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34話「青き男の戦い」

「くそっ、新手か!」

「相手は一人だ! そっちの内三人はあっちに回れ!」

「ダメですっ! 四人意識を失っており動けるのは二人です」

「役立たず共が! もういいお前ら二人は私に付いて来い、フォローしろ!」


 開戦と同時に兵士達は混乱に陥り望達の思惑通り陣形が崩れている。

 城で話を聞いた時に危惧していた人数差は既に埋まりつつあった。


「うわっと! あぶな」

「ノゾム、油断しないで!」

「分かってる! でもこの人達強いんだよ!」


 自分達の作戦通りに事は進んだのだが、望達は苦戦していた。

 特に望は先程から相手の攻撃をギリギリで回避、というのを繰り返しており極めて不安定な戦い方だ。

 本来ならば圧倒してもいいのだが、これは帝国が新調した鎧の性能が高いというのが理由となっている。


 帝国兵が装着している鎧は名を魔核鎧(まかくよろい)といい、ルルイドが開発した最新の装備である。

 まだ数が少なく帝国でも装備しているのは今回の実験に同行している十五名のみ。

 その名の通り鎧の胸部に核となる素材が埋め込まれ、魔力を流し込むことで鎧の強度や使用者本人の能力までも上昇させてしまう。


「『フレイムカヴィオール』」


 ラウラが広範囲に攻撃出来る炎の魔法を唱える。

 数名の兵士がそれに飲み込まれたが、その内の一人が強引にそれを突破した。

 数瞬の間にラウラへと接近すると遠慮の無い動きで刃を振るう。


「なッ!」


 ラウラは自身の魔法を意に介さず向かってくる兵士に驚き一瞬ではあったが動きが止まる。

 次に思考が働いた時にはギリギリ避けられなくなっており、ラウラは反射的に杖で防御を試みる。

 しかしその時何かが視界に割り込みガン、という鈍い音と共に兵士の刃が止められた。


「ノゾム!?」

「ふぅ、間に合った」


 望は兵士と何合かの打ち合い、隙を見て距離を取る。

 そして既に下がっていたラウラと並ぶ。


「助かったよ」

「いいよいいよ。でも言った通りだろ?」

「本当にね。しかし前戦った兵士とは段違いの強さだ」


 二人の話し声が耳に入ったのかルルイドが反応した。

 その声には優越感を含んでおり、戦闘中でありながら勝者のような声であった。


「ふはははは。当然だ、私が開発した最新の鎧は魔力を流す事で常人を遥かに超える身体能力を身につける事が出来る。いくら貴様達が強かろうともこれには勝てまい!」


 既に奇襲で何人か倒れているというのにルルイドは絶対の自信を持つ。

 異世界人にしては珍しく伸びしろが無かったルルイドはこの世界に来た当初から生き残るための装備作りを平行して行っていた。


「くっくっく、私もまさか魔物の素材一つでこうも劇的な変化をもたらすとは思っていなかったがな」

「そんなベラベラ喋って大丈夫なのか?」

「なに、心配ない。貴様達はここで全員終わりだ」


 年月をかけ、そして幸運にも恵まれ完成させた装備に自信を持つルルイド。

 既に勝利が絶対のものと疑わないルルイドの思考は実験に向けられていた。


 実験では必ず周囲の魔素を吸収するディクリースが使用される。

 そして何度も実験を繰り返すうちに一つの事実が浮かび上がった。

 場の魔素濃度、そしてディクリースの魔素吸収速度が同じパターンだった場合、どの場所であっても同じ世界への歪みが発生するという事だ。


 多少の誤差ならば通じる世界は同じ、という事実も判明し帝国が密かに警戒していたアリーシャが居なくなってからはより大胆に実験は行われていた。

 故にアリーシャは知らないがルルイドは既に歪みの向こう、言わば別の世界を短時間ならば視察する事も可能としていた。


「ふっ!」

「甘いぜッ! オラァ!」


 ルルイドが思考に耽っている間も戦闘は行われている。

 ブルーガイは三人の兵士を相手に互角の戦いを繰り広げておりもしルルイドが戦闘を目にしていれば驚いただろう。


「ちっ、異世界人というのはこうも強力なのか。忌々しい存在だ」


 怒気混じりの口調で吐き捨てるマントを着た兵士長。

 既に鎧の性能はフルに使っておりそれでもなお倒せない相手に憤然とする。


「くそ、お前達は左右から挟みこめ! 私が正面を行く!」


 イラつきを隠す事無く部下に荒い口調で命令を出すと兵士長の男は足を踏み出す。

 最初はこれまでの戦闘では出せなかった速度となった事で世界が変わり全能感が味わえた。

 通常の鎧を着た仲間の兵士との訓練では一度も負けずそれは加速した。


 だが、ブルーガイはその速度についてきている。

 武器だけは今まで通りの鉄の剣を振り下ろすもガントレットで防がれる。

 歯を食いしばり悔しがる兵士長にブルーガイは少し呆れ混じりの声で助言する。


「お前さ、今の動きに慣れてねぇよなぁ。それじゃオレは倒せねぇ、よっ!」


 ブルーガイは剣を弾くと凄まじい速度で蹴りを兵士長へと放つ。

 ダメージはほとんど通っていないが数メートル吹き飛ばすと今度はこちらに向けて剣を振り下ろすところだった部下の兵士を相手にする。


「テメェ等も同じだな。訓練積んで出直してこいやっ!」


 衝撃波を拳に纏わせそれぞれの胴体に一撃を放つ。

 鉄の鎧ならばヒビが入ってもおかしくなかったが、魔核鎧(まかくよろい)と呼ばれたこの鎧は無傷であった。


「うぐ……」

「か……はっ……」


 兵士二人は膝から地面に落ち横たわる。

 内部にはダメージが通っており中身は普通の兵士でしかない二人は気を失った。


「さて、後はアンタ一人だな」

「くそッ! この屑共! タイミングも合わせられないのか!」


 悪態を隠すこともなく言い放つ兵士長にブルーガイは眉を寄せる。

 隊となっているにも関わらず連携はその場で決めるお粗末なもの、失敗した者がいれば罵倒しその者だけが悪者となり他はフォローすらしない。

 戦う事に楽しみを見出すブルーガイにとっては帝国のやり方は理解出来ない事だった。


「おいアンタ。部下の失敗はフォローしないのか? チームプレイってのはしっかり連携を取れば面白ぇもんだぜ?」

「あぁ!? 何を偉そうに、貴様は黙っていろ!」


 個人の資質を重視し、勝たなければ意味がなく、敗者に冷たい帝国の制度はこういった弊害も出ている。

 気付いている者もいるがすぐに変えられる訳はなく大多数がこの兵士長と同じ考え方で戦場へと臨んでいる。


「異世界人風情が……」


 兵士長は魔核鎧(まかくよろい)に残っている魔力を惜しみなく流し込む。

 黒に近い濃い紫色の線が鎧に走るのを確認するとブルーガイへと肉薄する。


「っと、やるじゃねぇか!」


 怒りの原動力で普段よりも力が出せるタイプである兵士長は先程よりもキレのある動きとなっていた。


 兵士長の両手に握られた剣が振り下ろされブルーガイはそれをガントレットで受け止める。

 骨まで響くような衝撃に若干顔をしかめていると即座に次の斬撃が振るわれる。

 回避しつつ剣の横っ腹を殴り相手のスキを作るも兵士長は驚異のスピードで立て直す。


「しゃらくせぇ!」


 刹那の猶予に拳を叩き込むが先程の衝撃波は無くその威力は当然低くなる。

 充分ではない一撃だったが、鈍く重厚な音が周囲に響き渡った。


「チッ! やっぱダメか!」


 だが自身でも予想した通り相手の動きは止まらない。

 頬を掠めるように剣閃が通り過ぎ一筋の傷が出来る。

 一筋の血が流れそれを乱暴に指でぬぐう。


 激昂した兵士長の動きはブルーガイですらも攻めあぐねる程に激しく鋭い。


「鎧は硬ぇし動きも良くなってやがる。どうするかね」


 何度か打撃を与えていたが、どれもダメージは通っていない。

 鎧の性能を把握していないブルーガイは長期戦を覚悟したが、魔力を常に使い続けている兵士長の戦闘能力は長く続かず動きに変化が見られた。


「ふぅーっ……ふぅーっ」


 兵士長は息も荒くなり目の焦点も怪しくなっている。

 魔力を急激に消費し枯渇寸前となっていた。

 だが殺気は衰える事なくブルーガイへと突き刺さるように向けられている。


「そろそろ限界か? 悪ぃがオレとしても向こうの援護に行きたいんでね、次で決めさせてもらうぞ」


 ブルーガイの声に反応する事無く兵士長はゆらりと体を揺らした。

 下手をすれば千鳥足のように見える足捌きをしながら左右に体を動かす。

 意識を失ったのかと思ったブルーガイだが、次の瞬間その考えは消し飛んだ。


 地面を抉りつつ明らかに異常な速度で迫る兵士長。

 これまでの直線的な動きではなく空間を最大限に利用しつつ飛び跳ねるように移動する。


「おいおい。ここまで戦闘スタイル変えるか普通?」


 舌打ちを交えつつすぐに来るであろう時に備える。

 この世界に来て目に見える速度で強くなるのが異世界人であり、ブルーガイも例外ではない。

 ここに来て常人ならざる集中力を発揮したブルーガイはその速度を追い、捉える。


 剣が振り下ろされるタイミング、そしてその軌道。

 元の世界でも戦いに明け暮れていたブルーガイは拳を硬く握り締め迎え撃つ姿勢となった。


 兵士長の瞳に映る自分が確認出来るくらいにまで接近すると、ブルーガイの研ぎ澄まされた精神がその刹那をスローモーションへと変化させた。


 狂気を含む瞳が少しずつ近づいてくる。

 同時に自らに迫る剣、それを無心とも言える状態でまずは回避へと移る。

 相手の腕、刀身の長さ、全てを網羅しているかのように数ミリの隙間も無いほどに最低限の動きで躱す。

 体勢は全く崩れておらずそのまま攻撃の態勢へと入る。


「終わりだ」


 短く告げた言葉に兵士長は答えない。

 意識があるのかないのか分からない瞳は猛獣のように殺気だけを放ち続けている。


 握り締めた拳を僅かに引く。

 自身の体勢、相手との距離、攻撃箇所。

 全てを同時に微調整し終えると荒々しい獰猛な光がブルーガイの瞳に宿る。

 そしてその拳がフッと消えると、大砲のような音を鳴らしながら相手を打ち抜いた。


「ぅご……がふっ……」


 回避も防御も取れず完全に直撃した一撃で兵士長は吐血しつつ弧を描き地面へと落ちる。

 既に意識は手放しており先程までの不気味な雰囲気も消失している。


「ノゾムの成長力に気を取られてたが、オレも訓練して更に強くなったようだな」


 ブルーガイは兵士長を見下ろしながらそう言った。

 驚異的な硬度を持つ鎧だったが拳の形に凹み周囲にはヒビが入り、更には核とされていた黒い物体も半分に砕けてしまっている。


 最初に攻撃を与えた時には衝撃波を使い内部にダメージを通さなければならないと思い込んでいたが、それはブルーガイの認識が甘かったのである。


 兵士長は元の戦闘力もそこそこに高く、更に鎧の力で最終的にブルーガイとしても余計な事を考えず全力を出さなければならない相手だった。

 それが今回のいい結果へと繋がる事となった。


「……さて、あっちの応援に行くとするか」


 健闘した兵士長に何か言葉でも投げかけようかとも思ったが、どうでもいいかと思いなおし背を向ける。

 この時ブルーガイはニナとミイの存在をすっかり忘れており、後ほどぐちぐちと嫌味を言われるハメになるのだった。



------



 時は少し遡る。

 ブルーガイが兵士達3人と交戦し少し経過した時、望達も戦闘に入ろうとしていた。

 この場に居るのは異世界王国側が五人、帝国側が六人である。


「ふん、仲間か」

「あちらはヤツに任せておけばよかろう。我々はこちらをやる」


 マントを着た兵士長の男二人が言葉を交わす。

 ブルーガイの方を一瞥はするものの特に興味なさげに視線を外すと再び望達を射抜くように見る。

 兵士長二人の立ち姿は油断が感じられず、いくつもの戦を乗り越えてきた者の立ち振る舞いであった。


「どうする?」

「分かっては居たけどこちらが不利だね。私が兵士四人を抑えるからノゾムとヴァーニさんで兵士長を抑えててくれないかな。後で必ず駆けつけるから」

「分かった」

「分かりましたぁ~」


 ラウラの指示に頷く二人。

 望とヴァーニは共に戦うには連携が不慣れ過ぎるという事で分散していく方針となった。


「『アイスイグラー・ショットガン』」


 ラウラの周囲に氷の刃が幾つも作り出され射出される。

 一発ならばまだしも何発も食らうわけにはいかないと帝国の兵士達は回避行動を取る。


「よし、お前は俺が相手だ」

「…………いいだろう」


 望は素早く距離を詰め兵士長の一人と離れた場所へ移動する。

 互いに牽制しながら数分走り続ける。


「さて、ここらで良かろう」

「そうだな」


 短く言葉を交わすも相手が仕掛けてくる気配はない。

 このまま時間を稼ごうかと思った望だが、ラウラ達の救援にも行かなければならない為、腰にぶら下げた剣を手に取った。


「貴様とこうして剣を交えるのも二度目だな。いや、それは刃の無いナマクラだったか。今の内にもう一本のと入れ替えておかなくていいのか?」


 兵士長が言って望もようやく思い出した。


「あ、ウード村の時の……確かギディオンだったっけ」

「あの時の雑魚がどれ程になったのか見てやろう。今回は仲間が助けてくれる等と思わない事だ」


 以前戦ったときは相手の技量が望を凌駕しており苦戦していた所にブルーガイとアルタが助けに入った。

 そして雑魚と言われた望はあの頃は確かに、と内心同意すると斬れない剣を向ける。


「それじゃ見てもらおうかな。今度もコイツでやってやるからさ」

「相も変わらず甘っちょろい異世界人が……!」


 ニヤリと笑みを浮かべ挑発するようにそう言うとプライドが刺激されたのかギディオンのこめかみに青筋が浮かぶ。


 乾いた風が吹き、地面の砂が少し舞い上がる。

 それがはれると両者は見合わせていたかのように動き出した。

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