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32話「実験阻止」

 会議室に集まった異世界メンバー。

 報告に来た騎士は勿論、ロリューヌも当然参加している。


 ロリューヌの話では近衛隊の中では新米に部類される騎士だったが、慣れたように説明を始めた。

 城に到着した時のような軽さは無く、ピリピリとした緊張を与える雰囲気を出している。

 勿論そこに敵意はなく、ただ身が引き締まるだけである。


「ではまず我々の現在地であるこの城から考えましょう。この城はメイルプル王国とアルデスト帝国の領土から外れた場所にあります。東に進めばメイルプル王国、西に進めばアルデスト帝国となりますが、この城とアルデスト帝国の間にはぽっかりと開いた荒野があるのです」


 大きなボードに描かれた簡易的な地図に丸で印付けながら騎士は言葉を続ける。

 その場所は作物の育ちが悪いということで帝国が手に入れようとせず、完全に放置されている。

 今回はそこで実験が行われると騎士は告げた。


「ちなみにその荒野って徒歩だとどのくらいの時間がかかるんですか?」


 望が手を挙げて騎士へと質問をする。

 現在異世界王国には馬がいない。

 アルタの転移を主な移動手段として使っておりこれまで必要が無かったのだ。


「徒歩だと……鍛えられた者で半日って所ですかね。まぁ体力のある者だけで動けばもっと早く到着する事も可能でしょうが」

「普段通り戦闘に不向きな人は居残りとして、あー念のため防衛戦力も残しておきたいところだね」


 これまで帝国とは戦闘になったり共闘をしたりと安定しない関係が続いている。

 後者は帝国の中では変わり者と言われていたせいであるがラウラ達は当然その事を知らない。

 それに一度戦闘をした相手ならばどちらにせよ城の守りに関して考えておかなければならなかった。


「今回は相手の目的もハッキリしてるし防衛は最低限でもいいんじゃないか?」

「ふむ。相手の人数ってどのくらいか分かりますか?」

「全十五名とのことです。内二名は研究員、兵士長クラスが三名で残りが一般兵となっているようです」


 帝国は兵士の数が多い。

 兵士を纏め上げる兵士長となるには特出した何かが必要となり、多くの場合は戦闘力である。


 ラウラはしばらく思考し現地へ赴くメンバーを選別する。

 いざという時に歪みに干渉する役目でアルタは必須となる。


 知識を持っておりアルタにアドバイスが出来るアリーシャ。

 可能性は低いが相手側に知り合いでも居れば最悪の展開を回避できるかもしれない。

 心境を考えても付いて来たいだろうが、しかし戦えない。


 もしそれを自身が守りながらフォローに回るとして、接近戦を任せられるのは望とブルーガイ。

 ヴァーニも戦えないことはないが経験不測から多少の不安が残る。


(分かっていはいたけどこちらの人数が少ないな)


 中々決められないラウラ。

 そこにロリューヌが口を挟んだ。


「私は表立って動けないし防衛を任されるわ。だからこの城に関しては気にしなくていいわよ」

「た、隊長っ!?」

「何? 私の決定(・・)に文句があるのかしら?」

「いえっ、ありませんっ!」


 威圧を出し隊長としての決定ということをチラつかせる。

 部下である騎士に反論という選択肢は消えたに等しい。

 近衛隊の中でそれが出来るのはロリューヌと付き合いの長い副隊長だけである。


 しかしこの申し出は有難かった。

 二人とはいえ文句のつけようもない強さを誇るため防衛に関しては任せてもいいと考えられる。

 ラウラは礼を言うと一つ咳払いをして再度口を開く。


「アルタとアリーシャさんは歪み関係で来てもらうとして、残りなんだけど――」

「はいなのっ!」

「はいはいはーいっ!」


 ピシッと手をあげ主張するのはホムンクルスであり艶のある黒髪をしているニナ、髪は雪のように白いがニナと瓜二つの容姿を持つミイである。


「二人はダメだろ。勝手に飛び出すから危なっかしくて怖い」

「そんな事しないのですっ!」

「信用、信用が足りませんっ!」


 望が横から口を出すと不満を隠す事無く抗議の声を上げる二人。

 言う事を聞かなかったら城に帰す、という条件つきでニナとミイも参加することとなった。


 ただ一人共に戦った事のある望は不安からか念を押すように小さな二人に確認を取る。


「本当に言う事聞いてくれよ?」

「何度も言われなくても分かってるのですよ。あ、もしてしてこれは……」

「前フリ!?」

「違うよ」


 子供特有の元気さに望も翻弄される。

 ラウラは一つ咳払いしてそれを止めると確認するようにもう一度説明する。


「最後にまとめるけれど、目的は歪み発生の阻止。説得できればいいけれど戦闘が発生する可能性も充分にある。お互いフォローし合って全員が無事に城に戻れるようにしよう」


 ラウラ自身説得でどうにかなるとは思っていない。

 それにこちらにはアリーシャがいる。

 裏切り者として問答無用で攻撃されたっておかしくないのだ。


 目をこすり眠そうにしているニナとミイが夢の世界へと旅立つ前に会議は終わり、それぞれが寝室へと向かう。


「わ、私一言も喋らずに終わっちゃった……王様なのに」


 アルタがぼそっと呟くが誰の耳にも入らずに消えてゆく。


 そして夜が明けた。



------



 翌日、まだ日が昇って間もない時間帯であるが異世界王国のメンバーは全員起きていた。

 いつもは寝起きが非常に悪いアルタも真剣な面持ちで門のそばで立っている。


 既に朝食は終わっており全員が外へ準備万端の状態で立つ。


「怪我には気をつけるんじゃぞ」

「あー俺も付いて行きてー!」

「ピューィ!」


 出発するメンバーを心配するフォティスに不満そうなドラクとチェリーシア。

 今回は戦闘能力の低いドラクと希少価値のあるチェリーシアは留守番である。


「防衛も立派な仕事よ」


 そう嗜めるは同じく留守番のロリューヌ。

 すっかり味方扱いになっているロリューヌ達近衛隊はドラゴンであるチェリーシアに驚きこそすれ特に何かするという事は無かった。


「すみません。なるべく早く戻りますのでその間城をお願いします」

「いいのよ。以前のお詫びもまともに出来て無かったんだもの。いい機会だわ」

「お任せくださいラウラさんっ! ここには誰一人として足を踏み入らせません!」


 ロリューヌは勿論のこと普段はおちゃらけている事の多いこの騎士も近衛隊に入るだけあって実力はかなりのものである。

 相手に酷い怪我を負わせない、という条件下であればブルーガイといい勝負となる程だ。

 それでも体力で勝るブルーガイが次第に押して勝つのだが。


「チェリもいい子にしてるんですよ。それじゃ、行ってきますね」


 甘えるようにアルタの胸へと飛び込んだチェリーシアを撫でながら皆へと声を掛ける。

 名残惜しそうにするチェリーシアをフォティスに預け出発となった。



------



「なぁ」

「なんだい?」

「あいつら遊びに行く態度なんだがいいのか?」

「まぁ今から気を張っても仕方ないしあの子達には丁度いいんじゃないかな」


 出発した一行は晴天の中を歩いていた。

 ブルーガイとラウラの前方では遊びに行くのではないかというテンションではしゃぐアルタ達がいる。


「ジャーンケーンポンッ!」

「やったー、勝った勝ったー」

「ミイちゃんの勝ちですね」


 雑談はいつしかシフトし、今はジャンケンで勝った者が誰かに命令できる、という遊びになっている。


「ふふふ、ミイが今この中で最も権力の高い高い存在となりましたね」

「そんな表情どこで覚えたんだ?」


 悪い顔で笑うミイに望が突っ込むが気にする様子はない。

 そして白い髪をなびかせながらクルリと方向転換するとまっすぐに伸ばした指で望を指した。


「抱っこしてくださいっ! 具体的にはこの先にある変テコな形の岩まで!」

「おんぶじゃなくて抱っこ?」

「そーですそーです」

「何て面倒くさい」


 そう言いながらも身を屈めて手を広げる望。

 身体能力が上がっている今なら余裕という事で言葉ほど面倒くさがってはいない。

 何よりここで断った方が面倒になるというのを既に理解していた。


「よいしょっ……と」

「んっふふー」


 望の首に腕を回しご機嫌になるミイ。

 更に頭だけを動かしアルタへと向きなおると「ふっ」と笑った。


「あらあら、可愛い笑顔ですねぇ~」

「いや、だから絶対違うと思いますよあれ……」


 角度的にその様子が見えていたヴァーニとアリーシャは相対的な意見を述べる。

 アルタも相手の意図に完全に気付いており、望へと詰め寄る。


「の、ノゾムっ! あんまりべたべたするのは良くないと思うんです!」

「べたべたって……子供じゃんか。犯罪チックに聞こえるからスキンシップって言ってくれよ」

「今はミイが勝者なのですよ、ノゾムはちゃんと抱っこしてくださいっ! ほらほら、ぎゅーっって」

「ノゾムっ!」

「だから何で俺が怒られるんだよ……」


 ジャンケンで負けた引け目からかアルタはミイには言えず望を糾弾する。

 ミイは十三歳、という微妙な年齢ではあるが背は低く望の感覚では「子供」カテゴリに入る。

 元の価値観は違えどニナやミイがたまに見せる「女」の部分に気付いたアルタと何も気付いていない望とでは色々と気持ちに違いが生じている。


「なぁ」

「なんだい?」

「あいつら目的ちゃんと覚えてるのか?」

「……まぁいいんじゃないかな。まだ距離はあるからね」


 そして後ろでは先程と似たようなやりとりをする傍観者の二人。

 前方のモメ事に関与する気は無くのんびりと歩いている。


 たまに起こる戦闘ではブルーガイが一撃で終了させ、異世界王国メンバーは目的の場所へと辿り着いた。


「誰も居ない……よな。ちょっと早かった?」

「そうなるように出発したからね」

「えーっと、相手方は夕方だっけ」

「早ければね。まだ昼を過ぎた頃だし誰も居ないさ」


 周囲には十メートル以上は突出している岩がいくつもあり視界が良いとは言えない環境である。

 地面は乾いておりサラサラとしたこげ茶色の砂が風で舞い上がる。


 メイルプル王国やアルデスト帝国がこの地を自国の領土にしないというのも頷ける。

 開拓しようとすればどれだけの手間が掛かるのか望には想像出来なかった。


「私達が居るのはこの辺りで他の場所より少し高い位置になる。この地図をくれた騎士さんの話だと帝国は恐らくこちらからやってくる」


 ラウラは地図を全員に見せながら説明する。

 市販されている地図に騎士が異世界王国が通るルート、そして帝国が通ると予想されるルートを書き込んでいるのだ。

 有能なだけあって監視し易く見つかりにくい場所で待つ異世界王国メンバー達。


「私とブルーガイは少し周りを見てくるよ。のんびりしてて」


 そういい残し二人は動く。

 残ったメンバーは雑談をしていたが、アルタがふと思い出したように口を開く。


「ノゾム、私お弁当作って来たんですけどもう食べちゃいますか?」

「いつの間に……。というか杖しか持ってるように見えないんだけど、どこに隠し持ってるの?」

「それなら私の鞄の中に。はい、どうぞ」


 アリーシャが見た目以上の容量を誇る鞄型の魔道具から取り出したのは重箱のように段がある弁当箱であった。


「今日は頑張って早起きしましたっ!」

「なん……だと。朝弱いのに凄いな」

「えへへ」


 望が素直に賞賛を送るとアルタは嬉しそうに笑う。

 今でもたまにアルタを起こしにいくのだが、その度に苦労しているのだ。


「どうでもいいけど目的忘れんなよ……もぐもぐ」

「分かってますよ。ってもう食べてるんですか!?」

「ただいま。探索魔法も掛けておいたからひとまずのんびりしようか」


 周囲の様子を窺っていたブルーガイとラウラも戻り全員で弁当をつつく。


「んーっ、相変わらずアルタの料理は美味しいのです」

「とってもとーっても美味しいです。悔しいですが料理の腕()勝てそうにないです。料理の腕()

「いや、変に強調してるけど家事出来ないだろ」


 ニナとミイも弁当を食べながら感想を漏らす。

 料理の腕は、と言っているがこの二人は女子力という点においてアルタに勝てるところはない。

 というより家事をそもそもしたことがないのである。

 ホムンクルスとしての目的は超能力を持った子を産むという事である。

 その考えを持った二人は日々その力を高める事に重点を置いて生活しておりそういったことは全て研究所の担当者に任せていた。


 全員で弁当をつつき、終われば再び雑談へ。

 その光景は平和そのものだったが、その時はやってくる。


「あっ、探査魔法に反応が」


 最初に気付いたラウラが体勢を低くして様子を見る。

 様子が気になった他のメンバーも後ろからひょいと顔を覗かせる。


「情報通り十五人みてぇだな」

「兵士長ってマント着てるんだっけ? あれがそうか」


 望達は二手に分かれ挟撃する形で向かう事にした。

 アルタ・ラウラ・望・ヴァーニ・アリーシャが正面から行き説得をする。

 戦闘になった場合隠れて待機しているブルーガイ・ニナ・ミイが後方から飛び出して一気にケリをつけるという算段である。


「んじゃ先に行くぜ。おら、チビども一緒に隠れるぞ。見つかるなよ」

「分かってるのです」

「ミイ達がそんなヘマする訳ないでしょー」


 ブルーガイ達を見送りアルタ達も接触をする為に移動する。

 ある程度の距離になると相手も気付き足を止める。


「何者だ」


 研究員を守るような陣形の一番前、隊長格の証であるマントを着た兵士が静かに前に出る。


「私達は――」


 相手に合わせるようにアルタも一歩前に出てそれに答える。


「異世界王国です!」

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