41話「採掘」
霊峰プロヴィデンス。
かつては鉱石の性質が変わる事から神の居る山と言われていた場所である。
時が進むにつれそれは濃い魔素が鉱石に影響を及ぼしていたと判明された。
数年に一度帝国が鉱石を求めてくる以外は誰も訪れない場所で魔物も数多く生息している。
「山登りも二回目だな」
「へぇ、前はどこいったの?」
「以前はドラクと出会った水晶洞窟のあるクワルツロッシュって山だよ」
「あぁ、俺の始まりの場所だな!」
こちらに来たばかりの事を思い出してしみじみと頷くドラク。
「そういえば始まりの山ってどこにあるんだ?」
「それならほら、あっち」
ラウラの指差した方に顔を向けると一つの山があった。
所々太陽の光を反射してキラキラと光っている。
「隣かよ。近ぇんだな」
「水晶の採れる山、鉄の採れる山、金の採れる山って感じで並んでいるらしいよ。反対側には金が眠ってる山があるみたいだしね」
「金かー。高く売れたりしないの?」
「この世界でも特に高い金属ではないようだね。あ、ノゾムの世界では高価な物って聞いたけど」
「へー。そこんとこ俺の世界と似てる」
特に興味もなさげにドラクは相槌を打つ。
そうこうしている内に岩の壁にぽっかりと穴が開いた場所まで辿り着いていた。
「さて、ここから入るけれど二人共魔道具は持ってるね?」
「おう」
「うん」
水晶洞窟でも使用した魔道具「リュミエール」。
腕に嵌めて魔力を流し、光の人工精霊を出すと中に入っていく。
「ちっ、暗ぇな」
「仕方ないよ。この山も余り使われていないみたいだし。あ、そっちもっと照らして」
「え、どっち? 俺は普通に見えるけど」
「ヴァンパイアの性質かい? 便利だね」
「えっ? いやぁ、それほどでも……あるね!」
視界が悪いせいか面倒くさそうなブルーガイ。
強襲を受けないよう支持を飛ばしながら中央を歩くラウラ。
人間の能力を超えた力のせいか暗い洞窟でも隅々まで見る事の出来るドラク。
「しっかし出てこねぇなぁ」
「いいじゃないか、今日は鉱石を採りに来たんだし」
「そうだけどよ、それじゃつまんねーっての」
暗い洞窟に生息するこの山の魔物は、視界に相手を入れなくともその能力をある程度見極める事が出来る。
そして勝てないと悟ると気付かれないようにじっとしているのだ。
今も周囲には十数体の魔物が潜んでいるが完全に気配を殺し三人が通り過ぎるのを怯えながら待っている。
「えーっと。そろそろ掘ってみようか。はいこれ」
ラウラもアルタ同様手に資料を持っている。
これもアリーシャが作成したものでありこの辺りの特徴や生息する魔物、目的のジジート鉱石についての記載がされている。
「なぁラウラ」
「なんだい?」
変わらず面倒くさそうな顔をしたブルーガイがラウラへと声を掛ける。
「魔道具とかないのか?」
「ツルハシて……。高貴にして孤高なヴァンパイアである我がツルハシて……」
ドラクもテンションが落ちており、いつもの物々しい喋りにはキレがない。
「仕方ないよ。そういった魔道具もあるみたいだけどウチには揃える資金なんてないからね」
そう言いながらラウラは更にヘルメットを取り出して被る。
ブルーガイとドラクも嫌そうにしつつもそれに習い同じ格好をする。
「はぁ、髪に癖つくから被り物は嫌なんだよねー。脱いでいい?」
「オレ周囲を警戒してていいか? 戦いは一人でやるからよ」
「脱ぐのはだめ。見張りもいらないからだめ。二人の意見はだめ。……だめ」
「そんなダメダメ言うなよ……分かったから」
しぶしぶ、といった感じであったが掘り始めるとみるみる壁が削れていく。
ブルーガイは勿論のことドラクも軽々とツルハシを操る。
「よぉラウラ。これはどうだ?」
「お、何か色が違うのはっけーん! 見てみてー」
「どれ……残念ながらどちらも違うね」
何度か同じやり取りを繰り返すもその全てが極普通の鉄でありジジート鉱石には当たらない。
時間が経つにつれ会話も自然と少なくなり、カンカンとツルハシの音だけが鳴り響く。
「飽きた」
そしてとうとうドラクが心底つまらなさそうな声でギブアップを宣言した。
「オレの方が飽きてるぜ!」
「ブルーガイ、そこは張り合う所じゃないでしょ。たしなめてよ」
やれやれ、とラウラが小さくため息をつく。
しかし思ったよりも成果が出ない。
アリーシャからも資料の内容は少し古いと言われていたがここは既に採れなくなっているのかもしれない。
ラウラは移動しようかと思った時、ドラクが左手で顔を覆いぶつぶつと呟き始めた。
「我は時を倦む者。冥界の死者為らざる罪を背負いし愚者共よ。魑魅魍魎が如く跳梁跋扈せしめてみせよ! 『クリミナル・リゲイン』」
ドラクは呪文のような単語を発した。
長くてラウラとブルーガイにはイマイチ聞き取れなかったがお構いなしとばかりに左手を前に突き出す。
すると地面が暗く光り地面から次々と人の形をした何かが生えてくる。
数はざっと見ても二十を超える。
それらは肉を持たず骨のみで構成され、一部武器を持った存在も居た。
「なっ、ブルーガイ!」
「おう! ……って動かねぇなコイツら。魔物じゃねぇのか?」
思わずラウラとブルーガイは臨戦態勢となるが、依然として骨達は動かない。
「もしかしてドラク、キミが?」
「うーん……多分? 適当に言ったんだけど何か発動したみたいだよね、これ」
どこか他人事のように喋るドラク自身、いつものようにふざけただけでまさかこんな結果になるとは思ってもいなかった。
そしてこれからどうしたらいいのかもまた分からなかった。
「いいじゃねーか。このまま代わりに掘って貰おうぜ!」
ブルーガイがこれ幸いにと案を出すと、ドラクは恐る恐る骨達に命令を出す。
「えっと、この辺り掘って」
ギギギ、と錆びた金属が擦れるような音を出しながら骨達が一斉に動き出す。
無手の者は角ばった指で。
武器を持つ者はそれを振るい掘っていく。
そして三人で掘った時とは比べ物にならない音量と共に骨達による採掘が開始された。
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「でよぉ、アイツ等はいつまであんな感じなんだ?」
「んーもう少し様子を見てあげようよ」
「俺はこのままだと進展しないに千ゴルド賭けるよ」
見ているだけでよくなると三人は雑談に興じる。
話題はアルタと望の事である。
最近ではアルタも行動を起こし始め、鈍かったブルーガイでも気付くくらいにはなっている。
「そういや前によ、ノゾムが女と話したくらいで機嫌悪くしてたぞあいつ」
少し前に依頼を受けに町へ出た時、望が荷物を抱えて転びそうになった女性を助けたのだがその女性が望を気に入ってしまいしばらく話し込むという事があった。
少しずつ距離を詰めていく女性に気付かない無警戒な望。
気付けばその日一日腕を組んで町を案内するという誘いに乗せられていた。
事実上のデートである。
この世界では通信機器など無い故に良さそうな人物はとりあえず捕まえろ、という考えを持った女性もいる。
そしてそれを見たアルタはそれから三日は機嫌が悪いままとなった。
「アルタねーちゃん中途半端にしかアタックかけられないからフラストレーション溜まりやすそうだしね」
ドラクもアルタの世界については軽くではあるが知っている。
貞操観念が強く未婚女性は男性に対しベタベタする事は基本的にない。
だがそんな常識など無いこの世界では、もし男性を取り合うような状態になればアルタは甚だしく苦労することだろう。
「二人共以外とアルタのこと見てるんだね」
「アルタねーちゃん最近はチェリをエサにしてノゾムにーちゃんに話しかけてるからね、俺……我くらいになればこの程度の心理掌握など呼吸するのと等しき容易さだ」
「なんで途中から喋り方変えたの……」
ぐだぐだと雑談をしている内に骨達はひたすら採掘を続け、それらしい鉱石を運んでくる。
その中にいくつか目的のジジート鉱石が見つかる。
「おぉ、役に立つじゃねぇかドラクの骨」
「その言い方だと俺の体の骨みたいじゃん? アンデッドとかスケルトンとか、そういう感じでよろしく」
「もう見つかるとはね。見た目はともかく案外いいものだねドラクの骨」
「その言い方だと俺の体の骨みたいじゃん? アンデッドとかスケルトンとか、そういう感じってこの流れ天丼っていうのノゾムにーちゃんが言ってた」
喜びからか珍しくラウラも陽気である。
ドラクは骨達、スケルトンに魔力供給をし続け動かしていたらしく、それを止めると骨達は足元から地面に吸い込まれるようにして消えていった。
「じゃあ帰ろうか。説明はもうしたけどその鉱石は既に劣化が開始されているはずだよ。そして衝撃にも弱くなりすぐに割れてしまい使い物にならなくなるらしい」
アリーシャの用意した資料に再度目を通しながらラウラは二人に説明する。
それぞれが用意してきたカバンに鉱石を入れて帰還の準備をする。
アルタがいなければ転移陣は使えないが、アリーシャの予測で余程の事がない限りアルタ達が先に終わるということでこのまま戻る予定である。
「そっかー、じゃあ早く帰ら……あれ?」
三人が歩き出そうとしたその時、ドラクの足元に小さな石が落ちた。
その石が地面に当たりカツン、と音が響いた直後、何かが爆発したような音と共に巨大な魔物が現れた。
「ギャギャギャギャギャ!」
「え!?」
ラウラが振り返って見たものは、胴体が黒、足先に向かって青になっている大きな蜘蛛だった。
岩の壁を難なく突き破ったところからこの山でトップクラスの危険度だろうと予測出来る。
「逃げるよ! 走って!」
一瞬の硬直のあとラウラは二人に指示を飛ばす。
「なんでだよ面白そうじゃねぇか! ちょっと味見くらいさせてくれよ」
「ジジート鉱石が割れてしまうからダメ。ドラク、キミも走って!」
「何か気持ち悪い……うぇ」
ドラク青い顔でそう言う。
ヴァンパイアとなった事で魔力が発生し、使えるようになった。
そして魔力を使ってスケルトンを召喚したり動かしたりしていたのだが、新米ヴァンパイアのドラクは魔力量がそこまで高くなく既に空っぽであった。
足元はおぼつかずふらふらとしていてとてもじゃないが走れそうにはない。
「その顔色……魔力を使いすぎだよ。今マナポーション飲んでも吐くでしょ。ブルーガイはドラクを背負って。『アイスイグラー・ショットガン』」
ラウラが左手をかざすと尖った氷が蜘蛛の魔物へと向かう。
魔力で強化されただの氷を遥かに凌駕する威力を持つが、ガン、という音と共に脚に弾かれる。
「『ストーンバレット』」
次に魔力を込めた岩を出現させ、それを勢いよく魔物へと当てる。
しかし先程と同様に脚に阻まれダメージが通ったようには見えない。
「走って走って! 追いつかれるよ」
「わーってるよ」
左肩にドラクを担ぐブルーガイとラウラ。
二人共足場の悪い場所をものともせずに素早く移動するが状況は悪い。
多少道が狭くなっている場所でも壁をガリガリと削りながら猛スピードで魔物が迫ってくる。
「めちゃくちゃだな。崩れるんじゃねぇか?」
「怖いこと言わないでよ。それより早く洞窟を抜けよう、足止めしておくから『ルフトソリッド』」
ラウラは空気を固める魔法を使い魔物を足止めする。
狙いは脚の周囲にある空気だ。
しかし――。
「これも効かないのか」
「シャー!」
魔物は走りながら糸を吐き出しラウラの持っていたカバンからジジート鉱石をいくつか奪う。
そしてそのまま口元に手繰り寄せるとボリボリと食べた。
「なるほど、鉱石が食料なのか。だから異常に固い部分があるわけだね」
いつも通りの焦りのない口調ではあったが、これ以上取られてはたまらないとラウラは使えそうな魔法を片っ端から放つ。
全魔力の一割を使ってようやく数秒の足止めにしかならないが、それを繰り返し何とか出口へと近づく。
「んっ……ぷは。ようやく出口だね」
フォティス特製のマナポーションを飲み干しビンを後ろに放り捨てる。
ビンはカラン、と音を立てて転がるが十数秒後には魔物によって砕かれた。
「っと、ようやく外だな」
人工的な光とは違う太陽の眩しさに目を細めながらブルーガイが言う。
後方では未だガリガリと岩が削られる音が聞こえ、それは大きくなっていく。
「外でもおかまいなしか……ブルーガイ、このまま合流地点まで行くよ」
種類にもよるが魔物は自身の縄張りを持っていることも少なくはない。
だが猛烈に迫る蜘蛛の魔物はそんな事など関係ないかのように外へ出たラウラ達を追いかけてくる。
洞窟を抜け出たラウラ達はそのまま走る。
少し目を逸らせば視界に広がるは自然。
北には草原が広がり、東には木々が連なる大森林が目を楽しませてくれる。
だがそれを楽しむ余裕はない。
砂埃をあげながら走る魔物は近くの小型の魔物すら蹴散らしてラウラ達を追う。
八本の脚で勢い良く走る事によって飛ばされた小石がブルーガイの後頭部にいくつか当たる。
「おい、ラウラ。やっぱあいつぶっ殺していいか?」
「ダメだって言ってるだろう! 早く走りなよ!」
怒りがふつふつと沸くブルーガイだったが、ラウラの予想以上の強い言葉に一瞬ポカンとした……が、すぐにその原因が分かった。
ラウラの綺麗な金髪が所々汚れているのだ。
「……イライラウラ」
ブルーガイに担がれたドラクがぼそりと呟く。
「なんだって!? ドラク、くだらないこと言える元気があるなら自分で走りなさい!」
「……」
聞こえないと思っていた声を拾われてドラクは顔を伏せて黙る。
「おい、到着だ。アイツらもう居るじゃねーか」
転移陣まで戻ると予定通り、アルタと望が二人で立っていた。




