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7話「休日」

「ん……」


 異世界王国が拠点としている城の三階。

 望は与えられている部屋で目を覚ました。


「あー……まだちょっと眠いな」


 体を起こしたものの眠気が望を襲う。

 しかし頭を振りそれに打ち勝つとベッドから出る。


 着替えを済ませると顔を洗い一階に降りる。

 そのまま足を食堂へ向け適切な温度で食料を保存する魔道具「魔冷庫」から冷えた水を取り出し飲む。


「ぷはっ」


 喉を潤すと入り口へと向かい大きな扉を開き外へと出る。

 太陽の光が降り注ぎ朝をより実感させる。


 そこに望に声をかける者がいた。


「よう! おはようさん!」

「おはよう。今日もよろしく、ブルーガイ」


 肌がほんのり青みを帯びており服の上からでも分かる程の筋肉の持ち主ブルーガイが立っていた。

 動き易い服装をしており、デザインだけなら望も全く同じ服を着ている。

 これはラウラが訓練用に必要と二人に頼まれて買ってきたものだが、サイズが違うだけで全く同じデザインだと知った瞬間二人共微妙な顔をしたのは仕方ない事だと言えるだろう。


 ちなみに望が今日「も」と言ったのは毎朝二人でトレーニングを行っているからだ。

 ある程度戦えるとブルーガイに言われているものの、いかんせん実戦経験が乏しく自信が持てていない。

 前回のハーファの町での戦闘では相手は普通レベルだったのだが、望は「相手が弱かった」と思い込んでいる為、結局こうして毎日のトレーニングは続けている。


 城の外周を十五分程走り、体が温まった所で開けた場所に移りブルーガイと向き合う。

 日課として行っている模擬戦がこれから始まる。

 望の武器は真剣しかないので現在は木を削って作った手製の木刀を手にしている。


「先手はくれてやるよ」

「んじゃお言葉に甘えて」


 短く言葉を交わす。

 望はじりじりと間合いを詰める。

 両者は互いから目を逸らさずに睨みあい、望はほんの僅かに体を沈めると一気に地面を蹴る。


 身体能力の上がった体にもすっかり慣れ、風切音を感じながらブルーガイへと接近し袈裟斬りで斬りかかる。

 しかし完璧に間合いを見切っているブルーガイは必要な分だけ下がりそれを躱す。

 こうなるのは予想済みだといわんばかりに望は絶妙なタイミングで更に一歩踏み込むと同時に逆袈裟を放つ。


「おっと危ねぇ」


 みるみる強くなりより鋭くなっている攻撃に一瞬ヒヤリとしたが、訓練実戦問わず戦闘の際はいつも身に着けているガントレットで防御する。

 ガンッ、と鈍い音が発生した。


「それじゃこっちからもいくぜぇ――!」


 既に強敵と言っていい目の前の人物に熱の入ったブルーガイが攻めの姿勢を取った。





「はぁっ! はぁっ!」


 いつぞやの時のように息を荒くしながら膝に手をついて呼吸をする望。

 三十分と少し模擬戦をして日課の朝の訓練は終了する。


 既に何度も倒してきた格下の魔物相手ならば三十分くらいで疲れはしないのだが、自身よりも強いブルーガイが相手となればそうはいかず、体力はほとんど無くなっていた。


「ふぅ……本当に強くなったなぁ。そろそろ手加減出来なくなってるぜ」

「そ、そうか。それは、嬉しい、知らせ、だよ」


 一言一言区切りなんとか喋る。

 望ほどではないがブルーガイも肩が大きく上下し体力をかなり消耗している事が窺える。


「さてと、もう少ししたらアルタも起きるだろ。汗も流したいし戻ろうぜ」

「分かった」


 毎日の日課は訓練でかいた汗を流すまでである。

 そしてそれを終わらせる為二人は城へと入っていく。



------



 ラウラはとある一室をノックする。

 トントン、と二度扉を叩くが反応は無い。


「……アルタ、起きてる?」


 先ほどよりも少し強く扉を叩き、声を掛ける。

 反応は無い。


「仕方ないなぁ。入るよ?」


 意味はないと知りつつも声掛けをしながらドアノブを捻る。

 小さくキィと音が鳴り、中の様子が少しずつ見えていく。


「はぁ、やっぱり」


 完全に開かれた扉をくぐり中に入ったラウラはため息をつきながらそう言った。


 国の王の寝室ではあるが、その造りは他のメンバーのものと差異は無い。

 それぞれが手を入れている箇所もある為細々とした部分は違っているが、ベッドや洋服入れ等は同じである。


 そしてそのベッドは盛り上がっており、そこに人が居る事が分かる。

 ラウラはそこに近寄りそっと手を置くと口を開いた。


「ほら、アルタ。もう朝だよ」


 山になっている部分を揺するとようやく声が返ってきた。


「うぅぅ……もうちょっと寝かせてくださいぃぃ……」


 ラウラの耳に届いたのは起きるのが心底嫌だと言わんばかりの声であった。

 しかし心を鬼にして布団を三分の一程はがす。


「うぐ……うぅん」


 それでも体を丸めて起きようとしないアルタ。

 毎度ながら寝ようとする執念は凄いなと思いながらラウラはカーテンを開ける。


 部屋に日の光が入ってきてアルタが表情をしかめるが気にせず窓の外へと視線を向ける。


(今日の分は終わったのか)


 訓練が終わった望とブルーガイが城へ入ってくる所だった。


(いつも通りならこの後は汗を流すからまだ時間はあるか)


 とはいえ余裕がある訳ではない。

 起きるというだけでこれ以上時間をかけられてしまうと皆の朝食の時間に遅れてしまうだろう。

 寝癖のついた髪を梳かさないといけないし着替えだってしなければならないからだ。


「ほら、起きてアルタ。このままだと髪ボサボサのまま貰った髪飾りをつけるハメになるよ?」

「う……それは……」


 眉をひそめながらもゆっくりとアルタが起き上がる。

 このやり取りは何度かしているが、実に便利だとラウラは思っていた。

 何故なら必ず一発で起きるからだ。


 一緒にヴァーニを助けたのだからと望から貰った髪飾りをアルタは毎日つけている。

 貰った日の夜にはどの位置に付けるか悩んでおり、何度「この位置どうですか? 似合いますか?」と聞かれたかも分からない。


(起こしやすくなったのはありがたいけどね)


 アルタは顔を洗い服を整え最近追加された髪飾りをつける、という流れを済ませラウラへと向かう。

 頭頂部ではなく少しズラされた髪飾りはこれが定位置とばかりに存在を主張している。


「お待たせしました」

「さ、降りて朝ごはんにしようか」


 二人が一階に降り食堂に向かうと入り口で髪を濡らした望と遭遇する。

 汗を流し終わったのだろう。

 タオルが首に掛けられている。


「あぁ、起きたのか。おはよう二人共」

「おはようノゾム」

「おはようございますっ、ノゾム」


 数十分前は眠たそうにしていたアルタだが、望と話をする時はこれまで以上の笑顔を見せるようになっていた。

 無意識でやっており、本人だけが変化に気付いていない。


(今日も機嫌良さそうだな)


 最近機嫌がいいと思っている望がそんな事を思っていると同じく汗を流し終えたブルーガイがやってきた。

 望同様に首にタオルを掛けている。


「おう。おはようさん。こんなとこに突っ立ってないで入ろうぜ」


 アルタとラウラが挨拶を返し四人は食堂へと入る。


「あっ、皆さんおはようございますぅ。もう出来てますよぉ」


 迎えたのは最近王国へと入ったヴァーニである。

 料理が好きという事で毎食ではないが料理担当となっている。


 ブルーガイがメニューを聞くとヴァーニは嬉しそうに答えた。


「今日はパン、スープ、サラダですぅ。昨日ラウラさんがニンジンをたくさん買ってきてくれたからニンジンもたくさん入ってますよぉ」


 間延びした話し方はつい気が抜けてしまいそうだが、そこは異世界生活で適応力が鍛えられたのか四人ともすぐに気にならなくなった。

 ちなみにニンジンが好きなのはヴァーニだけで他の四人は好きでも嫌いでもない。


 ヴァーニも望同様この城に来てステータスボードを使用しており、「韋駄天」というスキルを持っている事が判明している。

 効果は移動速度上昇というものでヴァーニ自身も元の世界の時より少し早くなっている事を実感している。


 その素早さは相当なもので、平坦な直線の道ならば望もブルーガイ敵わなかった程だ。


「なぁ、今日は何するんだ?」


 五人で食事をしながら望がラウラに問う。

 最近している事はもっぱら資金稼ぎとして依頼をこなすというものだったので、今日もそうだろうなと思っていた望は少し驚く事となる。


「アルタとも話し合ったんだけど、最近皆依頼を頑張ってくれてたし休みにしようと思ってるんだ」

「休み?」

「うん。今日一日は好きなことして構わないよ。望なんかは訓練したり依頼をこなしたりと慣れないのに大変だったろう? 気を回せなくて悪かったね」

「あぁ、いや。それは別にいいんだけど」


 むしろ助かってるし、と付け加えて望はしばし考える。


 確かに最初の数日は緊張からかあまり眠れなかったりした時もあった。

 それでも最近はここでの生活にも慣れてきて疲れを翌日に残す事はほとんど無くなっていた。

 依頼に関してもある程度選ばせて貰って今日は何を受けようかと楽しみにしていたくらいだ。


(何すればいいんだろう……)


 自然と何をするか悩んだ時、望はこの世界での毎日が充実していた事に気付いた。

 故に自由時間を手に入れたら何をしていいか分からなくなってしまったのだ。


「ブルーガイ、前みたいに訓練でもする?」

「えぇ……せっかくなんだから休めよ。オレぁダラダラするぞ!」


 男らしく動かない宣言したブルーガイだが、休みなのは何をしようが自由である。

 当然誰も咎めたりしない。


(参ったな、本当に何していいか分からん。定年退職したオッサンか俺は……)


 スープを口に含みながら考える望だったが、結局答えは出なかった。





 城の一階。

 暇を持て余した望は城の中を見て回る事にした。


 今まで過ごしてきた場所なので目新しい物はない。

 城の入り口を入ると最初に見える扉は応接間へと繋がっている。ただ、訪ねてくる者が居ないので望がここで住み始めてから使われた事は一度もない。


 一階には他にも皆でよく使っている談話室、依頼がある日でも一日に二回は利用する食堂、男女別になっている大浴場、物置場、階段もあるが各階を移動出来る昇降機、そして転移部屋がある。


 よく歩き回る一階をさっと見て二階へと足を運ぶ。


 二階は少し用途が違っており、武器、防具、道具という三つの製作所がある。そして壁が他の部屋より頑丈に出来ている実験室まであり職人にはたまらない空間がそこにはあった。ちなみに、製作所も実験室も防音仕様である。

 とはいえ現在の王国には物作りが出来る人材が居ない為全く使われていない。


(勿体無いと言えば勿体無いよな……)


 製作で使うのだろう道具を手に取る。

 何に使うのか分からないが望の目にはそれが新品のように見えた。


(人が増えたらここも賑やかになるんだろうか)


 当然ながら今の所二階で過ごす者は城には居ない。

 困っている異世界人をたくさん保護すればいつかはこの場所を使いこなせる人物が現れるかもしれない等と思いながらあちこちの道具を手にしてみる。


 そして気付く。


(俺もすっかり勧誘する側だな)


 最初は安全そうだと感じてここに来て、アルタ達と共に過ごす内にここが好きになり、そして現在では新しい人の事を考えている自分がいた。


(元の世界では他人の事なんて考える余裕無かったのにな。そう考えると人と助け合いながら暮らすこっちでの生活も悪くない……むしろ充実してるって感じだし。でも……もし、元の世界に戻れる方法が見つかったら俺はどうするんだろう)


 一人のせいか思考が次々と変化し、元の世界の事がふと頭をよぎった。

 丁度その時、望に声が掛かる。


「こんな所で何してるんですか?」


 望が振り向くとアルタが不思議そうな顔をして立っていた。

 元の世界の事を考えていたとなると人によっては地雷な話題だといえる。

 アルタとは今までのやり取りでそんな事はないと分かっていたが、辛気臭い内容であった為それより一つ前の考えだった事を告げる。


「アルタか。いや、物作りが得意な異世界人とかが来てくれたらここも活気が出るのかなと思ってさ」


 手にしていた道具を元の場所へ置きながらそう返事をする。


「そうですね。ここ誰も使わないから寂しい場所になっちゃってますもんね」

「鍛冶職人とか来たら新しい剣を打って欲しいなぁ」

「えっと、ノゾムは戦うの好き……ですか?」


 少し遠慮がちだった事に少し疑問を持った望だが、アルタという女の子は平和なのが好きだった事を思い出す。

 この話題は軽く流してもよかったのだが、何となくそんな気になれず真面目に返答する事にした。


「好きか嫌いかで言えば嫌い……かな。訓練して強くなっていくのは嬉しいけど、じゃあ命を賭けた戦いをしたいかって言われると答えは否だ。でも――」

「でも?」

「自分が嫌だと思っている事をやらなかったら他の誰かがやるハメになるだろ? それは避けたいんだ。特に戦闘なんて命がかかってるんだし自分が逃げた事で代わりを務めた誰かが死んだらって事になれば立ち直れそうにないし」

「それは誰かが死ぬくらいなら自分がって事ですか?」


 今日はやけに突っ込んでくるなと思い横目でアルタを見たが、望の目に映ったアルタの表情は真剣だった。


「そこまで自己犠牲は強くないさ。それにそうならないように今の内に強くなっておこうと思ってる」

「そう、ですか」


 そう言ったアルタはどうも納得していないと望には思えた。

 いつもの笑顔は消えており、返答も歯切れが悪い。


 どうしたものかとしばし悩んでいるとアルタが口を開く。


「ノゾムがこの世界ユミルキーアに来た時、すぐ戦闘訓練が始まったじゃないですか」

「あぁ、生き残るためにって理由で訓練始まったな」

「私、それ最初反対したんです」

「ん? どうして?」

「ノゾムは初めて会った時から穏やかで人を気遣って……。魔物も居なくて争いもない平和な国から来た人が戦いに身を投じると、その、性格が変わってしまうと思ったんです。今ではそんな事ないって思えるようにもなったんですが、前にヴァーニさんを助けた時……もしかしたらって考えも頭に浮かんで、それで……」


 それを聞いて望は最初の頃にアルタと話した内容を思い出し納得した。


(「優しい国にしたい」って言ってたもんな。俺が戦闘狂いの狂人になるのはそりゃ嫌だよな。不安を感じてちょっと安心したと思ったらまた不安になった訳か)


 とはいえ仮に自分が変わってもきっとこの子はそんな自分を見捨てられないのだろうと思った。

 勿論そんな危険な人物になる予定もないが。


(ここで「大丈夫だ」とか「心配いらない」って言ってもいいけど)


 しかし言葉だけで安心するだろうか。

 ここまで仲間を心配する人物だ。本人がいくら大丈夫だと言っても心配が無くなる訳ではない。


 そこで望はアルタを安心させる為にあるお願いをする事にした。


「なぁアルタ。もし俺が変わってしまいそうだったらアルタが助けてくれよ」

「私が……?」

「そっ。あぁ! 丁度ヒーラーだしな。もしもって時には心の治療も頼むわ」


 笑う様に口を少し曲げ、なるべく軽い口調で望はそう言った。


「心の治療……」


 アルタは望の言葉を反芻するように手を口元に当てしばし考える。

 そして十秒程考えたのち、顔を上げて口を開いた。


「分かりました! ノゾムが変わってしまうようなら私がそれを止めてみせます!」

「あぁ、頼んだよ。その代わり普段は俺がアルタを護るよ。世の中ってのは助け合いが大事だからな」

「はいっ!」


 アルタの返事がすっかり元気な声になっている事に安堵する望。


 すっかりいつもの雰囲気に戻った二人は雑談をしつつ共に三階へと足を運ぶ。


「えっと、どうして三階に?」

「特に意味はないんだけどな。これもきっと必要なんだよ、うん」


 不思議な顔をするアルタを横目にあたりを見回す。

 三階には名に相応しい造りとなっている王の間、会議室、皆が毎日眠る寝室がある。

 王の間には基本アルタは居ない。

 誰もここに入らない為寂しいという事で談話室に居る事が多いのだ。


「そういえば寝室ってどのくらいあるんだ?」

「えーっと、二十……くらいだったと思いますよ」


 自信なさげに答えたアルタ。


「数えた事なかったけどやっぱ多いな。使ってるのが五人と寂しいけど」

「それはこれからですよ」

「そうだな。頼むよ人助け名人のアルタ」

「もぅ! 望までそんな事言うんですか!?」

「はははっ、ごめんごめん」


 二人はいつかは部屋が全て埋まるといいね等と話しつつ、それからは和やかな雰囲気のまま休日を過ごす。





 翌日からはあちこちに飛び回り異世界人を探す日々に戻った王国メンバー。

 時に困った迷子の子供の親を探し、時に落し物を持ち主へ届け、時に依頼を受けて資金を増やす。


 そしてある時、不思議な道具を使うという老人の情報が入ってきた。

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