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学校ジャージにビールとイカ下足

作者: よる

 週末は、一人暮らしの寂しさと開放感が味わえる物である。

 金曜の終業時間を過ぎ、二時間の残業を経た私はクタクタになった身体で帰路に付く。

 閉店が二十二時のスーパーで惣菜を漁ってから、もう五年も住んでるアパートに辿り着いた。一階の角部屋を借りている私の部屋は一番奥で、足音を響かせないようそろそろと歩きながら鍵を開ける。


 このアパートは何故かやけに足音が響くのだ。

 先の細いヒールを履こう物なら、あっと言う間に怒鳴り込まれる事だろう。


「ふいー」


 上の部屋に住んでいた大学生は内定を貰ったとやらで引っ越して行ったし、お隣さんは二人目の子供が生まれるからと、もっと広い所へと引っ越して行った。

 今、私はあまり周りを気にせずに生活出来ているので、そのストレスが減ってほっとしている。一人暮らしも一人の侘しさにも慣れ、独り言にも慣れた。

 

「あー……、疲れたー……」


 一応女らしさをアピールする為に買ったブラウスやスーツを脱ぎ、高校時代の遺物である学校ジャージを身に着ける。何度も何年も洗濯しているけれど、あまりボロボロにならない、貴重なアイテムだ。

 身体を締め付ける物が失くなったからか、気分が軽くなり冷蔵庫に買って来たビールを入れた後、元々入っていた冷えたビールを二缶手にした。帰り掛けにスーパーで買った惣菜を持ち、一人暮らしに夢を見ていた頃に買ったソファにどさりと腰を下ろす。


 そして、お尻がソファに触れるか触れないかのタイミングで、私の身体が光りに包まれた。ああ、またかと思いながらしっかりとビールとイカ下足のパックを握り締め、光が収束するのを待つ。

 やがて光が消え、部屋の様相が一変すると目の前にとっても綺麗な男の子がめっちゃ笑顔でこっちを見てた。


『お久し振りです、ゴンザレスさん』


 男の子のお尻で、見えない尻尾が盛大に振られているようなそんな笑顔だった。

 はっきり言おう、眩しい!と。


「あー、うん、久し振りだね」

『お元気なようで何よりです』

「君もね」


 プシュッと音を立てながら開けたビールに、興味津々で覗き込んで来る。

 苦笑しつつも、私はそれに構わず一気に口に流し込んだ。ぷはっと言いながら缶を口から放した時には既に中身は三分の一だ。ゴソゴソとイカ下足のパックを開け、一本摘まんで噛み付いた。


「んで?今度は何の相談よ?」

『あ、ええと、実は僕、正式にアーノルド隊に配属される事が決定したんです!』

「へえ、良かったねえ」

『はい!やっぱり貴女は女神様ですよ!』


 いや、女神はジャージ着ないと思う。


「違うよ。いつも言ってるけどさ、自分が努力した結果でしょう?」

『御謙遜を。貴女にお会いした方々皆、願い通りの人生を送っておりますよ』

「ふうん」


 あんまり、キラキラした目で私を見ないで欲しい。何だか自分がすごく汚い物のような気がしてくるから。


「あ、そういや婚約者とはどうなったのよ?」


 自分の色恋沙汰にはこの三年、無縁で過ごしているけれど他人の恋ばなは別だ。

 けど、出した言葉を即座に引っ込めたくなるぐらい、目の前の男の子は耳まで真っ赤に染めながら照れ笑いをしていた。


『じ、実はですね、テレーズも僕の事をお慕いしていますって言ってくれてですね』

「ああ、やっぱり誤解だったんだ。ちゃんと話が出来て良かったね」

『貴女のお蔭です、ゴンザレスさん』

「崇め奉って敬ってくれてもいいわよ?」

『いえ、そこまではちょっと』


 突然真顔に戻って即答した男の子に持っていたイカ下足を投げ付けた。

 けど、イカ下足は私の周囲にある霧に吸い込まれて消えて行く。


 うん、まあ解ってたけどつい、投げてしまった。

 戻ったら拾って食べようと思いながら、クスクスと笑う男の子をジロリと睨み付けた。


「……振られる呪いを掛けてやる」

『おおお、ゴンザレス様女神様、貴女はこの世で一番素晴らしい!』


 胡坐で座り込んでいた男の子は、私の言葉に姿勢を正した後その場に五体投地する。

 残りのビールを飲み、新たなイカ下足を噛み千切りながら「許してやろう」と鷹揚に返事をし、婚約者との話を促した。


『この間、やっとゴンザレスさんに教えて頂いたデートをする事が出来ました!』

「へえ、良かったじゃない。喜んでくれたでしょ?」

『はい、それはもう。甘味屋で評判の菓子を買い、公園を歩いたんです』

「ちゃんと手を繋いだ?」

『はい!すごく鼓動が激しくなって、恥ずかしかったです』


 おお、身悶える美少年は何と言うか耽美でいい。

 思いがけず目の保養をした私は、ご機嫌で続きを促した。


「それで?公園に行ってキスぐらいしたんでしょうね?」

『っ!?そ、そんな、キ、キスとか、ちょっと、まだ僕には、早いって言うか』

「ヘタレ」

『え、ヘタレって何ですか?』

「チャンスを物に出来ない男の事よ」

『ええ……』


 ガックリと肩を落とし、床に手を着いたその姿勢に笑ってしまう。


「ここぞって時に決められない男はさ、やっぱ駄目よねえ」

『だ、駄目って、そんなにですか……?』

「そうよ。そう言う男は何時でも何処でも全部逃しまくるから、うんざりすんのよ」


 私の駄目出しに絶句し、ピンク色だった頬を白くさせた。

 ふむ、美少年と言う物は顔色が悪くても美少年なのだなと、ビールを流し込みながら思う。


「まあいいわ。それで?後は何したの?」

『……花を、手折って』

「髪に挿した?」


 愕然とした顔で私を見たそれだけで、答えが解った気がする。


「手渡したのね」

『はい……。駄目だったでしょうか?』

「さあ?」

『さあ?って。あ、でも、嬉しそうに笑ってくれましたよ!?』

「あー、まあまだそんなお付き合いからでも良いよね」

『え、何ですかその微妙な感じっ!』

「んー。ちょっと気になったんだけどさ」

『はい、何でしょうか?』

「……婚約者さんは、君がアーノルド隊に配属されるって事知ってるの?」

『勿論です!配属が決定したら、おめでとうって言いに来てくれて』

「それまでは向こうから接触なかったの?」

『そう、ですね?そう言われれば会いに行くのはいつも僕の方でした』

「えっと、女性の方から男性に会いに行かない感じ?」

『いえ、婚約しているのならばそれは……』


 ふむ。

 思わず互いに考え込んでしまい、嫌な沈黙が辺りを支配した。


『……もしかして僕、嫌われてるんでしょうか?』

「いや、アーノルド隊に配属決まったから大丈夫じゃない?」

『そんな……』

「男って本当に夢見がちだね。もっと打算的に考えてよ。結婚って愛だけじゃ無理だって事をまず理解したらどうなの?」

『で、でも、愛し合って結婚するのでは』

「あまい。愛じゃお腹は膨れないのよ?結婚ってのはイコール生活、食べて行く為には先立つ物が無ければ食べられないわ」

『け、けど』

「そして、お洒落したいしちょっと買い物にも行きたい。流行りの服やバッグも買いたいし化粧品代だって莫迦にならない」

『……………………』

「何より、子供が出来たら食べさせなきゃいけないのよ?服だってあっと言う間に小さくなるし、教育だってあれやこれやと出費がかさんで行くの。出世して給料がアップしても子供に出て行くお金も比例してアップして行くのよ。だってどんどん大きくなるんだもの、それに合わせて服だって買わなきゃいけないじゃない?それに、流行りの服やバッグはどんどん変わって行く」


 夢見てないでちゃんと現実を見て欲しいわ、本当に。


「はっきり言うけど、男は金よ。どれだけ稼いで来るかで男の価値は決まるのよ」

『……ぼ、僕の婚約者は』

「アーノルド隊の正式配属、外されたって言ってみれば?幻想抱いて結婚するならそのまま気付かない振りしてれば良いし、現実知りたきゃ聞いてみるのね」


 今度こそ立ち直れないぐらいに顔色を失い、愕然とした男の子を見ながら溜息を吐き出した。


「一つ、間違えないで欲しいのは、確かに打算もあるけど恋心もある所なのよね」

『…………愛なんて、幻想なのでは?』

「愛ってのは長年連れ添って初めて実感できるもんだと思うわ。忘れないで?婚約者さんはちゃんと貴方に恋心を抱いているって事」

『そう、でしょうか?本当に僕に』

「恋してるわよ、ちゃんとね。だからこそ君がアーノルド隊に配属された事を喜んだし、君の頑張りを知っているからこそ嬉しかったと思う。ただそこに、給料がいくらかって事も入るだけの話しよ」


 物凄く戸惑う顔で私を見て来る男の子に、にっこりと微笑んで見せる。


「大丈夫よ、ちゃんと君の事を見てくれているからヘタレだってのは承知してると思うの」

『え、やっぱり僕ヘタレですか!?』

「また公園に誘ってさ、花を手折ったら髪に挿して上げて。すっごく喜ぶと思う」


 美少年と私を隔てている白い霧が濃くなって来た。

 そろそろ、帰る時間らしい。


「ちゃんと手を繋ぐのよ?目を見てちゃんと『好きだ』って言うの」

『わ、解りましたっ!僕、頑張りますっ!』

「うん、頑張って。君の頑張り次第で婚約者さんも幸せになれるから」

『はいっ!』


 美少年はキリッとした顔で返事をして頷いた。

 それを見ながら満足してうんうんと頷き返す。


『め、女神様っ!アーノルド隊長に何か言葉をっ』


 白く染まって行く視界の中、美少年が慌てながらそう言って来たけど、笑って首を振った。アーノルドが願い通りの人生を歩んでて、順風満帆らしいって事が解っただけで良い。


 右手を上げヒラヒラと振って、私は再び光に包まれ、それが収束するとソファにどさりと落ちた。片手に缶ビール、もう片方にはイカ下足のパックをちゃんと握ってた。

 美少年と話しをしながら飲んで食べたから、もう無い。


「あー、また偉そうに語っちゃったよ……」


 ソファに凭れて天井を見上げながら独り言ち。

 明日は休みなのだからと、ソファから立ち上がって冷蔵庫からもう一本ビールを持って来た。プシュッと音を立てたプルトップと、美少年に投げ付けたイカ下足をテーブルの上に発見し、それを摘まんで口に入れつつビールを流し込む。

 ごくりと飲み込みながら、もう一度ソファに腰を下ろした。




 私が初めてあの世界に呼び出されたのは四年前だ。

 その時呼び出したのはアーノルド。


 呼び出した本人のアーノルドも、ソファに座ろうとしていた私も驚いたのなんの。

 私なんてやっぱり学校ジャージ着てたし、コップに入ったビールと下足天持って美少年と対峙したから、ダメージ大きかったわあ。

 

 不思議な事に、互いに触れる事が出来ないのよね、これが。


 手を伸ばせば触れる距離にいるのに、手を差し出すと空気に触れるようにすかっと素通りしちゃってさ。何これ、夢なの幻なのそれとも何か変な薬を飲まされた!?何て、頭の中が一瞬にしてパニック起こすぐらいにはビックリした。


 アーノルドの話しによると、神殿の祈りの間で神に祈りを捧げていたら、目の前に霧に包まれた私が浮いてるからビックリしたらしいんだけど。

 そんな感じだったから、アーノルドからは神の使いだと思われてた。

 神の使い、学校ジャージ着てないと思う。


 この時は私も若かったし、警戒心って物も無かったから素直に名前を名乗ってた。

 美少年から名前を呼ばれるって、何だかすごくドキドキしてたんだよね。会えるのが楽しみだったし、いつ呼ばれても良いように学校ジャージを着るのを止めたんだ。

 けど、中々会えなくて、やっぱりあれは夢だったかと思い始めてさ。ガッカリしながら部屋着を楽な学校ジャージに戻した途端に、またアーノルドに会えたんだ。


 この時の私の落ち込みっぷりを思い出すと笑える。


 アーノルドが住んでる国はその時戦争してたらしくて、軍学校に通ってるアーノルドは、そのまま軍人になるかどうか悩んでた。命は尊い物だと教えられたその場で、隣国の人だからと命を狩り取る事を教えられる。その矛盾に悩んだアーノルドは、神殿へとやって来て祈りを捧げてたらしい。


「アーノルドは、軍人にならなかったら何になりたいの?」


 そう聞いた私にアーノルドはうんうんと悩み始めた。

 好きな事、出来る事、やりたい事と悩んでいたアーノルドは結局、軍人になる道を選んだ。実は公爵家の生まれなのだと言うアーノルドは、母親が妾である事から小さな頃から色々と苦労して来たらしい。

 それでも、父親はアーノルドを認知し、偶にやって来て可愛がってくれたと言う。


『公爵子息が、パン屋を開いたり畑を耕したりなど出来ない』


 父親の事は好きだし尊敬もしているけれど、母の事を思うとどうにもやりきれない思いがないまぜになり、嫌がらせに励む父の正妻と義兄達を思うと、父を軽蔑したくなる。と小難しい顔をして言っていた。


 下手に認知されているが故の悩みなんだなあと思うと、何とも言えなくなった。


「アーノルド、あのね、アーノルドはこれから先、ずっと幸せに笑う呪いを掛けて上げる」

『……それは、呪いなのか?』

「呪いだよ。だって、幸せに笑う事しか出来ないんだよ?」


 そう言って笑って見せた私に、アーノルドは小馬鹿にした顔をして鼻で嗤ったのだった。

 

「……貴方は両親からの愛を受けているからこそ、軍人になって命を狩り取る事に躊躇できるの。だけど、貴方が躊躇したせいで貴方の後ろにいる大切な人達は死んでしまう」

『何だよ、それ』

「守る者の優先順位だよ」

『優先順位?』

「そう。躊躇すればアーノルドの命が刈り取られ、アーノルドの後ろにいる大切な人達の命も刈り取られる。名前も知らない人を助ける為に殺されてあげられるの?」


 偉そうにそんな事を言った私に、答えが返って来たのは随分と経ってからの事だった。

 隣国からの襲撃に堪えられなかったアーノルドの国は、軍学校に通っている者達をも出兵させたらしく、戦場を経験してきたアーノルドの顔付きは鋭くなってて。


『……友人が、死んだんだ』


 そして、決意せざるを得なかったアーノルドは、とにかく軍学校を卒業しなきゃいけないと、生き急ぐように勉学や鍛錬に励んだそうだ。

 卒業する前に再び私を呼んだアーノルドは、私に『守り抜く』と宣言した。

 頑張ってと言えれば良かったけれど、それは誰かの命と未来を刈り取る宣言と同義で、私は曖昧に笑う事しか出来なかった。


 生きている世界が違うのだと理解はしているし、アーノルドが死んでしまうのは嫌だと思っているけどと、もうこの時の私は色んな感情がごちゃごちゃになってて。

 

「……死なないで」


 結局、それがアーノルドと私の最期の会話だった。

 互いに伸ばした手は空を切り、手を握る事も、抱き締める事も叶わない。

 それでも、手を伸ばし、その頭を撫で、頬に触れ。


 唇を重ね合わせた。


 気が付けばソファに座って泣いていた私は翌日、泣き過ぎて腫れ上がった顔で仕事に行った。それが原因で失恋したって噂が流れて、皆がご飯を奢ってくれたりお菓子を恵んでくれたのでちょっと得したけど。


 この後、何人かに呼び出されたけど、本名は名乗らず『ゴンザレス』で通している。

 だから、あっちの世界で私の名前を知っているのはアーノルドだけだ。


 二十三歳の私は、十三歳のアーノルドに恋をした。

 十も年下とは思えないぐらいに落ち着いた雰囲気を纏っていたけど、笑った顔は年相応だった。仲良くなって行く内に、背負っていた翳りは徐々に消えて行ったのに。

 友人を戦場で亡くしてから、アーノルドはまた翳を背負った。


 迷いのない目で『守り抜く』と宣言したアーノルドは、自分の隊を持ち、後輩に憧れを抱かせる男になっているようだと、先程の美少年の顔を思い浮かべてクスクス笑う。


 こっちの世界とアーノルドの世界は時間の流れが違うみたいで、アーノルドが言っていた戦争は既に終結し、アーノルドの国が勝利を収めている。

 学校ジャージにビールとイカ下足を持った私が呼び出される度、アーノルドの活躍を耳にしてた。戦争を終結させたのは、アーノルドの活躍によるものだと聞いた時には、何だか微妙な気持ちになってしまったけれど。


 それでも、無事でいる事を知る事が出来て良かったと安堵の息が漏れるのだ。


 何度かそうして呼び出されて解った事がある。

 私を呼び出す男の子たちの年齢が皆十三歳である事。呼び出した子達はその後私を呼び出す事が出来ない事。だから、二度と逢えない事。


 生きて、幸せに笑っていてくれれば良い。


 そんな思いを抱えたまま、私は『ゴンザレス』になる。

 だからきっと、目の前のこの光景は夢なのだ。


「……逢いたかった」


 学校ジャージにビールとイカ下足。

 それが女神のアイテムなんて笑っちゃう。


「……アーノルド?」

「美羽」


 少年じゃない、青年になったアーノルドが、私の頬に手を添わせながら笑ってる。

 笑った顔には翳りが無くて、相変わらずな満面の笑み。


 笑顔から零れ落ちた滴が私の頬を濡らし、同時に私の目から落ちた滴が頬に添えられたアーノルドの手を濡らして行く。確かめるように、畏れるように伸ばした手の平は、背が伸びて大きくてゴツくなったアーノルドに届いた。


「やっとお前に触れられる」


 額と額を合わせたアーノルドは、とてつもない近距離でそう囁いた。

 感極まってぎゅうぎゅうと力任せに抱き締めたアーノルドの腕の中は、硬くて痛くて汗臭くて。そしてとても温かかった。


 ベロベロになった泣き顔で、互いの温もりを確認するかのように何度も何度もキスをした。


「アーノルド、アーノルド」


 夢でも幻でも虚像でもない事を、硬さと痛さと臭さとそして、温もりが教えてくれた。

 名前を呼び合い、ぎゅうぎゅうと抱き締め合う私達は、あの時の呪いの通りに幸せに笑っていた事だろう。


 そして、やっと落ち着いて来た私はふと、自分が今いる所が果たしてどっちなのかが気になった。だけど、アーノルドの腕の中にいる私には、アーノルドしか目に入らない。


 そして、さっきから見つめ合っているアーノルドの瞳の中には、学校ジャージを着ている私が映り込んでた。


「好きだ」

「好きだよ」


 同時に口を付いて出た言葉が重なり、ついでに唇も重なり合う。

 

「……ビールとイカ下足の味がする」

「言うなバカァァァァァァァァッッッ!!!」


 眉間に皺を寄せたアーノルドのその言葉に、私の心からの叫びが響く。

 学校ジャージにビールとイカ下足。

 それが私の標準装備。






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[一言] 面白かったです。硬くて痛くて汗臭い包容を喜ぶゴンザレス(仮名)や、ビールとイカ下足味のkissにも引かないアーノルドに、本物の情愛を感じました。 異世界トリップの謎や、二人のその後が気にな…
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