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46話「それぞれの場所で」

 城の敷地内。

 よくこの場所では訓練が行われていた。

 丸太を削っただけのベンチ、立てかけられた手作りの木刀がそこにはあったが、戦闘の余波で壊れてしまっている。


「クソッタレ! 何体いやがるってんだ!」


 イライラした口調で言い捨てる。

 傷を癒すポーションを飲み干すと空ビンを後ろへ放り投げる。


 城の中で戦うには狭すぎる為こちらへと敵を連れて出てきたが、その戦闘力は予想以上だった。

 拳を受け止めれば骨が軋み、打撃を浴びせても手ごたえが感じられない。


「クッソ面倒くせぇ! ノゾムは大丈夫かこれ!?」


 そんな状態でも先ほどまで共に戦っていた相手を心配するのはブルーガイの面倒見のよさがよく現れていた。


 幸い今見える中では刃物を持っている者はいない。

 唯一持っていたのは恐らく望が相手しているのだろう。


 一対八という人数差であるこの状況は敵の攻撃を全て躱すのは不可能に近く、ブルーガイは一旦望の事を頭から切り離し神経を集中させる。


「ガァァ!」

「ア"ア"ァァ!」


 今もまた二体同時に前に出てくる。

 耐えられるとはいえ木すらも一撃でへし折る威力をもっている。

 避けられるものは避け、僅かな隙に一撃を見舞う。


「オラァッ!」


 ブルーガイの一撃も帝国兵に劣らず強力である。

 何かが折れるような音と共に帝国兵の腕がありえない方向へ曲がる。

 が、それもメキメキと不気味な音をたてながら元に戻る。


「……しゃあねぇか」


 どこか冷たさを感じる声で呟く。

 拳には更なる力が蓄えられ、腕が一回り大きくなる程に筋肉が膨張する。


 ブルーガイは戦闘を好み、元の世界では対人において戦闘狂と呼ばれたこともある。

 そういった世界だったからだ。

 だが、こちらに来てアルタ、ラウラと出会ってからはその一面は自然と引っ込んでいた。


 目の前の鎧を着た兵士。

 ブルーガイはそれに確信に近い感情を持っていた。

 恐らく、あれは人間。

 何をどうしたら不死身の如く傷が治るのかブルーガイにはさっぱり分からなかったが、殴りにくるその拳の軌道は訓練を受けた人間のものだった。


 ただ気になるのはその拳が徐々に雑になっている点である。

 疲れているのか、はたまた別の要因か。

 ブルーガイはふと沸いたその疑問を捨て、意識を目の前の相手に向ける。


「悪ぃが今なら誰も見てねぇんでな。本気(マジ)で行くぜ?」


 以前見た帝国兵の鎧。

 名は忘れたが一人の研究者が作り出した。

 自らの欲望の為ならば全てを犠牲に出来る目をしていた。


 それらを理解していれば自然と今の相手がどういう状態なのかがわかる。


「同情はしてやる。だが、それだけだ」


 右の拳で相手の顔を横殴りにし、次に左の拳を胴体に抉りこませるように深く突き刺す。

 殴るだけ、といえば単純だが、ブルーガイは硬いはずの帝国兵を破壊していく。


「オォォラァァァァ!」


 ただひたすらに全力を尽くした結果。

 素手で行ったとは思えない光景があった。


 原型を留めていない帝国兵は、どれが何の部位だったかも分からない。

 血は既に無いのか地面には一滴も染みがない。

 地面にはキラキラと光を反射させる砕けた何かも散らばっていた。


「よし、大丈夫みてぇだな。なら……次はどいつだぁぁ!?」


 再生しない事を確認すると、ブルーガイは野獣のように雄叫びをあげる。

 近くにいた別の帝国兵の手首を掴み、まるで切るかのように手刀で肩から腕を分離させる。

 すぐに回復するのは分かっていたが、次の瞬間にはもう片方の腕も地面にボトりと落ちた。


 ブルーガイはとまらず猛攻を仕掛けるもふと気付く。


「チッ、本当にどうなってんだ」


 先ほどまで感じられた鍛えられた者の動きはほとんど鳴りを潜め今やそこらの魔物と大差なく感じられる。

 勿論、ドラク並みの回復能力や自身に迫る怪力は脅威である。

 しかしそれを扱う技術が無ければ宝の持ち腐れだ。

 現にブルーガイは時間が経てば経つほどに攻撃を受ける回数が減った。


「ウゥ……ゥ」


 どれくらい時間が経過したか。

 よく分からなかったが状況の変化に興奮していた脳が冷却される。


 残りは三体になっていた。

 手入れの行き届いた城の敷地内は見事に荒れ果ててしまった。


 ブルーガイも相応に体力は消費しており、肩で息をする。

 ピクリ、と帝国兵が動き即座に意識を研ぎ澄ませる。


 しかし帝国兵は急に構えを解いた。

 ときおりあげていた叫ぶ声はなくなりただ唸る。

 ダラりと下がった腕が動く気配もなく、攻撃性はもう感じられない。


 戦いに身を置く者としてその動作に汲み取れるものがあったのか、ブルーガイは言葉が通じなくなった兵士達に言葉をかける。


「終わらせてくれる奴を待ってたのか? まぁいいぜ、これも人助けだ。アイツは断固反対しそうな救い方だがな。オレがオレのやり方でお前らの願いを叶えてやる」



------



「死の先、黒の深遠より生まれし闇の眷属達よ、今こそ現世に現れ敵を討滅せよ『クリミナル・リゲイン』」


 異世界王国の城内。

 ドラクは二階にいた。


 目の前には一体の黒い鎧を着た兵士。

 言葉は通じず、逃亡も出来ない。

 そして苦戦を強いられていた。


 ドラクの召喚魔法によって生み出されたスケルトン達が一斉に襲い掛かる。

 この魔法は少し特殊で、生まれたスケルトンに魔力を与えてやれば純粋な能力があがったり、どこからか出てくる武器や防具まで装備する強化スケルトンになる。


 素手、剣、斧、槍、棍棒といった多種に渡るスケルトン達が前後左右から襲い掛かるも次々に屠られていく。

 骨がむき出しになっているものは勿論、ドラクの魔力によって防具を装備したスケルトンもたった一撃でバラバラとなる。


「うわ、また壊された」


 マナポーションを飲みながら物量作戦だといわんばかりにドラクは召喚を続ける。

 砕かれ、地面へと吸い込まれるように消えていったスケルトンは百を超えた。


 ヴァンパイアになったばかりのドラクであったならば既に限界が訪れている魔力消費量である。


「くっそぉ誰かに来て欲しい。でもここ抜かれるとじっちゃんとヴァーニねーちゃんが居るしなぁ。抜かれる訳にはいかない……あっ、これってすげぇかっこいいシチュエーションじゃない!? 凄い事に気づいちゃったよ」


 魔力が少なくなった時の症状は出ておらず、いつもの調子である。

 護る人の所に通さない為に単独で戦う自分。

 ドラクの中では今自分が最高に輝いていた。


 そのテンションに答えるように更にスケルトンが場に召喚される。

 これまでの装備は秀でた所のない極々普通の物だったに対し、今回のスケルトンに装着されている物は明らかに殺傷能力が高そうであった。


 大人の背丈程もある刃のついた大剣。

 黒く光る鋭利なトゲのついたモーニングスター。

 先端になるほど太く、重量感のある角ばった棍棒。

 柄は漆黒、刃は赤黒い大型の鎌。


 数こそ四体ではあったが、着ている鎧は分厚く生半可な攻撃では傷一つ付きそうにない。

 鎌を持つスケルトンだけは薄いローブを着ているが、城内で風もないのにゆらゆらと揺れている様はただただ不気味であった。


 スケルトン達は同時に帝国兵へと襲い掛かる。

 動きはそれまとは比べ物にならない程速く、互いを意識しているかのように一列に。


「ククク……混沌の四者よ、我が眼前で目障りな振る舞いをする愚者を滅ぼせぇッ!」


 既にスケルトン達は飛び出しているのだが、ドラクは気にした様子もなく若干遅れて命令を出す。


 重そうな装備をしているにも関わらずそのデメリットは見る限り無い。

 最初に帝国兵へと肉薄したのは大剣のスケルトン。

 地面を這わすようにしていた剣を思い切り振り上げる。


 戦士の技と言える一撃で帝国兵を切り裂くも傷は浅くすぐに修復される。

 が、直りきる前にトゲの付いた丸い玉を振り回すスケルトンが頭部にモーニングスターを叩き付ける。

 大きな殴打音と共に兜ごと頭部がへこむ。


「グゥゥ」


 ダメージが通っているのか帝国兵が唸り声を出す。

 それを聞いて勢いづいたスケルトンが頭上より棍棒を勢いよく振り下ろし、もう一体のスケルトンは背後より鎌の刃を体に通す。


 流れるように放たれた強力な四連撃を受けた帝国兵は一歩、二歩とよろめく。

 これまでと違いダメージが通っているのか修復が遅い。


 そこに一つの影が音も無く踏み込む。


「本体も来てるんだなぁこれが」


 短剣を両手に持ち右手は腹部を一直線に、腰の捻りと共に左手を肩から腹に向けて斜めにと縦横無尽に切り裂く。

 戦闘経験が少ないゆえに望程熟練してはいないが隙の出来た状態を狙い全ての攻撃をヒットさせた。


 重い音を立て膝をつく帝国兵。

 じわりじわりと傷が治っていっているが、ドラクは追撃を放つ。


「ハーッハッハッハ! ヴァンパイアたる我の前では手も足も出ないかぁ!?」


 目にも留まらぬ速さで切り刻むように短剣を操る。


 しばらく耐えるようにしていた帝国兵だったが、嵐のようなドラクの連続攻撃を受けながらも突如腕を振りかぶった。


「クックック、既に貴様の射程範――うぉあぁぁっぶねぇ!」


 先ほどまでと明らかに違う攻撃に全力で回避する。

 大きく距離をとり相手の姿を見ると腕が剣のようになっており、長さも倍程度にまで伸びていた。


 ドキドキと早鐘を打つ左胸を抑えながら前の敵を見据える。


(自由に腕の形変えられるとか卑怯くね? さっきのすげぇヤバかったし超危なかったし次ヤバくね!?)


 若干パニックになりつつもスケルトン達の姿を見て少し冷静さを取り戻す。


「いや、あいつらがいるから大丈夫だ。俺はフォロー程度でいいだろ、うん」


 自身でも感じる程に情けなくはあったが死ぬよりはマシだと心の中で言い訳をしスケルトン達に魔力を分け与える。

 四体はドラクの命を受ける事なく動き、防御や回避行動までもそつなくこなす。

 そして確実に一撃を当てていく。


 帝国兵も腕の形を更に長い槍のような形状へと変化させローブのスケルトンを貫く。

 回転を加えた突きはローブに大きな穴を開け、スケルトンは壊れかけの機械のようにぎこちない動きとなる。


「回復はそっちだけじゃないんだぜ!」


 ドラクは少し離れた場所から更に魔力をスケルトンへと送る。

 傷が綺麗に消え再び猛攻するスケルトン達だったが、帝国兵も慣れて来たのか反撃の回数が増える。


 太い左腕で剣を受け止め、いつの間にか元に戻っている右腕で硬い鎧ごと殴る。

 飛ぶように壁へと激突し止まる。


 飛ぶように襲い来る鎖のついた鉄球をクロスさせた腕で弾き、そのまま勢いよくタックルをかます。

 こちらも先ほどのスケルトンと同じ場所に吹き飛ばされた。


「く、くそっ! 回復しないと!」


 ドラクの言う回復は当然スケルトンなのだが、魔力を送る必要がある。

 半分以上を消費している為、装備しているベルトに手を掛けるがポーションは既にそこに無かった。


「うわ、まずい。ねぇ、誰かかマナポ持ってない、マナポ」


 戦闘の際はこれまで必ず誰かが一緒に居た。

 思わず助けを求めるが今は一人である。


「くっそどうするかなぁ……。ノゾムにーちゃんかブルーにーちゃんがいれば」


 弱気な発言をするドラクの元に、ヒュッと何かが高速で接近する。


「フカーッ!」


 冷気のブレスが帝国兵へと襲い掛かる。

 間接部分が凍りその部分が動かなくなった。


「チェリ! お前ってやつは!」

「ピュィ!」


 頼もしい応援を得て「これなら」とドラクの目に光が差す。

 魔物との戦闘こそ皆無だが、ドラゴンであるチェリーシアのスペックは非常に高い。


 空中に浮かぶチェリーシアの瞳は鋭く縄張りを侵す敵に容赦なく敵意を振りまく。


 ヴァンパイア&スケルトン&ドラゴンVS帝国兵の第二ラウンドが始まる。

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