あと五話
あと五話。
「ただいま」
「あら〜ハナちゃん、おかえりなさい」
「おかえり。よく帰ってきたね」
「姉さん、おかえり」
「おかえりなさい、義姉さん」
「おばちゃん、おかえりっ!」
突然、帰省してきた、親不孝ものの娘にもかかわらず、あたたかく迎えてくれる家族。
そう、あたしは実家に来ている。完全に入院する前に、懐かしいこの家に帰ってきたかったから。病気であることは、告げる気は全くない。タイミングが合えば、打ち明けようとは思うが、そう上手くはいかないに決まっている。
両親には弱いところを見せたくない。
母も父も弟1も義妹も姪も、みんな元気だ。邪険に扱わずに接してくれる。
ひさびさに大人数の家族で囲む食卓は、にぎやかであたたかさが心に浸み込んだ。
「ハナちゃんもお酒飲む?」
「ううん。あたしは飲まないよ」
「あれ? そうだったかしら。じゃあ、お父さんとカズくんだけの分でいいわね」
お母さんは少し老けたけど、前と変わらずに、みんなに気を配ってニコニコして包み込んでくれる。
「姉さんはイケる口だったろ? どうしたんだ?」
「うーん。ドクターストップされちゃってね。控えているの」
「あははは、その歳で? あはははは」
「その歳っていうけどね。カズも二歳しか違わないんだから、気をつけなよ」
弟は昔からあたしに対して生意気な口をきく。けれども、いの一番に姉を姉として扱ってくれるのはこの弟だ。
「おばちゃん、いっしょに、あそぼう?」
「いいよ。亜季ちゃんはなにして遊びたいの?」
「テレビゲーム!」
「よーし! 負けないよー! おばちゃんこう見えても、テレビゲームの腕は確かだからね」
姪はかわいい。人見知りをしないで、おばさんと遊んでくれるいい子だ。
「ううう。もういっかい!」
「ふふふ。おばちゃんに勝つには十年早いのだよ」
「おいおい、ハナは大人気ないな。手加減してやったらどうだ?」
「お父さん、ゲームは遊びじゃないのだよ。これは真剣勝負なのだよ」
「子ども相手にそう言っても、全く格好つかないぞ。それよりも、向こうで彼氏のひとりやふたりできたか?」
「んーふふふふふふ。実はね」
「そうか。そうか。いいんだ。別に、焦らなくても、な」
「え、え、なんか、あたし、なぐさめられてる?」
父はあたしの良き理解者であってくれる。
「亜季ーお風呂の時間よー。義姉さん、亜季に付き合ってくれてありがとう」
「あ、亜季ちゃん、お風呂だって。いえ、あたしこそ、一緒に遊んでくれて嬉しいです」
「ぶー。つぎは、あきが、かつからね!くびあらってまってろよ!」
義妹は、弟にはもったいないくらいに、心根の良い子だ。
「だれが、亜季ちゃんに首洗って待ってろなんて言葉を教えたの?」
だれも心当たりがないようだ。これは、あれだ。弟2か弟3の仕業だろう。
ふたりの家族も明日、家に来るらしいから、そのときに問い正してみよう。
「それにしても、ハナちゃんも来るなんてねぇ。何年ぶりの参加?」
「ずっと来れなくて、ごめんね。休みがなかなか取れなくて」
「いいのよ。それくらいしっかりと仕事をしているってことなんだから。元気にしていてくれさえいればいいから」
「……うん」
「今年ももうこんな時期になったのね。明日はおじいちゃんの命日ね」
あたしが高校生のときまで生きていた祖父。
柔和な人で、家族はみんな慕っていた。
だからだろうか、何年も経っても、祖父の命日には家族で集まってお墓参りをしている。
ここ何年かはあたしだけ欠席していた。仕事を理由にして。
この日に帰って来れば、祖父の命日のために帰ってきたのだと思われ、あまり詮索されない。帰省をこのタイミングにしたのは、そういう理由だ。