5話「お金稼ぎ」
メモリーウルフを退治してから十日が経過した。
現在異世界王国には危機が訪れていた。
王のアルタ、その補佐をしているラウラ、そしてブルーガイと望は城の三階にある会議室で話し合いを行っていた。
その大きな部屋には長机、そしてそれに合わせた数の椅子。
そしてその椅子や長机といった設備も最初からあるもので、何故あるのかは不明であるが四人はしっかり有効活用している。
「このままだと後一ヶ月も持たない」
厳しい口調でそう言い放ったのはラウラである。
説明するのは残りの食料、そしてお金。
この世界のお金の単位が「ゴルド」というのを望はラウラの説明の中で初めて知った。
(まぁそうなるよな)
対して望はそんな感想を心の中で呟いていた。
自身がこの国に来てから食料を買ったり装備を買ってもらったりとお金を支払う事はあったが逆に収入を得たというのは聞いた事も見た事もなかった。
この世界に来てからそこそこ時間が経過している三人はどうしてきたのだろうと疑問に思ったが、望が聞く前にラウラがその答えを喋る。
「だから前と同じになるけど仕事をしようと思う」
「仕事……?」
つい、という感じで口に出してしまった望。
「ノゾムはした事無かったね。えぇと、転移部屋から町へ行って、そこで各自出来そうな依頼を探すんだ。ある程度大きな町には『依頼所』という施設があるからね」
それから望はラウラから依頼所について説明を受けた。
住民でも気軽に依頼を出せる施設があり、そこでは落し物から魔物の討伐まで幅広い仕事があるという。
勿論受ける依頼によって報酬もかなり変わってくる。
依頼には大きく分けて二つの種類がある。
一つは誰でも受けられるようになっている簡易依頼。
もう一つは自身の情報を先に提示し依頼所はそれを保管、そして専用のカードを発行してもらい自身の実績と信用度で受注出来る依頼が変わっていく重要依頼。
後者は発行されるカードを見ればどの程度の実績があるのかすぐに分かるようになっている。
まずボードと呼ばれる依頼が張り出されている場所で受ける依頼を選ぶ。
次に受付で受注手続きをする。
そして依頼を遂行する。
依頼主に確認を取ってもらう必要があるものはサインを貰い、討伐系の依頼であれば証明品を持参して再度依頼所へ。
これが一連の流れである。
「まぁ、ノゾムなら問題ないとは思うよ。それに最初だし楽な依頼を受けてもらうつもりなんだ」
「四人が別々の仕事を受けるって事になるって事か?」
「うーん……。どんな依頼があるか行ってみないと分からないけど、今回は二人ずつに別れてやってみようとは思ってるよ。実際に行ってみないとハッキリした事は言えないけれど」
分かった、と望は返事をしておく。
(一人になる可能性もあるって事は心に留めておこう)
今までは食事や訓練、装備までアルタ達におんぶに抱っこの状態であったが、丁度いい機会だろうと望は思った。
この世界でも「自分で考えて動く」という事を経験しておかなければと考えていたからだ。
それでお金も稼げるとなれば一石二鳥だった。
「それじゃ、早速明日から依頼を開始しよう。とりあえず今日はこれだけだよ。お疲れ様」
そして会議はお開きとなった。
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「お……おぉ!」
「おい、何かやたらノゾムが感動してるぞ? オレコイツのこんな目初めて見たわ」
「結構大きな町ですからね。喜んで貰えて良かったです」
次の日、四人はフェルガウ山脈という場所に転移し、そこから一番近くにあるハーファの町へとやってきていた。
基本的に木造住宅となっているが、富裕層はレンガの家などを建てたりしている所もある。
「ちょっと雑だけど舗装された石畳! 活気のある露店! なにこれすっげぇ!」
望はどこかのゲームの世界にやって来たかのように思えてしまい、つい気分が高まってハシャいでしまう。
「なぁ! 早く行ってみようぜ! なぁなぁ!」
その姿はいつもの慎重で他者を気遣う望ではなく、まるで子供のように見えた。
「あ、あぁそうだね、行こうか。……子供っぽいところもあるんだな」
後半は本人には聞こえないようにボソリと呟く程度に抑えたが、隣に居たアルタにはしっかりと聞こえていた。
アルタも「そうですね」とニコニコとした顔で答える。
露店のある大通りを歩く四人。
相変わらずテンションが高く、最後尾で頭を動かし露店の品を見る望。
そしてある物を見つけた。
(……そういえば)
そう思いながら足を止めてしまい、ブルーガイに「何やってんだ?」と言われ、慌てて返事をする。
「あっ! 悪い、すぐ行く!」
ひとまず考えを中断し少し前に行ってしまった三人に追いつく。
しばらく歩き着いた先は周囲の建物と同じ木造ではあるが、一回り大きいものとなっていた。
「ここが依頼所か……」
「大きな建物ですよね」
望の呟きにアルタが答える。
ドキドキしながら望は三人に続いてドアをくぐる。
中には自分達と同じ依頼を受けにきたであろう人々が大勢居た。
簡単な依頼を受けるのであろう子供。
魔物退治に行く事が予想される使い古された防具に身を包んだ男。
それらを見ながら望はラウラが依頼を受け終わるのを待つ。
(この中に異世界人が居たりするんだろうか……?)
そう思いながらさりげなく周囲の人物を見回すもこちらの事をほとんど知らない望は当然ながら分からなかった。
「お待たせしましたっ!」
とととっ、と少し早い足音を鳴らしながらアルタが望に声を掛ける。
手には依頼書を持っており既に受注は既に完了していた。
「あちこち見てたし問題ないさ」
「あはは、ノゾムはこの町に来てから本当に楽しそうですね」
「こんな景色は元の世界だとゲームの中でしか見た事無かったからなぁ」
「あ、それ前にも話してくれましたね」
「うん。だからすっげー楽しいよ」
アルタは楽しそうな顔をする望を見ながら望から聞いた数々の話を思い出す。
(また色々聞きたいなぁ)
平和な世界の楽しい出来事。
望の話でアルタはそんな印象を持った。
聞いた話の中には悲しい出来事も含まれていたが、それでも嬉しい事や楽しい事がまだまだたくさんあると感じたのだ。
「それで、その手に持ってるのが依頼書?」
望の声で我に返るアルタ。
話をするのはまた時間のある時に、と思いながら受けた依頼の説明を始める事にした。
「えっと、はいそうです。今回は私とノゾムで傷薬の材料となる薬草の採取依頼をやる事に決まりました」
「ほう! 薬草採取!」
戦闘が出来ない子供、女性が行う事が多い薬草採取ではあるが望のテンションは上がる。
「いいね! やっぱりまずは初心者クエだよな! 俺チュートリアルはしっかりやるタイプだし」
「初心者くえ? ちゅーとりある?」
何の事か分からず首を傾げるアルタに望はこっちのことだ、と一度話を区切り詳細を問う。
「場所はこの町の周辺ですね。たくさん生えているそうなので魔物と戦う心配も無さそうです」
「それはいいな。平和な時間を過ごせるならそれに越したことはないし」
「ふふっ。そうですね」
二人で話しているとラウラとブルーガイも受注を終わらせてやってきた。
「アルタ、望にはもう説明は終わったのかい?」
「粗方終わりましたよ」
「そっか。それじゃ私とブルーガイは魔物退治に行ってくるからそっちも頼んだよ」
アルタとラウラの話を聞いて望は慌てて割り込む。
「えっ? 魔物退治? それなら俺がブルーガイと行くよ」
ラウラが強いのは知っていたが、それでも安全な場所に自分がいて危険な場所に女性が行くというのはあまり気分のいいものではなかった。
「いや、魔法もあった方が安全に終われそうだったからこの振り分けにしてるんだ。ノゾムはノゾムでしっかり薬草採取をやり遂げてくれればそれで構わないよ」
「そうか。まぁ……それなら」
「アルタの事よろしく頼むよ」
「それは任せておいてくれ」
望はそういう事なら仕方ないかと納得した。
四人は依頼所を出て二組に分かれる。
そして依頼は開始された。
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「『アイスイグラー』」
杖の先端付近から鋭く尖った氷が射出され魔物を貫く。
魔力で生成され見た目よりも強力なそれはたった一発で致命傷を与え魔物はそのまま息絶えた。
「何体目だ?」
「えーっと、十二体目だね」
ブルーガイの問いに既に事切れた魔物の牙を折りながらラウラが答える。
二人が受けた依頼は『ファングサーペントの討伐』という依頼である。
ファングサーペントとは、体の割に大きな牙を持つ好戦的な蛇型の魔物である。
活動期という事で、ここ最近ハーファの町周辺で見かけられる為依頼所で討伐依頼が出されたのだ。
ちなみに戦闘訓練を受けた者ならば問題なく片付けられる程度の強さしかない魔物である。
そしてそのファングサーペントの牙を折り持ち帰れば、本数に応じた報酬が支払われる仕組みとなっている。
「思ったより弱ぇ。これなら望でも充分だったかもしれねぇな」
「ノゾムはそんなに強くなってるのかい? 大した強さはないけれど少し数が多くないかい?」
ラウラが望の戦闘を見たのはポルタ村での一件のみである。
あれからも毎日ブルーガイに戦闘訓練を頼んでいるのを見かけていたがどの程度強くなっているのかは知らなかった。
「既にオレでも手こずる程度には強くなってるぞ」
「へぇ……。前に見た時は体力も無さそうだったし戦闘にはあまり向いてないのかと思ったよ」
「あの時は初めての実戦ってやつでいつも以上に力が入ってたしなぁ。そのせいで動きも微妙だったし」
以前の事を振り返りながらブルーガイがラウラに向かって話す。
初めての実戦、初めての共闘。
望は生き残る事を重視した動きは訓練でやっていたが、誰かと一緒に戦ったり、誰かを護りながら戦ったりというのはあの時初めて経験した。
故に緊張は高まり動きは悪く、すぐに息は乱れ、結果としてあまり強くないという印象をラウラに与えていたのだ。
「そうなんだ。しかし今も訓練続けてるみたいだけど意外なんだよね。戦闘は好きじゃなさそうだったのに」
「オレらが戦ってるのに自分は安全な場所に居るだけってのは嫌なんだとさ」
「あ、それノゾムっぽい台詞だね」
「だよな。オレも聞いた時そう思ったぜ」
二人は話しながらも目的であるファングサーペントを探す。
活動期と言われるだけあって十分という短い間に二、三回は遭遇している。
それでも圧倒的実力差で次々と魔物を屠る。
二時間ほど狩り続けた頃、討伐証明である牙を入れる為に用意した袋はずっしりと重みがあった。
「ふぅ。少し休憩しようか」
「そうだな。喉渇いたぜ」
荷物から水を入れた筒を取り出し豪快に飲むブルーガイ。
「ぷはぁっ! 生き返るぜ!」
「……」
「ん? どうしたラウラ」
「あ、あぁ、いや。二人はどうしてるかと思ってね」
「薬草採取だし大丈夫だろ?」
「ま、そうだよね。安全な依頼だしアルタはこの町には何度も来てるんだし」
人助けとなると見境が無くなったりする一面もあるが流石に危険な所には行かないだろう、とラウラはその言葉で自身を納得させる。
「さってと、そんじゃそろそろ再開するか!」
「そうだね。たくさん稼いで二人を驚かせてやろう」
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望とアルタは予定通り町の近くで薬草を採取していた。
思っていたよりも多く薬草が生えている事にラッキーだと思い大量に採っている。
「こんなにあるんだな。町から近いんだし加工する人は自分で取りに来たらタダなのに」
「一杯作るとなると薬草を採る時間を削って製造にあてたいって人も多いみたいですよ。それにお店の名前で依頼を出す事で宣伝にもなるんだとか」
「へぇ、そうなんだ」
「私もラウラから聞いたんですけどね」
二人は終始和やかに会話をしながら依頼をこなす。
順調過ぎるその状況で仲間と一緒に居る、というのは依頼を遂行している人間にとっては過剰な安心感をもたらしていた。
勿論、望がまだまだ未熟だというのも多分に含まれているが、普段から自分の話を楽しそうに聞いてくれるアルタが相手という事でつい周囲の事を忘れ会話に没頭してしまった。
「それでさ……あ、あれ? ここどこだ?」
饒舌に話していた望はふと顔を上げ間抜けな声を上げる。
「えっ……本当ですね。いつの間にこんな所に?」
二人はいつの間にか周りに木がたくさん生えている雑木林へと入っていた。
光は充分に差し込んでいるが、その要素が二人を町から離れていっているという事に気付かせるのを遅らせた。
「まぁそこまで遠くは来てないだろうから今の内に引き返そうか」
「そうですね」
周りに魔物が居るような気配も無い為、依然としてのんびりとした雰囲気の二人。
その二人が引き返そうと振り返ったその時。
二人の耳に甲高い悲鳴が聞こえた。




