あと十一話。
あと十一話。
「先輩、飲んでます?」
「はいはい飲んでますよ」
「はいは一回です」
「はい。飲んでます」
「本当ですか?」
あーあたしのウーロン茶が取られて勝手に飲まれた。
「これ、ただのウーロン茶じゃないですか」
「今日は自動車で来ちゃいましてね」
「えー先輩も飲みましょうよ」
「はいはい」
「はいは一回です」
「はい。今日は飲みません」
「飲みます」
「はいはい」
「はいは一回です」
「はーい」
「伸ばさないです」
「承知いたしました」
「かしこまらない」
「へい」
「はいです」
「はい」
バサバサと音がしそうなくらい、つけまつ毛をつけている後輩の相手をする。
お医者さまには、お酒は控えるように言われたので、飲まないようにしているが、社会人には参加しないといけない飲み会というものが存在するのだ。
「そーれーにーしーてーもー。先輩は彼氏作らないのですか?」
後輩は酔っている。
「新谷さんはどうなんですか?」
「えー、そうだなー。先輩になら教えてもいいかなー。実は、この間いい感じに運命の出会いをしちゃったのですよ」
ああ、酔っているんだなあ。それも相当。かわいそうに、明日は二日酔いだろうなあ。
いい感じの運命の出会いってなんだ。
「へえ、それで?」
「はい、それで、お持ち帰りしてみたんです」
酔いすぎではないだろうか、大丈夫だろうか、記憶は保っていられるのだろうか。
お持ち帰りって、お持ち帰りって。……すごいなあ。なにがすごいのかわからないけど、すごいなあ。
「はあ。それで?」
「キャハハー。あ、それでですねぇ、良かったんですよ、とっても。と、いうわけで私たちはもう恋人と言っても、過言ではないのですよ」
あひゃー言っちゃったーってそんな顔をされても、なにもあたしには伝わってこなかった。
ナニが良かったのですか。そして恋人と言っても過言ではないとはなんだ。どういう表現の仕方だ。
後輩は、酔うと、面白い。
「でぇ、先輩はどうなんですか? 先輩は」
でも、こちらになにか求めてくるのはいただけない。
「なにもなかったですね。これから忙しくなりますし」
そんなあたしの返答にブーブーと口を尖らせて抗議してくる。どこの小学生ですか。
まあ、そんなこんなで、普通にお仕事やら通院やらをしていたら、また一週間経った。
ええ、はい。未だに家族にはなにも話しておりません。
どうしようかなぁ。どうしようもないかなぁ。そうだなぁ。あと十ヶ月以上はあるはずだから、いいかなぁ。いいことにしちゃおうかなぁ。
そのときに、そのときのことは考えよう。はい。お終い。