3話「魔物退治」
更に一週間が経過した。
「どうかな……?」
予定通り訓練を終え望は予定通り装備を買って貰った。
男たるものこういった物にはやはり心躍るものがある。
両刃の直剣は新しい物を買い、真新しい刀身は銀色に輝いている。
防具は鎧ではなく布素材のグレーを基調とした見た目だけなら普通の服ではあるが、防具用に手間をかけて作られており魔力が込められたそれは見た目からは考えられない程に衝撃を吸収しダメージを和らげる効果がある。
「うんっ! 似合ってますよ」
「そうね。いいと思うよ」
女性二人が感想を告げると望は嬉しそうに笑った。
「それで、これからどうするんだ? 早速動くのか?」
買い物から帰り昼食を終え、今日という一日はまだ充分残っていると言える。
望の訓練が終わったら活動を再開すると既に三人は話し合っていたので特に何も思わなかったが、それを知らされていなかった望は少し引っかかるものがあった。
「早速って……もしかして俺が訓練終わるのを待ってたのか?」
思い返してみると城に来てからの二週間で異世界人を集めるという素振りは一切見せていなかった事に気付いた。
回復魔法の使い手のアルタ、見た事はないが攻撃魔法主体で戦うと言っていたラウラ、そしてずっと訓練を見てくれていた前衛のブルーガイ。魔物が出るこの世界で前衛なしでウロウロするのは確かに危ないので少し考えれば分かりそうなものだが望は改めて自分は余裕が無かったのだと思い知った。
「何か悪いな……色々と」
バツが悪そうな顔で謝罪する望にアルタは思わず喜びそうになってしまった。
望はこの場所で暮らし始めてからこの世界の作法でやってはいけない事を聞いてくる等、常に他人を気遣う姿勢をよく見せていた。
その性格はブルーガイからお墨付きを貰うくらいには強くなった今も本当に全く変わっていない。
その事が純粋に嬉しかった。
「助け合いが大事ですから。そう思ってくれるだけでも私は嬉しいですよ」
「その通りだね。それで今日の予定なんだけどソーコマット草原に転移して近くにあるポルタ村に行ってみようと思う」
アルタとブルーガイは知っている土地らしく了承の旨を伝える短い返事をし、話の内容がさっぱり分からない望もとりあえず頷く。
「あそこは生息する魔物も特に強くはないし最近は見に行ってなかったから異世界人が避難しているかもしれないからね」
望はその言葉を聞いて唯一の懸念であった魔物についてもひとまず安堵する。
「それじゃ準備が出来たら転移部屋に集合で」
ラウラのその一言でひとまず解散となり、それぞれが支度を整えた。
「なぁ、今まで何気なくここで寝泊りしてたけどここ元々誰の城だったんだ?」
一番早くに準備を終えしばらくするとブルーガイがやって来た為気になっていた事を尋ねた。
「さぁな、アルタがこの世界に転移したのがこの城だったとか言ってたが既に誰も居なかったらしいぞ?」
「へぇ……設備なんかも色々あるし特に汚れてもいないしちょっと不思議だったんだよなぁ」
「ノゾムは魔法のない世界出身だもんな。この城には『浄化』の魔法が掛けられてるから常に清潔だぞ。魔法の効果が切れそうになったら食堂のそばにある魔道具に魔力注げば効果時間が追加されるようになってる」
「メイドいらずだ。しかしさすが魔法世界なんでもアリだな」
「今度やってみろよ。魔法の素養はなくても魔力はあるだろうから魔道具は使えるし勿論補充だって出来るはずだぞ」
「えっ! そうなの!? それじゃ今後何か手に入れたらその魔道具も使えるってこと?」
その質問にブルーガイは頷いた。
魔法に縁のない望は知らなかったが、そもそも魔道具は魔法を扱う事が出来ない者の為に開発されたのでこの世界では多くの者が魔道具を利用して生活している。
アルタが使う転移もこの城に設置されている「転移陣」という魔道具を使用して行われる。
送るものによってかなり変化するが、アルタ自体の魔力もそこそこ高く四人程度なら往復してもなんら問題はない。
男二人で数分程話をしていると女性二人が歩いてきた。
アルタは水晶のついた短めの杖を手にしており、ラウラは自身の身長より少し短いくらいの長さの木製の杖を持っていた。
ちなみにブルーガイはガントレットを見につけている。
「お待たせしました」
「揃ったね。それじゃ早速行こうか」
全員が転移部屋へと入る。
この部屋は割と広く中央には直径十五メートルから二十メートルはあろう大きな転移陣が部屋の中央に描かれている。
そしてドアの横には一枚の紙が貼り付けられており、「転移先一覧」と大きく書かれた下に行ける場所が記載されている。
「随分色んな場所に行けるんだな」
「そうだね。それに向こうの転移陣は何故か消したりする事が出来ないんだ。どういう理論かは分からないんだけど重宝してるよ」
「この記号はなんだ? 丸、三角、バツと小さく書かれているけど」
「あー、それね。実はもうあちこち行ってるんだけど魔物が強かったり探索出来る環境じゃなかったりする場所もあるから大雑把に結果を書いてるんだよ」
望はなるほどと思った。
自身は暑くもなく寒くもなくましてや凶暴な魔物がいるでもない場所に転移したが全員が全員そういう訳ではないのはアルタがこの城に転移したという話からも予測出来る。
もしも転移した際劣悪な環境だったら――と、最悪の状況を考えて少し背筋が寒くなった望は話題を一度切り上げてこれからの事に集中する事にした。
「みんな陣の中に入りましたね? それじゃソーコマット草原に飛びますね」
そしてアルタがゲートキーに魔力を込め、四人は転移した。
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「ここがソーコマット草原……」
目の前の景色が変わり、望の目には外の景色が映っていた。
自分がこの世界に来た時の景色と少し似ているが違う場所。
歩いてそう掛からないであろう範囲に建物が見え、更にその少し奥には森がある。
(ここは過ごしやすい気候で良かった)
風が吹いてはいるが寒いという訳ではない。
「見えると思うけどアレがポルタ村だ。言い忘れていたけどここは帝国領の端っこに存在する。普通にしていたら問題はないと思うけど」
「えーっと、この世界にある二つの大国の一つか」
以前聞いた事を思い出しながら望はそう言った。
この世界には学のない者でも知っているような大きな国が二つある。
一つはメイルプル王国。
そしてもう一つが話題に上がったアルデスト帝国である。
前者は穏健派として有名であり、その国の兵士達は皆銀色の甲冑に身を包み戦場へと出る事から「銀の騎士が護る国」と表現される事がある。
後者は歴史を顧みても好戦的な国という評価をされる国で、兵士が漆黒の甲冑を見に包み物凄い勢いで侵略をする事から目的地以外の極々小さな村等は滅ぼされ、そういった場所は「死の黒い風が通りすぎた」と言われ恐れられる方面の表現が多い。
とはいえ最近では大人しいらしく、「あまり気にしなくていい」と望を安心させるように付け加えた。
「ではそろそろ行くとしようか」
(小さい村だな)
村に到着した望が思ったのはそんな感想だった。
三十分程歩いて到着したポルタ村は全て木造の家になっており、よく言えばのどか、悪く言えば何もないという印象だった。
ただ、村の外には田畑があった事からそれを含めればそこそこの大きさにはなるのだろう。
「じゃあ早速村長さんの所に行ってみましょう」
「この中で一番デカイ家と相場が決まってる。とっとと探しちまおうぜ」
アルタの言葉にブルーガイが続く。
残りの二人も異論はなく頷くと四人で村へと入る。
ちなみに望以外の三人は村のそばまで来た事はあるが入ったことはない。
一軒一軒の土地は広めに取られていて見通しがいい為、望達が目指す一番大きな家は割とすぐに見つかった。
「すみません。誰か居ますか?」
とんとんと木の扉をノックするラウラ。
望がこっちにもそんな作法があるんだなと考えていると、小さく軋む音を立てながら扉が開いた。
「うん? お前さん達、何の用じゃ?」
「こんにちは。村長さんを探しているんですがあなたがそうですか?」
「あぁ、わしが村長で合っておるぞ」
出てきたのは老齢の為か杖をつき少し腰の曲がった男だった。
目の下には隈が出来ており疲れているような様子だったがまずは自分達の用事をとラウラは口を開く。
「実は私達は異世界人なのですが、放浪している他の異世界人が居ればこちらで保護したいと思っています。この村に心当たりのある人物はいたら教えて欲しいのですが」
「うーんどうじゃろうなぁ。今それどころではなくての、申し訳ないが力にはなれそうにないわい」
「そうですか」
立て込んでいるならひとまずは立ち去るか、と考えたラウラだがそこにアルタが割って入った。
「お困りごとでしたら私達が力になりますよ。良ければ話してくれませんか?」
「お前さんは?」
「私は異世界王国の王をやっています。力になれる事があれば言って下さい」
「異世界王国……?」
呟くように「聞いた事がないな」と言い眉をひそめながらも渡りに船だと思ったのか村長は説明を始めた。
「実は最近急に魔物が増えておっての。村に入る前に外を見たじゃろうがこの村は畑での作物が重要なんじゃ。それを食い荒らされてしもうての」
「そうですか……どんな魔物か分かりますか?」
「今の所確認出来ておるのはメモリーウルフだけじゃな。退治に出かけた村の男の話によると百はいるんじゃないかとの話じゃ。まぁ、被害が出ただけで退治は失敗したんじゃがの」
「メモリーウルフ……」
目を瞑りしばし考えを巡らす。
そして自分の出した結論を仲間に伝えようと後ろを振り向いた。
「この人達を助ける為に戦ってくれませんか?」
その言葉を聞いて真っ先に口を開いたのはラウラであった。
「そう言うと思ったよ。でも……いいんだね?」
その言葉が何を指すのかアルタはすぐに分かった。
当初は過剰反応気味になってしまっていたがその気持ちは大分薄れていたし、懸念していた事が起これば自分が止めればいいと考えるようになっていたからだ。
ラウラは元々心配性ではあったがそれでも心配させるような態度だった事、そして短期間でコロコロ変わる自分の考えに未熟さを感じながらも迷いなく頷く。
国を立ち上げる切っ掛けとなった「想い」は変わっていないのだから。
村長に手伝う事を伝えた四人は村の広場で話し合う。
「魔物は隣の森からやってくるって話だったな。どう動くんだ?」
「メモリーウルフは夜行性だったはずだ。この世界ではよく見かける魔物だし間違いないと思う」
ブルーガイの疑問にラウラが返す。
更に「だけど」と付け加え言葉を続けた。
「相手に合わせて夜の戦闘となると相手は百パーセントの力を発揮できてこちらは視界も悪くなるし不利になるだろう。だから日が暮れるまでは森を探索して住処があれば強襲したい。どうかな?」
「日が暮れたらどうするんだ?」
「森を出て村と森の間の僅かな距離に陣取って迎撃体勢を整えて待つ。幸い天気もいいし夜になっても見通しがいい場所だと月明かりで最低限の視界が確保出来るはずだ。足場を考えても森より戦いやすいはずだよ」
「なるほどな。オレはそれでいいぜ」
考えるのは苦手だしな、と付け加え笑うブルーガイ。そして王であるアルタに視線を向ける。
「……うん、私もそれでいいと思います。望もそれでいいですか?」
「うん。いいと思う」
アルタは少し考えた末にそう言い、望は話についていくのがやっとだった為自分の意見までは考えていなかった。だが、話自体におかしな点は無かったと感じたのでアルタに続いて同意した。
ポルタ村そばの森。
正式な名称はついていないが、村の人から「ポルタの森」と呼ばれているその場所を四人は歩いていた。
「メモリーウルフだっけ? 居ないね」
一時間程歩いたのち前衛を担当する望は前を向いたままそう言った。
「そうだね。仕方ない、アルタ」
「はーい」
ラウラが声を掛けるとアルタが移動で使ったゲートキーを取り出した。
数秒後、先端が淡い光を放ち出す。
「時間が経って随分弱くなっているけど感じる。でも、何か違和感が……」
集中する為か目を瞑ったままそう言ったアルタにラウラが「やっぱり……」と意味深な事を呟く。
「それは何やってんの?」
「あ、これですか? ゲートキーは転移するだけじゃなくてその力を感知する事にも使えるんですよ。ただ、転移もですが魔力を消費しちゃうので普段はあまり使ってませんが」
ニコニコしながら望の質問に答えるアルタ。
望はへぇ、と感心したように声を漏らすもそういえば、と納得する。
「俺達がこっちに来たのも転移だもんな」
「そうだね。ごっちゃになるからこの世界では世界を移動する転移を「世界転移」って表現しているよ。場所を移動するのと世界を移動するのとじゃ規模が違うし、そうなると違う現象だと勘違いしそうになるよね。ちなみに、世界転移が行われる際に発生するあの景色がぐにゃぐにゃする現象は「歪み」って言われてるんだ。歪みに触れると世界転移するようだよ」
ラウラはまだ推測も多く含まれているだろうけど、と付け加えた。
こうやって調べるのも今までにラウラが集めた「異世界人をよく見かけるようになった」という情報からいくつか立てた仮説の裏づけを取る為となっている。
「ならこれからも俺や皆みたいによその世界から誰か来るかもしれないって事か」
「そうなるね。まぁ、私の言った事が本当かもまだ分かってないのだけど」
話をしながらアルタが歪みを感じたという方向に歩く。
十分程すると「この辺りです」と合図しそれぞれが周囲を観察し始める。
しかし……。
「何もねーな」
鬱蒼としていた森にポッカリと空いた空間はあったが、そこには四人の目的としている魔物は居なかった。
「ふむ。ここに来るまでにも怪しい場所なんかは無かったし、これ以上行くと日が沈む前に戻れなくなるから迎撃の用意に移ろうか」
最高の結果は得られなかったが、これから起こるであろう最悪の事態を防ぐために四人は引き返す事を決めた。
そして、夜が訪れた。




