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16話「依頼と兵士」

 元気良く走って行ったブルーガイとドラク、図書館へと向かうため歩いて行ったラウラ。

 残った望とアルタは薬草採取の為に並んで町の外へと向かう。


「二人で依頼を受けるのも久しぶりですね」

「そうだな。前はヴァーニを見つけた時だったか」


 望はあの時に初めて対人戦を経験した。

 戦う前には葛藤があったり、戦った後にはあまりの弱さに拍子抜けしたりしたが、結果的に一人の異世界人を救えたことは望は自分の事ながら少し誇らしく思えた。

 誰かを救い、感謝されるというのは気持ちのいい事だと実感した。


(だから、今もこうしてこの子を手伝ってるんだろうなぁ)


 誰かの為に力を惜しみなく使う隣にいる女の子を見ながら望はそう自分の気持ちを結論付けた。


 そしてまた並んで歩き出す。

 普段ならばあれこれと話すのだが、不思議と口数が少ない。

 とはいえ周囲が賑わっているので気まずさはないし今更多少の沈黙で居心地が悪くなるような間柄でもない。


 と、そんな事を思っていた望の服の袖が誰かに引っ張られた。


「ノ、ノゾム……あれ、買いませんか?」

「えっ?」


 そして聞こえた声はそんなものだった。

 目をスライドさせ望はアルタを見る。

 するとその視線は屋台に突き刺さるように凝視されていた。


(アルタって意外と食い意地張ってるよなぁ)


 普段賑やかなアルタが大人しかったのはこれのせいだったか、と思いながら心の中で苦笑する。

 先ほどラウラが言っていた「依頼が終わったら」という言葉を聞いていなかったわけではないが、望はなんとなく願いを叶えたくなった。


「そうだな。腹が減っては戦はできぬって言葉もあるしな」

「ですよね! そうですよね! それじゃさっそく買いましょう!」


 望に許可を貰ったと思ったアルタは笑顔になると同時に袖を引く力も強くなる。

 ぐいぐいと引っ張られながらもその嬉しそうな顔につられ望も笑った。


「ちょ、そんな引っ張らなく……え、なにこの力強さ。うぉっ!」


 普段のアルタからは考えられない程の勢いで引っ張られ、望は目当ての露店に到着するまでに何度も転びそうになるのであった。





「あれ、あそこにも兵士がいる。一体何人居るんだ?」

「ひゃんかあっふぁんでふひゃへぇ?」

「食ってからでいいよ。何言ってるかわかんないし」

「むぐ……ん。何かあったんですかね?」


 町の外へと出た二人はそんな会話をする。

 アルタの両手には串が握られており、アルタの魔法用の杖は望が持つという構図が出来ている。


 望達はこことは反対側の出入り口から町に入り、そこで数人の兵士を見た。

 そして依頼を受けてこの場所に来るまでにも数人の兵士を見た。

 更には外に出て馬車の御者にも話しかけている兵士もいるのだ。


 見かけていない兵士もいるだろうことを考えると相当な数の兵士がこの町に滞在していることが推測できた。


「何か探してる……ような感じだけどまぁ俺達は俺達の仕事をするか」

「そうですね」


 兵士達からは切羽詰ったような感じはしないのだが、これだけ力を入れて何かを探しているのだとすればそれだけ重要な事なのだろう。

 気にはなったが自分達には関係ないとその考えを振り切り二人は採取出来る場所へと向かった。





 町から十分程歩き、依頼所で聞いた場所へと到着する。


「お、あったあった。とはいえ数が少ないな」

「ここら辺のを取ったらまた歩いてみましょうか」

「そうだな」


 二人は依頼の品である「パライズ草」を採取する。

 パライズの草はそれ単体では何の効果もないが、複数の薬草と混ぜ合わせる事によって麻痺の状態異常を治す回復アイテムとなる。

 麻痺を引き起こす攻撃を所有する魔物は限られてはいるが、持っているのと持っていないとではその戦闘での生死を分ける為、冒険者にとっては必須の道具となる。


 稲妻のような形をした葉っぱは見分け易く二人は次々と専用の袋の中へと入れる。

 ものの五分足らずであらかた採り尽くすと、別の場所を探して再び歩く。


「そういえばアルタに聞きたかったんだけどさ」

「はい? なんですか?」


 可愛らしく首をかしげるアルタに望は気になっていた事を聞く。


「ドラクが入ってきただろ? 入ってから今まで割と過激な発言が多かったけど、心配にはならないのか?」


 『戦いを経験すれば人は変わる』という言葉を聞いた望はアルタはもっと気にすると思ったのだ。

 自分の時にはアルタが凄く心配していたことを知ってもいる。

 戦闘訓練をする事すら渋っていたとも聞いている。


 しかし、自身と同じ魔物の居ない世界から来たドラクが入って以来そういった心配をするアルタを望は見ていなかった。


「ノゾムがそれを言いますか? もうっ」


 頬を膨らませて精一杯の怒りを表現するアルタ。

 もちろん全く怖くはない。


「え、何で俺が関係するの?」

「ノゾムが言ったんじゃないですか、心配ないよって」

「言ったか? そんな事」


 はて、とそんな事を考えていたがふと思い出す。


(あぁそういえば言ったな。言ったけど、あれは――)


 確か、と心の中で前置きをして記憶を探る。


 ドラクが王国に来て最初の日、城の設備や置いてある武器や防具に異常な関心を示すドラクを見て、アルタが望に話しかけた。


『す、すごい男の子ですね』

『ほんとにね。でもまぁ心配ないよ』


 この時、これから心配するだろうと先を予測した望がアルタに言った。


『え?』

『あの子は強い力に憧れてるけど、それだけだ。もし何かやらかしたら凄い後悔して、凄い反省するタイプだ。だから心配ないよ』


 嘘を言ったつもりはない。

 望から見てドラクは中二病を患ってはいるものの、人畜無害な人物だと思えたし今の所実際その通りとなっている。

 しかし他人の言葉なんて気休め程度にしかならないと思い込んでいた。

 まさかその言葉を信じてこんなにも安心するとは望本人も思ってなかったのだ。


 これは少なからず共に過ごしたとて未だアルタという女の子を図りきれていない望のミスだった。

 結果、アルタは現在むくれている。


「あー……すまん。忘れてたわけじゃないんだけどさ、ほら、ここんとこ随分まったり過ごしてたし」

「いい訳ですか? いい訳ですね。ダメですよ、いい訳は」

「おぉ……アルタがいつになくぐいぐい突っ込んでくる」


 有無を言わさぬ迫力を纏うアルタに反論が出来なくなる望。

 それを見たアルタは満足したかのようにクスリと笑う。


「ふふ、冗談ですよ。怒ってません。ノゾムが私を騙すはずないですし」


 アルタは本心から言っていた。

 そして望もそれが本心だと理解出来た。

 ほんの少し照れくささを感じながらも信頼されて悪い気はしない。


 そんな望にアルタは「あっ」と一つ声をあげる。


「でもでも、ノゾムがお詫びをしたいって言うのなら私はそれを受け取りますよ」

「お詫び? 何か欲しいものでもあるのか?」

「えへへ、実は気になってた揚げ物の露天があるんです。でもちょーっと手持ちが……」

「アルタって見かけによらずよく食べるよな。まぁ、それくらいならご馳走させてもらうよ」

「ほんとですかっ! やったぁ!」


 普段は割と控えめなイメージだったが、いつもとちょっぴり違う一面を見せたアルタ。

 これも仲良くなっていっている証拠かと思う。


 二人はそのままてくてくと歩き、望はふと思う。


(それにしても俺も随分この世界に馴染んできたな。元の世界が恋しくなるかとも思ったけど、自分でも驚く程そんな感情が湧かないし)


 地球に比べると不便な点は多々ある。

 ちょっとした薬が欲しいと思っても、材料を調達する所から始まるのがほとんどだ。

 移動に関しても望がこちらに来る前に愛用していた自転車なんかは無いし、あったとしても距離的にまず使えない。


 住んでいる場所の近くには駅やバス停等はない。

 そもそも電車もバスもなく、あるのは馬車だけだ。


 食事に関しても質素なものが多く、ジャンクフードなんてもう食べられないだろう。

 調味料も手に入りやすいものは種類が少ない。


 だが、それに変わる魔法や魔道具がある。

 魔物という存在はいるが、頑張れば強くなれるこの世界では自分も、仲間も守ることが出来る。


 そして何より自分と同じ境遇にある仲間と楽しい時間がある。

 今の望には一緒に城に住む人達が「信頼しあえる仲間」と自信を持って言える。

 例え共に過ごした時間がまだ短くとも。


 そんな事を考えていると横からアルタの声が耳へと入ってきた。


「ノゾム、ここにもありましたよっ!」


 同時にアルタも見つけ、笑顔で望へと話しかける。

 太陽のように明るい笑顔に望もつられて笑顔になる。


「よっし、それじゃとっとと取るか!」





 持っている袋が一杯になるまでパライズ草を取った二人。

 片方は依頼の品として依頼所に納め、もう片方の袋をフォティスへと渡す予定だ。


「ブルーガイ達はまだ終わってないだろうなぁ。ラウラはどうだろう?」

「うーん。ラウラもまだ終わってないと思いますよ。前に似たような依頼を受けていたんですが、思ったよりも時間が掛かったって言ってましたし」

「そっか。なら少しのんびりするか」

「そうですね」


 町へと戻りながら余った時間の使い方を考える二人。

 基本的に一つの依頼を受け終わったら自由時間となる。

 それ以上の依頼を受ける時は町の中で済む依頼なら受けていいというのが異世界王国のルールだ。

 依頼によっては疲労してしまう為、二回目の依頼で外に出るのは危険だというのが王であるアルタの判断である。


 舗装された石畳へと足を踏み入れ、大通りから一つズレた道を歩く。

 その時、二人の丁度真横にあった細い路地から黒い塊が飛び出してきた。


「おっと」

「きゃっ!」

「うぉっ!」


 予期せぬ状況に驚きの声が漏れる。

 それは相手も同じだったようで三人の声が重なった。

 その中で一番ビックリしたであろうアルタは思わず望の腕にしがみついた。


 暗がりから出てきて一瞬なんだか分からなかったが、光に照らされそれが人である事が分かった。

 黒い甲冑は帝国の兵士の証である。


「驚かせて済まなかったな」

「怪我もしてないし問題ないよ」


 謝罪する兵士に望がそう返事をすると、我に返り少し恥ずかしそうにしたアルタが望の腕を離す。


「あぁそうだ。ちょっと聞きたいんだが、最近この辺りで青い髪をした女性を見た事はないか?」

「青い髪の女性……? いや、悪いけど見てないと思う」


 最近、という単語に今日この町に初めて来た望は反応しない。

 目の前の兵士は人の良さそうな雰囲気は持っているが、根掘り葉掘り聞かれ転移の事を知られるのはいい事ではなかった。

 誤魔化す為の言葉もあるが、自分から困る状況を生み出すこともない。


 最低限の言葉で離れようとしたとき、アルタが口を挟んだ。


「その人がどうかしたんですか?」


 アルタがそう聞くと、兵士は困ったように事情を説明し始めた。


 最近、帝国の優秀な人物が一人居なくなった。

 最初は私用だということで城を離れたが、そのまま戻ってこない。

 捜索隊が結成されて現在捜索中。


 纏めるとこのような感じであった。


「それは心配ですね」


 自分の事のように感情の篭った声でそういうアルタ。


「捜索隊って何人いるんだ?」

「丁度百人だな。たった一人の為にこの人数だなんて異例な事だ」


 更に、この兵士は探している人物と関わることが無かったらしく、会話の経験はおろか顔すら知らないらしい。

 望はそれを聞いてどうやって探すんだと思ったが、この世界で青い髪を持つ人物はかなり珍しいとの事。

 その上で性別や年齢が判明しているのならばそこに居さえすれば見つけるのは比較的容易だというのが兵士の言葉だった。


「ただ、一ヶ月も経過しているからな。この辺りには居ない可能性が高い」


 故に足跡を辿るため聞き込みを行っていると兵士は告げた。


「そうなのか。もし何かあれば知らせるよ」

「協力感謝する」

「仕事中に引き止めて悪かったね。さ、行こうかアルタ」


 人探しを手伝うなんて言い出さない内に離れようとアルタの手を引っ張る望。

 幸い百人が探して見つけられないのならば自分達が加わった所でほとんど意味がないと理解したのか少し残念そうにしながらもアルタは望についていく。


 少ししゅんとしたアルタを見て、いつぞやブルーガイが言っていた「人助けオタク」というのも頷けると心の中で思う望。

 そのアルタも残念な気持ちはあるもののそれを引きずるほどではない。


(それっぽい人を見かけたら教えてあげなきゃ、うん)


 今の自分に出来る事を結論付けると一つ頷き普段通りの自分へと戻る。


「それじゃノゾム、あれ食べましょう!」


 そして再び笑顔になり望の腕をぐいぐいと引っ張るのであった。





 全員の依頼が終わると、決めてあった集合場所に集まり城へと戻る。

 夕食の時間も近くなっておりこの時間は自然と全員が食堂へと集まり会話に花を咲かせるようになっている。


「いやー皆に見せてやりたかったぜ! 俺が魔物の急所を正確に捉えたあの一撃を!」

「動けないように魔物を押さえつけてたのはオレだがな」


 ドラクは初めての戦闘に余程感動したのか既に何度も同じ話をしている。

 そして毎度同じ突っ込みをブルーガイに入れられている。

 しかしドラクがそれを気にしている様子は全くない。


「俺とブルーにーちゃんが組めば最強なんじゃねーの!」

「……そうだな。もうそれでいいよ」


 跳ね上がったまま衰えることのないテンションについていけず、とうとうブルーガイが突っ込む事を諦める。

 現在の王国の中ではドラクが一番最年少の為その様子は温かく見守られている。


 ドラクの初陣話を聞いていると料理が運ばれてきた。

 今日の料理はオレンジ色をしたものが多い。


「ニンジンのサラダにニンジンのスープ、あとはパンにもニンジンが混ぜ込まれてるね」

「メインディッシュにニンジンステーキもありますよぅ~」


 ラウラの声に続くようにヴァーニが大きな皿を皆の前においていく。

 ソテーされた大きなニンジンにソースがかかってある。

 色だけでそのソースにニンジンが含まれている事だけは全員が瞬時に理解した。


 使われている材料に偏りはあるが、ヴァーニは決して料理が下手なわけではない。

 それが分かっているメンバーは不満を出す事なく食事はいつも通りに始まった。


「う~ん。やっぱりニンジンは美味しいですぅ。毎日でも食べたいくらいですねぇ~。ブルーガイさんもそぉ思いませんかぁ?」

「確かに美味いが毎日はちょっとな……肉も食いたいぜ」


 ニコニコと機嫌よくブルーガイに話しかけるヴァーニだが、話しかけられた当人は少し引きつった顔になっている。

 その向かい側ではフォティスがそれを見守るように食事を取っていたが、ふと思い出したようにハッとしてアルタへと向いた。


「おっとそうじゃ。アルタちゃんや、そろそろウード村に薬を届けたいんじゃが」

「それじゃ明日は予定も特に決まってませんし、行きましょうか」


 いいですよね、とアルタがラウラに確認を取るとラウラも快く頷く。


「勿論だよ。さて、それじゃあ誰にしようか?」


 この誰とは、アルタとフォティスについて行く人物の事である。

 運動神経は悪くないが戦闘の出来ないアルタとそもそも非戦闘員のフォティスだけでは危険が付きまとう。

 よってウード村に赴く時は最低誰か一人戦える者が同行する。


「ノゾム、お願い出来ますか?」

「いいよ。特に用事もないし」


 アルタに声を掛けられた望は二つ返事でそれを承諾する。


 ウード村に行く、という事は基本その日は休み扱いとなっている。

 何度も転移をすればいつも通りに依頼を受けられたりするのだが、手間が掛かるためその日一日は各々が城の中やその周辺で好きなように過ごすのだ。


「それじゃあ俺は近くに居る魔物と――」

「ドラクちゃんはわたしと一緒に草引きしましょうねぇ~」

「あ、はい」


 食事は終われど食堂からは声が響く。

 いつもより少し遅くまでそれは続き、夜は更けていった。

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