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2話「スキル」

 王国に四人目の人物が入ってから一週間が経過した。


「あぁ……またカレー食べたいなぁ」


 そう呟くのは国の王であるアルタである。

 思い出すのは色々と話して自身と同じ十九歳という事が判明した黒髪の新入国民の事である。


 この世界に来て突然話しかけたにも関わらず彼は敵意をみせる事は無かった。

 そしてすぐに仲良くなれたのは心の底から嬉しいと感じた。


 魔物が居て外では気が抜けないこの世界。

 それだけではなく人同士でも騙しあったり争いあったりがあるのだから知らない者同士だと最低限は警戒するのが普通である。

 しかしあの平原で出会った彼にはそれが無かったように感じた。

 とても平和な世界から来た善人というのが彼女の中の望という人間であり、ああいった感覚を自然と持てるような国を作りたいと思った。


「残りは保存魔法を掛けたんだ。また食べれるよ。それまで我慢だね」


 先ほどのひとり言を聞かれたのだろう。

 この世界に来て初めて出来た友であり仲間でもあるラウラがそう言った。


「でも複製スキル持ちの人が入ってくれないと食べれないじゃないですか。あのスキルはレアって聞くし次食べれるのはいつになるんですかねぇ」


 はぁ、とアルタはため息をつく。


 この世界では「スキル」という概念がある。

 大まかに分けると「攻撃系」「防御系」「補助系」「特殊系」に分類され、専用の道具を使用する事で自身がどんなスキルを所持しているかが分かるようになっている。

 オマケとして自身の名前、年齢、健康状態も分かるようになっており世間一般では「ステータスを確認する」という表現が使われている。


 望が初めてスキル判別の道具を使った時はやたらがっかりしていた。

 初日にラウラが自身のステータスを見ておいた方がいいと進言したのだが、ポツリと「なんだ、ヒットポイントとか攻撃力は分からないのか」と呟き肩を落としたのを他の三人は聞いており、何の事か分からず三人共首を傾げた。


「さぁね、頑張って人を集めればそれだけ可能性は増えるのは確かだね」

「それならそろそろ探しに行きませんか?」

「え? うーん……」


 ラウラの言葉にそう返すもあまりいい顔はされなかった。

 

「その前に一度ちゃんと装備を整えないとね」


 続けてラウラがそう言ったが、その言葉は自分達のではなく望に対してだ。


 そしてその望だが、今はこの城には居ない。

 魔物が蔓延るこの世界で自衛の手段がないというのは死亡率が格段に上がる為、現在ブルーガイの指導の下戦闘訓練を行っている。

 訓練とはいっても実際に魔物と戦っており実戦に限りなく近い形式での訓練である。


 刃物らしい刃物は料理の時にしか扱った事が無いと聞いた時はラウラだけでなくアルタとブルーガイも驚いたが、その後彼の過ごしてきた環境を聞くと納得がいった。

 なので最低限の自衛力を持つ為の戦闘訓練には時間が掛かるかと思ったが望のスキルが幸いしたのかそんな事はなくみるみる強くなっているとブルーガイからラウラに報告があった。


 望のスキルは「植物の恩恵」というもので、効果は成長力上昇。

 なぜ植物なのか思い当たることはあるかと聞くと「俺の苗字……あぁ、家名って花の名前なんだよね」という台詞で納得がいった。恐らく先祖代々その名を受け継ぎ、誇りを持っているのだろうとラウラは推測した。 


(今はまだ風が吹けば吹き飛んでしまうような国だ……)


 新しい人が入りそしてその人物のスキルは今の王国にとって役に立つ事が判明したが、浮かれてはいけないと心の中で自分に渇を入れる。


(それに力を持てば人は簡単に変わってしまう)


 ラウラが一番心配しているのはこの点であった。

 それはアルタも分かっているらしく、アルタは望が戦闘訓練する事すら少し渋っていた程だ。あっさり死んでしまうのを防ぐためだと説明し望本人もそれに賛成した事から大人しくはしているが、先ほど人探しをしようと言ったのも少しでも望を戦闘関連から遠ざけるという意図も含まれているのだろうとラウラは予想していた。


 争いがないわけではない、戦争が起こっている地域もある、ただ自分が住んでいた国は戦争はないし人が人を殺すなんて全国民から非難されると言っていい程に禁忌であると断言した彼の話をアルタはキラキラした目で聞いていた。

 「作るなら優しい国がいい」日頃からそう言っていたアルタ。

 そしてその理想に近い感性を持つ望には変わって欲しくない。その思いからか訓練を終えた望に「お疲れ様」とか「怪我はない?」等は言うが「どうだった?」等の訓練内容については本人からは聞かずにブルーガイから報告を受けている。

 そして本人との話題は望の世界の事ばかりなのをラウラは知っていた。


「おーい帰ったぞー」


 あれこれと考えているとブルーガイの声が聞こえた。

 訓練が終わって帰ってきたらしい。

 足音がこちらに二つ聞こえる為すぐにでもここにやってくるだろう。


「ただいま。ってまたここに居るのか。王の間があるのに談話室に入り浸るのはどうなんだ?」

「えーだって王の間に居たらおかえりって言えないじゃないですか。という訳で、おかえりなさい」


 和やかな雰囲気で話す二人を横目にラウラはブルーガイへと歩み寄る。


「で、今日はどうだった? 順調かい?」

「そうだな。もう雑魚なら多少群れた程度じゃ問題ないくらいにはなってるな」

「ついこの間まで戦った事すらなく過ごした人間とは思えない成長ぶりだね」

「あぁ。それと訓練に必要だと予定していた一ヶ月は要らんな。後一週間で充分だろう」

「そう、分かった。なら残りの一週間もよろしく頼むよ」


 成長が早いのは既に知っている。

 しかし予定の半分で済むと言われれば内心驚いた。


 出来れば変わらずに居て欲しい。

 楽しそうに元の世界の事を話す望を見てラウラはそう思った。



------



「うーん。変わってないな」


 夕食が終わり、四人は談話室に居た。すっかり自分の場所となった席に座りながら自身の情報が表示される不思議な道具「ステータスボード」を見てそう言った。

 ひょんな事から新しいスキルを習得する可能性もあると説明されたその日から訓練が終わったら毎日調べているのだが新しいスキルが現れる気配は一向にない。


「そらそうだろ。そんなホイホイ出てきたらオレなんてスキル欄すげーことになってるわ」


 片手に飲み物を入れた木のコップを持ったブルーガイが隣に座る。


「そういえば自分の事に手一杯でブルーガイ達のスキルとか知らないんだけど、見せて貰ってもいい?」

「おぉいいぞ」


 ブルーガイは望からステータスボードを受け取り、自身のステータスを表示させる。


「ほらよ」

「どれどれ……えーっと、所有スキルは熱血、効果は火耐性か」


 望にはこのスキルが良いのかどうか分からないが、ブルーガイもスキルは自身と同様一つしかなかった。


「複数のスキルを持つってのは珍しいの?」

「いや、そんな事はないぜ。アルタとラウラはスキル二つあるぞ。何がキッカケになるのかが個人によってバラつくから狙って取るのは難しいがな」

「そうなんだ」


 バッと振り向む望。

 ステータスボードを持って少し足早に二人のところへと行く。


「なぁ、二人のスキル見せて貰ってもいいか?」

「いいですよ」

「仲間に見られて困るようなものでもないし私も構わないよ」


 最初にアルタがステータスボードを手に持つ。

 すぐにステータスが表示され望がそれを覗き込む。


「どれどれ……うわ、何コレかっこいいんだけど!」


 羨ましがった望の目には「救済の女神」という文字が映っていた。効果はヒール系統の呪文習得と書かれている。


(そういえば魔法もあるんだよなぁ)


 そんな事を思いながら自身には魔法の才能が無かった事を少し悔やむ。

 ブルーガイも肉弾戦オンリーなので転移を除いて未だに魔法を目にした事はない。


 目を下にズラすと「太陽の温もり」というスキルがあった。


「効果が『想いが相手に伝わりやすくなる』ってこれもしかして最初に俺と話した時に使った?」

「スキルは所有しているだけで効果があるから自分の意思でのオンオフは出来ないよ。出会った時のやり取りで何か思い当たる事でもあったの?」


 答えたのはラウラであった。

 『太陽の温もり』は警戒や敵意といった負の感情を持たれているとほとんど効果の無いスキルである。

 出会って一週間、これまでそういった気配は感じられなかったがスキルの効果を自覚できるほどハッキリと感じる程であれば今後も謀反されない可能性が高いと言える。


「何ていうのかな。話した時に不思議と「この人は本心で喋っているな」って感じたんだよね。不思議な感覚だったけどこのスキルを見て納得がいったよ」


 この時ラウラは確信した。

 竜胆望という男は信用出来ると。

 そして密かに警戒していた事を心の中で謝罪した。


「えへへ。ありがとうございます」


 テレたように言っているが、単純に照れているわけではなくアルタもラウラと同じ事を考え同じ結論へと至ったのだ。アルタはラウラのように警戒という程の感情は持っていなかったが、それでも心から信頼出来ると分かるのは嬉しいものである。


「じゃ、次は私の番ね」


 ラウラのステータスが表示される。


「見てもらったら分かるけど、私もアルタと同じで二つのスキルを持ってる。一つは「冷静沈着」で効果は混乱耐性。もう一つは『月の輝き』で効果は【太陽が】そばに居ると全能力アップだね」

「太陽?」


 望は首を傾げたが、しばらく考えるとピンときた。


「もしかして……アルタのスキルと関係がある? 太陽のスキルを持つアルタのそばに居ればそれだけで能力アップって事?」

「その通り。しかし元の世界だとスキルなんて無かったんだよね? 結論に辿り着くのが早い。そこの計算も出来ない筋肉とは違うね」

「さりげなくオレをディスらないでくれる? 後多少は出来るぞ。多少は」


 ブルーガイが突っ込むがどこ吹く風といった感じで流すラウラ。


「この世界のスキルっていうのは無数にあるんだなぁ」


 望は感心したようにそう言い、ふと一つ気になった事を聞いてみる。


「アルタとラウラって最初からスキル二つあったのか?」

「私もラウラも最初は一つですよ。下に書かれているのがこの世界に来てしばらくしてから追加されたスキルになりますね」

「となるとアルタは『太陽の温もり』でラウラは『月の輝き』がそれになるのか。参考までに取得条件を教えて貰っていいか?」


 望の問いにラウラが口を開く。


「手に入れた瞬間ってのは分からないんだよね。もしかしたらって心当たりはあるけど、それを気にして本来手に入るはずのスキルが手に入らなくなったり手に入れるのが遅れたりするのは勿体ないからノゾムは後悔しない生き方をすればそれでいいと思うよ」

「それもそうか」


 最もな意見に大きく頷くとそこでひとまずお開きとなり、各自自由に時間を潰すこととなった。





「ふぅ」


 夕飯を食べしばらく皆で雑談をしていたがいつも一番早くに眠くなるアルタに合わせて解散となった。

 与えられた寝室で一人になった望はベッドに腰掛けため息をつく。

 この世界では日本語が通じる。というより自動で翻訳されている、とラウラが説明してくれた。

 予想だとは言っていたが望も今では同じ意見を持っている。 


(この世界に来て一週間。向こうの世界で騒ぎになってたりするんだろうか?)


 望には家族は居ない。

 孤児院で育ち高校を卒業すると同時に一人暮らしをしていた為そこまで気にしてはいないが行方不明扱いになるだろうし大家さんに少し申し訳なく思った。


(ブルーガイは褒めてくれたけど俺はどのくらい強くなったんだろう……?)


 次に考えたのは自分自身の事。

 残念ながら魔法は使えなかった為自然と武器を使った戦い方を学ぶようになったが自分の強さがよく分からない。

 元の世界を基準に考えると一対一なら既に世界最強だと自覚出来るレベルにはなっているが、それはアテにならない事を既に嫌という程分かっている。


(剣や弓や鎧がそこらの店で売られてるって言ってたし外には魔物がウロウロしてる。魔法なんてものは存在するし今日はとうとう剣から斬撃が飛んだんだよなぁ)


 成功した時ブルーガイは「それが剣閃だ」と特に驚く事なく言った為この世界ではありふれた現象なのだろうと予想がついた。

 そして剣を使わないと出来ない望に対し、ブルーガイは拳のみでそれを再現してみせた。

 斬撃と衝撃という違いはあれど共に遠距離攻撃である。


 魔法は魔素という大気に漂っているものを扱う才能がないと行使する事が出来ない。

 だが望やブルーガイのようにただの物理攻撃扱いにはなるが魔力を使って遠距離攻撃等は可能なのである。


(とはいえ三人と違って俺は魔物が居ない世界出身だし迷惑を掛けないように気をつけないとな)


 後一週間訓練すれば望用の装備を買ってくれると聞いている。

 金の面などは気にしなくてもいいと言われているがそう割り切れるものではない。


 望を育てた孤児院の院長も色々な事を言っていたのを思いだす。

 特によく言われたのは「感謝の気持ちは伝える事」、「悪い事をしたら早めに謝る事」、「他人から受けた恩は必ず返す事」だっただろうか。


 ここに来てあれこれと世話を焼いてくれる三人。

 これは大きな恩と言っていいだろう。


 成長するに従い自然と自身も同じ気持ちを持つようになった望は恩を返す為、アルタ達の役に立とうと決心しその日は寝ることにした。

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