9話「VS帝国兵」
「おぉぉぉぉおおお!」
拳が相手を捕らえ、鎧を着ているのにも関わらず豪快に吹き飛ばす。
吹き飛ばされた者は体内の空気を全て吐き出しながら地面へと叩きつけられる。
辛うじて意識を保った兵士は一度下がる。
「オラオラァ! こんなもんかぁ!? かかってこいやぁ!」
「ブルーガイ、その台詞は何かかませっぽいと思うよ」
ブルーガイの凄まじい一撃を見た兵士三人は足を止める。
勿論ラウラも戦闘に参加しており動かしているのは口だけではない。
「さて、準備も整ったし早速――。『フリーズグラウンド』」
ブルーガイが作った時間で魔法の準備をし、発動。
青白い冷気を秘めた魔力が兵士達の近くに落ちる。
そして地面と接触した瞬間、大地の表面が氷に覆われる。
準備に少し時間がかかる魔法だが動きを止めるのには優秀な魔法である。
「ぐっ……!」
「なんだこれは!」
地面と接触していた足までも凍らされ兵士達は動きを制限された。
うろたえた隙に攻撃しようとブルーガイが接近するがそれに反応する兵士がいた。
「舐めるなぁぁぁ!」
声を上げ手にしていた剣を地面に突き刺し足を凍らせていた氷を破壊。
そのまま動きを止める事なく更に剣を振り斬撃を飛ばす。
ガリガリと地面を削りながら迫るそれをブルーガイは躱すが兵士が既に肉薄しており直接斬撃が見舞われる。
何とか腕当てでガードするも止まらない連撃に思わず後退を余儀なくされた。
「中々やるじゃねぇか……」
一つ大きな息を吐き呼吸を整える。
ブルーガイの予想よりも兵士達は強い。
(まぁ、個人で見れば……だがな)
こちらは回復専門のアルタを入れても三人で、対する相手は訓練を受けた人間が四人。
それでも現在は若干こちらが押している。
連携を取り攻撃してきたのならばもっと苦戦を強いられていただろう。
個人が好き勝手に攻撃してくる故に複雑な読みはいらず実質二対四でも戦えている。
下がったブルーガイに追撃を仕掛けようとしていた兵士に鋭く尖った氷が複数襲い掛かる。
ブルーガイが視線を動かすと、少し後ろで魔法を放ったラウラが居た。
「ブルーガイ、一人ずつ潰していこう。他のを足止めしておくから頼めるかい?」
「はっ、余裕すぎらぁ!」
「ならそういう事で」
会話を終えるとブルーガイは自身に迫ってきていた兵士に向かって駆け出す。
それを見た後方の兵士は助太刀しようと足を動かすが、ラウラが素早くそれを察知。
「残念だけど行かせないよ。『アイスイグラー・ショットガン』!」
先ほどと同じ魔法を使い足止めする。
妨害を優先としている為威力はそこまでではないが、次々と迫る魔法攻撃に兵士達は防御という選択肢しか取れない。
ラウラ本人は雑な魔法だと思っているが鉄の鎧を着た兵士は内部にまで響く氷の衝撃に思わずくぐもった声を出す。
「一対一でオレに勝てると思うなよぉぉぉおおお!」
叫び声を上げ、相手に連打を浴びせる。
ラウラが他を足止めのお陰で警戒しながら動かなくてよくなったブルーガイが相手を圧倒する。
最後に衝撃波を含めた拳を腹部に見舞うと鎧はヒビ割れ内部にまで衝撃が通った手ごたえを感じる。
口を大きくあけ白目を向けた兵士は気を失い、それを確認すると一息つく。
「ふぅ……。まずは一人!」
そう言い次の相手へと向かう。
依然として相手の動きを止める事に力を注ぐラウラに声をかける。
「次はどいつだっ!」
「あぁ、早かったね。それじゃ次はあっちのを頼むよ。『ラファームハンマー』」
一人の兵士に圧縮された風の槌が叩きつけられた。
その攻撃に成す術がなかった兵士は勢いよく吹き飛びブルーガイの近くへと落ちた。
予想外の攻撃を受けたにも関わらず剣を手放さなかったのは訓練の賜物だが、そこまでだった。
「ぐっ……く、くそっ!」
「さぁやろうぜぇ!」
四人の中では既に倒した兵士が一番強いと踏んでいたブルーガイだったが、その予測は当たっており目の前の兵士は明らかに自身より強い相手に萎縮してしまった。
土が舞い上がる程に強く地面を蹴り、みるみる迫るブルーガイに対処できずその兵士はあっさりと意識を失った。
「なんだ? 手ごたえねぇなぁ」
予想以上の弱さに少し拍子抜けながらも再びラウラへと目線を向ける。
(もうオレいらなさそーだな)
ラウラの怒涛の魔法攻撃の前に何も出来ずにいた兵士は既に二人共地面に膝を付いている。
体力が残っていないのだろう。
そこそこ付き合いのあるブルーガイの目には余裕そうなラウラが見える。
自分が手を貸さなくても残った二人は倒しきるだろう。
そう判断したブルーガイは望の所に行く事を決める。
「ラウラ! ノゾムのトコ行ってくるわ! いいよな?」
「うん。こっちは私がやっておくよ」
了承を貰い早速動こうとしたその時、ブルーガイに声が掛かった。
「あの、私もノゾムの所に行っていいですか?」
声を出したのは今まで後ろで待機していたアルタだった。
何もしていなかった訳ではなく、戦況を見ていつでも回復魔法を使えるように準備はしていた。
だが、ラウラもブルーガイも怪我らしい怪我はしなかったので出番が無かったのだ。
「行ってあげるといいよ。こっちはもう私一人で大丈夫だし」
ラウラは前を見て手を休めることなく魔法を放ち続けながらそう答えた。
実際、残った二人の内一人は既に武器を手放し空いた手を使う事でかろうじて伏せっていないにすぎず、もう一人も時間の問題だった。
「よっし! それじゃ行くぜ!」
「はいっ!」
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たった二人しか居ない戦場では幾度となく剣戟が振るわれている。
早く短い呼吸音と金属のぶつかる音が鳴り響き、赤い飛沫が戦場を彩る。
「ふぅっ、ふぅっ……」
「どうした? もう終わりか?」
肩を大きく上下させて再び構えを取る。
数箇所から出血し、血の雫が滴り地面を赤く染める。
(あー、予想以上に強い。これはマズイ……)
相対した瞬間に予測した力量差を大きく超えていた。
実際には身体能力は同等、技術はギディオンがやや上といった程度であるが、経験そして同族を躊躇い無く殺すという覚悟で大きく差が出ている。
切れない剣で戦っている為最初から全力で戦っていたのだが、今の所は鎧が少し凹んだ程度のダメージしか与えられていない。
望もある程度は理解しており、剣を持ち替え殺す気でやれば――という考えが脳裏をよぎる。
(助けが来る前に俺が死にましたじゃ笑えないな)
表情は変えて無かったはずだが、心の内を読んだかのようにギディオンが口を開く。
「抜いていない剣を抜くのか? そっちはちゃんと切れるんだろうな?」
「……悪いけど殺しはしない主義なんだ」
一瞬悩んだがアルタの顔がチラつき抜かない事を決める。
それに対しギディオンは淡々とした声で望に忠告する。
「そんな覚悟では大切な存在も大事な物も護れず死ぬだけだ」
「ご忠告どうも。そうならないように頑張って訓練してるんだけどなぁ」
反論するもこうして負けかけている状況では説得力ないなと思う望。
「そろそろ終わりにするぞ。せいぜい足掻け」
ギディオンはそう言い放つと返答を待つことなく爆発的な加速で望へと迫る。
隊長に任命されるだけあり戦闘力は高い。
迷いの無い動きで通常のものよりも長い直剣を望へと叩きつけるように振り下ろす。
望は右に半身ほど移動しそれを躱す。
風切音が耳に入ると同時に半回転しカウンターで胴体に一撃を叩き込む。
鈍く大きな音が鳴る――が。
「切れない剣を恐れる訳なかろう」
真横からそんな声が聞こえ、悪寒が体中を走る。
距離を取ろうと横に跳躍すると剣閃が頬を掠めた。
「あ……っぶねぇ」
「勘だけは一人前だな」
戦闘中、何度か紙一重で回避という場面があった。
まともに受ければ間違いなく致命傷になるであろう攻撃は全てギリギリで躱すか掠り傷程度で抑えてきたが、これは望が「死なないように」という事を前提で戦っているからである。
その感情が危険を察知する能力を「植物の恩恵」の効果で急激に育てていた。
望に「植物の恩恵」がある事を知らないギディオンは勿論、望本人もそんな事を考える余裕はなく気付いていない。
ただ本能が察知するのを信じて動いているだけに過ぎない。
「はぁっ!」
遠距離攻撃の飛ぶ斬撃、ではなく切れない武器に応じた衝撃波を放つ。
ギディオンは正真正銘の飛ぶ斬撃「剣閃」で迎え撃つ。
二つの攻撃はぶつかると周囲に土ぼこりをあげながら同時に消滅した。
これにギディオンが初めて表情を変えた。
(むっ、今の威力ならば押し切れたはずだ。それが相打ちだと……?)
今までの打ち合いから自分の攻撃が勝ると確信に近い判断をしていたが予想外の結果が出た。
しかしこの世界で生まれ育ったギディオンはすぐに答えを出す。
(異世界人の中には強力な能力を持つ者も居ると聞いてはいたが、こいつもその類か?)
一気に押し切るのが上策だと思っていたギディオンに迷いが生じた。
そしてそれまでより防御を優先した動きへとシフトする。
二度三度剣を交えるも特に変わった様子はなく自身の優位を実感し再び思考を働かせる。
(やはりこいつには何もないのか? いや、土壇場で何かするかもしれん)
異世界人との戦闘経験はゼロではないが、滅多な事では経験しない為判断材料がいかんせん少なかった。
そして思考に割いた分注意が散漫となり先程までの冷静な状態だったら気付けたであろうギディオンはミスをも引き起こす事となった。
「――ぐはっ!」
突如衝撃が体を襲い数メートル程吹き飛ぶ。
すぐさま起き上がり状況を確認したギディオンは内心舌打ちした。
(あいつ等は何をやっているんだ!? もう負けたのか!?)
情けない部下達を心の中で罵倒する。
その間に望のそばへアルタが駆けつけ、いつもより魔力を込めて回復魔法を放つ。
「ノゾム、大丈夫ですか! すぐ治しますッ! 『ヒール』」
「ふぅ……。いやぁ助かったよアルタ、ブルーガイ。もう少しで負けるところだった。しっかし回復魔法すげーな、もうすっかり良くなったわ」
「あんまり無茶しないで下さい。こんなに怪我して……心配する身にもなって下さいよ」
全て浅いとはいえあちこちに傷を負った望を本気で心配するアルタに多少申し訳ない気持ちを持つが未だ敵は健在の為、望はアルタから離れ一歩前に出る。
衝撃から体勢を整えたギディオンが状況を確認すると、先ほどまで剣を交えていた望は回復魔法を施され完全に回復している。
援軍も到着したとなれば勝率はぐっと下がったのを嫌でも実感する。
表情こそいつも通りを保っているものの、鎧の下ではじんわりと嫌な汗が出る。
「さてどうするよ。闘るかい? それとも退くかい?」
ブルーガイは世間話でも振るかのようにギディオンへと問いかける。
勝敗は既に決したといっていい。
そしてギディオンは任務に失敗した以上無駄な戦闘をする必要性を感じなかった。
「退かせてもらおう。しかし私を見逃すとは酔狂な奴等だ」
「ウチの王様があんまり殺すのなんだのってのはお気に召さないらしくてよ。ほら、さっさと行け」
ギディオンには理解出来なかったが見逃してくれるというのならばそれに乗るほかない。
相手の気が変わる前に撤退しようと思ったが、ふと止まり振り返る。
「異世界王国とやらの王よ。名をなんという?」
「……アルタです」
「覚えておこう」
それだけ言うとギディオンは立ち去った。
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「すまんのぅ、助かったわい。大したもてないしゃ出来んがくつろいでおくれ」
ギディオンが居なくなった数分後、ラウラが望達と合流した。
部下の兵士達はしばらく気絶していたが目を覚ました後は隊長の撤退を知り同様に撤退している。
安全を確保したという事で一同はフォティスの家に招待された。
「無事で良かったです。あの、これからもここで暮らすんですか?」
返事をしたアルタは少し心配そうな声でそう訪ねる。
ウード村の人々は基本的に寛容だが、争いの元となるような人物と一緒に暮らすとなれば反対意見も出てくる可能性が高い。
ラウラも同じ事を危惧しており、アルタに続いて口を開いた。
「フォティスさん……でしたか? 良ければウチに来ませんか?」
「どういうことじゃ……?」
「私達は異世界王国という国を立ち上げています。とはいってもまだ私達五人だけなのですがね」
首をかしげるフォティスに説明をするラウラ。
フォティスは頷きながら話を聞いていたが、聞き終えた後は申し訳なさそうに首を振った。
「すまんがワシはこの村を離れる訳にはいかんでのぅ」
その言葉に反応したのは望だった。
「どうしてだ? フォティスさんはこっちに来て三ヶ月だろ? この村にそんな思い入れでもあるのか?」
「いや、この子の母親がな、ちょっとした持病持ちなんじゃ。この世界の薬では完治するのが難しくての。ワシの薬が必要なんじゃ」
大人しくしているサリアの頭を撫でながらそう答えるフォティス。
アルタは二人が話すのを聞きながら人差し指を唇に当て少し考え、一つ頷くと口を開いた。
「えーと、それって毎日渡しているんですか?」
「月に二回だのぅ。材料はあちこちにあるんじゃが、作ったら早めに使用してもらわんといけなくてのぅ。作り置きも出来ないんじゃよ」
「それなら大丈夫ですよ。徒歩で三十分くらいはかかりますが、月に二回ちゃんとこの村に来れるように出来ます」
この発言にフォティスは驚いた。
異世界王国の場所の説明は既に受けており、地図と照らし合わせると結構な距離があった。
転移を省くと移動手段が徒歩か馬車しかないこの世界だと城からウード村までは少なくとも十日は掛かる。
「本当にそんな事が可能なのかの?」
思わず確認の言葉が出るが、目の前の少女は笑顔で頷く。
その態度に嘘や偽りといったものは感じられない。
「いつまた帝国の兵士達が来るか分かりませんしここに居るよりいいと思います。だから、私達の王国に来ませんか?」
「ふむ……なら、厄介になろうかの。これからよろしく頼むよ」
しばらく考えた後、この場にいるよりは自分も周りも安全になるかもしれないと結論を出したフォティスは肯定の返事をアルタへと返した。
こうしてこの日、異世界王国はまた一人増え、合計六人となった。




