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28話「二人のサイキッカー」

 ラウラ達が城内で慌しく動いている一方、アルタと望は転移した洞窟の内を歩いていた。

 幸い謎の光る鉱石が洞窟に相当量あるお陰で暗闇の中を歩くという最悪の事態は免れてはいたが、避けられない戦闘を何度か経験し歩き続けたせいで二人の体力はじわじわと減っていく。


「……ふぅ、ふぅ」

「大丈夫かアルタ」


 明らかに疲れているアルタを望は気遣うが、戦闘においてはアルタを守りながら戦っている為こちらも随分と消耗している。

 肩で息をし、汗がこめかみを流れて地面へと落ちる。


 休める場所を探そうと話し合って二時間が経過しようとしていた。

 勿論時計すら持っていない望達がそれを知る事はなく、どれくらいの時が経っているのか分からないまま歩いているのも精神をすり減らす。


「ノゾム~。疲れましたぁ……」

「俺もだよ。早いとこ良さそうな場所を見つけないとな」


 すっかり棒のようになってしまった足を動かすアルタ。

 前を歩くとアルタを置いていってしまいそうになるのでその少し後ろを歩きながら望は自分の体を確認する。

 今までの戦闘回数は片手で足りる程度ではあるが、そのどれもが無手の自分ですら無傷で勝利できる程度の魔物だった。

 が、それがずっと続くとは限らないため自分がどの程度動けるかは常に把握していなければ不安だった。


 しばらく魔物が徘徊しているお陰なのかなんとか「道」と呼べそうな地面を歩き二人は小さな穴が空いている箇所を見つけた。

 本来なら気にも留めずに通り過ぎるところだったが、二人の足は止まり目はある物を注視していた。


「……これ、鎧の一部ですか?」


 数秒ほどの無言を打ち破ったアルタが独り言のような声で望に尋ねる。

 胴体部分の一部だろうか、緩やかな曲線を描いた鉄の板が穴のすぐそばに落ちていた。


 アルタへ肯定の返事をし望は穴の中を覗く。

 一人ずつなら入れそうな大きさの穴に頭から入ると、中にも少量光る鉱石が存在しているらしく何とか目視が可能だった。

 数メートル程進むと小さな空間があり、そこは数人は入れそうな広さ、外に落ちていたのと同じ系統の防具がいくつか、だが武器になりそうな物は確認出来なかった。


「誰かここに居たみたいだな。ただ全部くたびれてるから人が居なくなってから時間が経ってそうだ」


 四つんばいの姿勢で出てきた望は外で待っていたアルタに向かってそう言った。

 最初に見つけた鎧の一部らしき物も中にあった他の装備らしき物も全てがボロボロになっていた。

 月日が経過しているのも原因の一つなのだろうが、戦闘を重ねた事がよくわかり欠けていたりへこんでいたりしている。


「安全地帯って事ですかね?」

「しばらく魔物と出会ってないからそうかもしれないな。ひとまず今日はここで休もうか」


 すぐにでも休みたい、そう思っていた二人はその空間へ入ることにした。

 閉鎖的な空間に少し息が詰まる感覚になったが、贅沢は言っていられないと大人しく腰を下ろして一息つく。


「疲れたぁ。もう眠いです」

「何時になってるんだろう。とりあえず明日からどうするか考えないとな。この洞窟がどれくらい深いのか未だに全く分からないし。あ、それにラウラ達は無事なのかな? 転移事故で俺達とは違う場所に飛ばされた可能性もあるってことだろうし、そうだったら城に戻ったら皆で助けに行かないとな」


 安全が確保されたとは断言できないが、それでも人心地ついた望はようやくラウラ達の事を考える余裕が出始めた。


「食料も武器もないからまずはこの洞窟から脱出、その後は町を探して現在地を確認しようか。あー魔法で人探しとか出来るのかな? 出来るなら城に戻るかラウラ達を探しに行くか決めやすいんだけどなぁ。アルタはどう思う? ――アルタ?」

「んぅ……すぅ、すぅ」

「……もう寝てるのか」


 体力で劣るアルタは望が喋り始める頃には既に意識を手放していた。


「ずっと独り言喋ってたとかちょっと恥ずかしいんだけど……」


 ため息をつきながらボロボロの装備品で穴を軽く塞ぐ。

 空気の通り道だけを残してその作業を終えると再びアルタの横に座り目を瞑る。


 しばらくすると肩に何か当たった感触があり、薄目を開けてそれを確認する。


(アルタか……)


 二人共汗をかいているはずなのにふわりと漂う甘い香りに女の子は得だな、と思いながらも疲れを癒すために望は意識を手放した。





「ぐ……体が痛い」


 目を覚ました望は起きぬけにそう愚痴る。

 硬い壁に硬い地面。

 深い眠りに落ちないよう座った状態だったこともあり完全に疲れは取れておらず、若干のダルさと凝り固まった体がそれを証明している。


「ん?」


 立ち上がり体をほぐそうとした望だが、不意に自身の足に重さを感じ目を向ける。

 すると横になったアルタが望のふとももを枕にして気持ち良さそうに眠っていた。


「気の抜けた寝顔して……」


 くすりと笑う。

 頭でも撫でようか、と思っていた望だがふいに伸ばした手をとめ眉を寄せる。


「冷たい……。よだれ垂らしてる」


 ふとももに感じるのはアルタの重みだけでなく冷たい感覚。

 先程までもう少し寝かせてあげようと思っていたにも関わらず、ひんやりとした感覚に気付いた途端早く起きて欲しいと願ってしまった望に非はないだろう。


 トントンと肩を叩き名前を呼んでアルタを起こす。

 しかし「まだ眠い」だの「もう少しだけ」だのと強引に二度寝しようとするがこの日の望は甘さを捨てた。


「うぅ~……ノゾムのいじわるぅ」

「はいはい。早く行くよ」


 未だ若干頭が寝ているアルタを軽くあしらい二人は空洞を出て再び歩く。

 上を見上げると一本橋のようになっている箇所があったり、良質と思われる水晶がひしめきあっていたりしているが今の二人はただただ出口を目指す。


「ノゾム……これって」


 しばらく歩きいつもの調子を取り戻したアルタがハッとしたように声を出す。


「あぁ、戦闘音だな。魔物同士でやり合ってるか、それとも――」


 ここまで数種類の魔物は見かけた。

 しかしそのどれもが争うことなく動いており、どうしても期待せざるを得ない。

 二人は無言で頷き合うと少し足早に音の聞こえる方向へと進み出した。





「……っ!」


 いつもならば警戒しつつ確実に歩を進める二人だったが、最低限の確認だけを行い素早く移動する。

 その甲斐あってか戦闘中の音が途切れる前に目的の場所へと辿り着くことが出来た。


 まず目に入ったのは大きな巨人の魔物。

 少しいびつな円形の広間にそれが存在している。

 肌は赤黒く、盛り上がった筋肉が圧倒的な力を持っていると理解させる。

 手にはその巨体に見合う大きな石の棒を持っておりその一撃は防御したとしても大きなダメージを受ける事が容易に想像出来た。


 だが、二人が目を引いたのはソレではなかった。


 白と黒。

 純白といった言葉を体言したかのような真っ白な髪をした少女と黒髪の望よりも黒の濃い色の髪をした少女が魔物と相対していた。

 異世界王国でドラゴンのチェリーシアを除けば現在最年少はドラクで十六歳であり、それよりも幼いだろうと予測出来る。

 更に、巨人の魔物に従っているのかゴブリンの群れが少女二人を囲むように半円を描いて存在していた。


「助けないとっ! ノゾムっ!」


 横で慌てるアルタだが、違和感を感じた望はそれを手で制した。


 動いていないのだ。

 巨大な魔物も、ゴブリンも。

 つい先程まで聞こえていた戦闘音は消え、その異様な空間で少女二人だけはそれがさも当然だというように動いている。


「流石おっきな人なのです。ニナの力を無理やり打ち破ろうとしているの」

「じゃあじゃあミイは準備に入っちゃいます」


 見た目通りの可愛らしい二つの声が広い空間に響く。

 一言ずつであったが少女達は言葉を交わし、自らをミイと呼んだ白の少女がとてとてと近くの岩へと歩いていく。

 周囲のゴブリン達は石にでもなったかのように動かずただじっとしている。


「これは痛い痛いですよー」


 白の少女が岩に手をかざし弾んだ声でそう言うと、少女の体よりも大きな岩が音も無くふわりと浮かんだ。

 そして――。


「えいっ」


 気の抜けるような声と大きな物が風を切る音、そして大きな衝突音が聞こえた。





「何あれ怖い」


 様子を見ていた望とアルタはいつの間にかただ呆けていた。


 少女が掛け声を発したと思ったら岩が物凄い速度で巨人へと向かっていったのだ。

 無防備に突っ立っていた巨人は頭にその岩が当たり現在は気を失っている。

 たった一撃で、しかも幼い女の子が倒したなんて目の当たりにしなければいくら異世界だといえど信じていないところだった。


「……ん、誰かいるのです?」


 不意に黒い髪の少女が声を発する。

 体は完全に望達の方を向いており、疑問系ではあったが確信に満ちている声だった。


「驚かせてごめんね。先に言うと敵じゃないから安心して欲しい」


 少女二人を無視して進むという案はアルタが却下するだろうと思った望は接触の切っ掛けを作る手間が省けたと思いながら隠していた場所から出る。

 近づくにつれ少女達の顔がハッキリと目視できた。

 髪の色は白と黒の違いはあれど目、鼻、口といったパーツは瓜二つでもし双子と言われれば「なるほど」と納得出来るほどだった。

 ミディアムの長さの髪は綺麗に切り揃えられておりじっとしていれば少女ながらもその整った容姿は人形のようにも思えるだろう。


「凄いね君達。あんな大きな魔物を倒すなんて」

「……まもの? あれのことです?」


 巨人を指差す黒髪の少女。


「そう、あんな大きな魔物どうやって倒したの? さっきのは魔法?」

「魔法? 違うのですよ、倒したのはこっちのミイの超能力(ちから)なのですっ! ミイはPKの超能力(ちから)が使えるのですよ。ちなみにニナはESPの超能力(ちから)が使えるのですっ!」


 誇らしげに答えた少女の隣では、えっへんと未だ育っていない胸を張るミイと呼ばれた白い髪の少女。

 そしてこちらの世界では聞きなれない単語を聞いた望は確信した。


「やっぱり異世界人か」

「えっ、そうなんですか!?」

「何で驚くんだよ、超能力者とかこっち居ないしモロ異世界人じゃん」


 残念ながらアルタの知識には「魔法」はあっても「超能力」というものは存在せず会話の内容は意味が分からないものだった。

 だが同時にこの少女達が本当に異世界人ならば保護しなければ、という感情も湧いた。


「えっと、ニナちゃんとミイちゃんでしたっけ。どこから来たか言えますか?」

「うん? おかしなことを言うのですね。ガルドゥドゥスに決まっているのですよ」

「ガル……えっと、この世界にはそんな場所なかった、はず」


 若干自信が無かったが、この世界にそんな名前の場所は存在しないと結論付けるアルタ。


「どうやってこの洞窟に来たのか分かりますか?」


 出来るだけ優しく聞くと、少女達は顔を見合わせ同時に首をかしげた。


「分からないのです」

「気付いたらここに居たのですー」


 二人の話を聞く限り朝目が覚めたらここに居た、という事らしい。

 ご丁寧にベッドまで転移したらしいが動かすのが面倒くさいということで転移場所に放棄して移動しているとのこと。


「でも二人で一つのベッドを使っててよかったのです」

「あのおっきい人は一人じゃちょっとちょーっと倒すのが大変ですよね」

「……うん? さっきのはこっちの白い子……ミイちゃんが一人で倒したんじゃないの?」


 望の疑問に首を振って心外だとばかりに否定を示すニナ。


「むぅ、違うのですっ! ニナも催眠(ヒュプノシス)で動きを止めて頑張っていたのです!」


 ニナの能力はESPに属する為、第三者目線では分かりにくい。

 先程の戦闘ではそれまでに遭遇したゴブリンに催眠をかけ自分の部下という暗示をかけ、巨人には単純に意識を飛ばさせようとしたがこちらは抵抗され完全にはいかなかった。

 結局催眠が完全に破られる前にミイが念動力でKOしたので望は勘違いしたのだ。


 しかし年端もいかない子供だというのにこの非現実的な状況にうろたえているわけでも悲観しているわけでもなく実に普通に振舞っている。

 明らかに変だと思った望はつい両親の元に帰りたくないのかと口に出してしまう。

 それがキッカケで元の世界を思い出し泣かれでもしたら大変だったのだが、返答は思いも寄らぬものだった。


「さっきからおかしなことばっかり言いますね。超能力を使えるホムンクルスのミイ達に親なんていないいないですよ?」


 ミイは人差し指を頬にあて僅かに首を傾ける。

 その姿も声も相変わらず可愛らしいものであったが、内容は望とアルタにとってとんでもないものだった。

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