴、ひさしぶり。……痩せた?」
「まあね。今年は夏に、プールとか海とか行ったからさ。ミツルは太った?」
「どこ見て言ってるの。太ってないよ」
弟3の言葉に一瞬ぎくりとした。
病気で痩せてしまっていたから。それがバレるとは思っていなかった。
「ダイエットはほどほどにしたほうがいいですよ」
「はい。気をつけます」
弟3のお嫁さんにまで釘を刺される。
ピンポーン。
あ、来たかも。
「あら? だれかしら。はーい! どちらさまですかー?」
「母さん、あたしのお客さんだと思うから、居間でみんな待っててくれる?」
「あらあら、わかったわ。みんな待ちましょうか」
あたしの言葉に、母はなにかを感じ取ったようだ。
「こんにちは。福田 守と申します。こちらは息子のすずです。ハナさんにはいつもお世話になっておりまして」
「あたしが来てくれるように、頼んだの」
「ハナさんとは結婚を前提にお付き合いさせていただいております」
すずくんはたくさんの人がいて、怖くなったのか、あたしの脚にしがみついて隠れている。
居間に全員集合したあたしの家族たちは、皆揃いも揃って、口を開けて呆けている。
どういう顔をしていいのか、あたしにはわからなくて、忙しく視線を動かす。
「すずくん? は、ハナちゃんの子? ではないわよね?」
いち早く硬直状態から脱出した母が問う。
「はい、違います。すずは私の連れ子です」
「はあ。そうですか」
未だ現実には帰ってきていないようだ。
「ほらほら、話はあとででいいから、先にお墓参り済ませちゃおう」
「それをハナちゃんが言うの? 驚きすぎて、父さんなんかはまだ意識が飛んでいるわよ」
父だけではない。三人の弟たちみんなも先ほどからまばたきをしていない。義妹や姪たちはいくらか立ち直っているというのに。
あはは面白いなあ。
そこまで予想外なことだったのだろうか。あたしが彼氏を連れてきたことが。
まあそうだろうなあ。
このままだと話が進まないし、時間も過ぎていってしまうので、お墓に行こうとせっつく。
ようやく、全員動き出して、出掛ける準備をし始める。
祖父の墓は家から歩いていける距離にある。とは言っても、三十分程度、林の中を歩いて行った場合の話だ。遠回りをして普通の舗装された道を行くとしたら一時間かかる。
秋とはいっても、もうコートなしで歩けないほど寒い。
そこまで歩いていけるか、あたしにとっては問題だった。
お墓参りには、家族総出で林の中を歩いて行くのが恒例。ただ、弟3の娘はまだ赤ちゃんであるために、弟3の家族だけは自動車で移動する。
あたしは、お医者さまに激しい運動は禁止されている。と、いうか、運動ができなくなっている。少し歩くと、息がきれる。さらに歩くと、体が痛みを訴えてくる。電車を乗り継いで帰省してくるのでさえ、痛み止めを飲んで騙し騙しきたのだ。
ある程度は整備されているとはいえ、道がでこぼこしていて、登ったり下ったりしなければいけない林の中を歩くのは、今のあたしには無理だ。
舗装された道を一時間歩くのも、無理だ。途中で休憩を入れないと、辿り着かない。
これのために守さんを呼んだと言っても過言ではない。あ、ちょっと前から、福田さんとは名前で呼ぶ仲になった。まだ少し慣れない。
守さんは昨日も今日も仕事があったのだが、休暇をとってもらって、今日は自動車で来てもらった。あたしも一緒に来れば、帰省するときに苦労しなくてもよかったのだが、実家で遠慮のない時間を少しだけ味わいたかったから、前日入りしたのだ。
きっと、この帰省は、あたしにとって最期になる。だから。
「母さん、すずくんは山道に慣れていないし、まだ幼いから、車で行ってるね」
すずくん、勝手にあたしの身勝手な理由のダシに使ってごめんね。
お墓参りはつつがなく終わった。