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15話「???」

 ある日の異世界王国のメンバー達はいつも通りの日常を送っていた。

 否、一人増えた事でより騒がしくなっている。


「ゲッ、またカボチャかよ……」

「今日はパンに混ぜ込んだから飽きは多少改善されてると思うよ」

「苦手なんだよ、カボチャ」

「好き嫌いしない。ほら、強くなれないよ?」

「いや、流石にそんな事で騙される程子供じゃないぞ」


 水晶洞窟で新たな仲間として迎えられたドラク・シュバルツルード、そして本日の料理当番であるラウラの声が食堂から聞こえる。


 ドラクは望の推測通り元の世界では戦闘とは無縁の生活を送っていたという事で、本人の希望により訓練を始めることになった。

 曰く、「俺は絶対にこの世界を救う人物だ! 強くなれて当然だろう!」と、よく分からない自信を持っており、それは今でも変わりない。


 しかし圧倒的に体力が無いという事実が判明し、実践的な訓練は後回しにし毎朝ランニング等のトレーニングをして体力づくりをしている。

 誰よりも早く起き、その努力は誰もが認めるものであったがその成果は未だ現れていない。


 ただただ体力づくりのトレーニングをして一ヶ月。

 その程度の日数ならばまだまだこれから、と言いたい所だが「異世界人」というのはどうも成長の早い存在が多いらしく、七人の中では望がその代表格である。

 勿論望に関してはスキル「植物の恩恵」が更にその度合いを高めているのだがそれを抜きにしても異世界人の成長は早い、というのがこの世界の常識となっている。


 それが前提となっているからこそ今のドラクの成長の遅さには他のメンバーも首をかしげている。

 元々魔物が生息し、戦闘というものを経験していたアルタ、ラウラ、ブルーガイといったメンバーもユミルキーアに来てから自身が元の世界に居た時よりも強くなっていると感じる程である。


 最も伸びるであろう基礎の基礎ですら躓くというのはアルタ達に一つの可能性を浮上させた。

 「稀に異世界人であったとしても成長力が乏しい者もいる」という珍しい例である。

 王国に入った次の日から己は強くなると信じ走っているドラクにもそういった事があると望達は伝えたが、「全く面白い冗談だな。俺には当てはまるわけないだろう、はっはっは!」と言って聞く耳を持たなかった。


 変わった性格をしているが悪い人物ではないので周りも本人の希望になるべく沿うようにしている。


「ここは異世界だよ? 何がキッカケで強くなるか分からないじゃないか」

「むっ……なるほど。確かに食事とは非常に重要なものだな。この世界で育ったカボチャを食べるということはすなわちこの世界を喰らうということにもなるのか……?」

「いや、それはどうかな」

「いいだろう! このドラク・シュバルツルードがこの世界全てを喰らう! まずは貴様(カボチャ)からだ!」


 意味は無いが立ち上がり、目の前にある自分の皿の上にあるパンをガシッと掴む。


「まだ皆揃ってないから食べないでね」

「あ、はいごめんなさい」


 素直に謝ると着席しつつパンから手を離す。


 そんな会話をしていると他のメンバーが入ってくる。

 すっかり生活習慣が同じになったメンバー達は次々と食堂へと足を踏み入れ、それぞれがいつもの自分の席へと座る。


 全員が揃うとラウラが温めたスープを持ってきて、朝食が開始される。


「悪いけどソース取ってくれるか?」

「はいどうぞ。私には醤油を貰えますか?」

「ふむ。やはりワシは塩胡椒じゃな」

「マヨだ! オレにマヨネーズをくれ!」


 望が王国に入って四人になった時も会話が盛んに行われていたが、人数が増えそれに拍車がかかっている。

 ちなみに今飛び交っている声ははラウラが焼いた半熟の目玉焼きにかける調味料についてである。


「むぐ……むぐ、ごくん。クハハハハ! これで俺はまた一つ強くなったぜ!」

「あ、このパン美味しいですぅ」

「この前の依頼で貰ったカボチャがまだ余ってたからね。かぼちゃパンにしてみたんだよ」


 こちらは三人がパンを口にしている。

 ドラクの発言については全員が「中二病」という概念を望から学び、とりあえずそっとしておくという事で意見が纏まっている。

 最初の発言こそアレだが、相手の返事によってはすぐにドラクが素に戻るため他のメンバーの精神的被害はほとんど出ていないのも放っておかれていることの一因である。


 食事が終わるとそれぞれが今日の予定の準備のため席を立つ。

 食べるスピードは違うメンバーだが、会話が盛んな為まとまって食堂を後にする事が多い。


「それじゃワシは部屋に戻って調合するかのぅ。しかしトランスポーターもなければポイントウォークもないというのは不便すぎて慣れんわい」


 町の至る所にあり決まった地点同士を行き来するトランスポーター、そして坂道だろうが起伏の激しい舗装されていない地面だろうが地上と十センチの距離をあけて浮遊し、入力した場所まで移動する乗り物ポイントウォーク。

 生まれてから当たり前のように使い続けたものが一切無いというのは老齢のフォティスには厳しいものだった。

 とはいえ無い物は無いので仕方なく自らの足で歩き自室へと戻って行く。


「では準備をして私達も行きましょうか」


 そう言いアルタも席を立つ。


「分かった。それじゃ俺も準備してくるよ」

「あーオレはガントレットの手入れがまだ途中だったな。なるべく早く終わらせるぜ」

「冒険だな! ふははは、俺に任せておけ!」

「正確には「依頼」だけどね。それに討伐系を受けるとは限らないよ」


 それに連なる面々も立ち上がり食堂を後にする。

 そして一人、食堂に残った者がいる。


「それじゃ~、わたしはお片づけしまぁす。今日はお留守番ですしぃ」


 ヴァーニはそう言うと、空になった食器を鼻歌交じりに片付け始めた。





「準・備・万・端!」


 自分用に用意された丈夫で薄い黄色のローブ、を断り、お願いして再度用意してもらった真っ黒のフード付きローブを羽織る。

 回復アイテム等を入れるベルトは、使いやすいと道具屋で見せてもらったものを遠慮し、実用性よりもデザインに重点を置かれ作られたものに一目ぼれし、反対する皆に自身のポリシーやら熱意やらを十分程話し買ってもらった。

 それを腰辺りに装着。

 戦闘経験もそしてセンスもない自分に勧められたリーチの長い槍をこれまた断り、ローブの中にすっぽり隠れ一見何も武器を持っていないかのように見えるサイズの二本の短剣をひっそりと忍ばせる。

 そして最後にブーツ。これは特にこだわりが無かったのであっさりオススメされたものに決めた。


 外に出るのならば必要である物を装備し転移部屋に到着したドラク。

 肩に掛かる程度の男にしては長いであろう銀髪はそのまま垂れ流しになっていて、戦闘でもないのに無駄に動くドラクにつられ暴れている。


 体力づくりではほとんど成果が現れず、ほんの触りだけやったブルーガイ相手の模擬戦では「全くと言っていい程にセンスが無い!」と言われたものの、ドラクは諦めてはいなかった。

 普通に暮らしていた自分が突如異世界にやってきたのだ。

 何かあるはずだと今でも信じている。


 というのもドラクのスキルがよく分かっていないからだ。


 王国に来て数日経ち、ドラクは望の時と同様にステータスボードを使用した。

 本来ならスキルの名前そして効果の二つが表示されるにも関わらず、ドラクにはそれが表れなかった。

 変わりに「???」というスキル名と「???」という説明文が表示された。


 望よりも先にこの世界に来ているアルタ、ラウラ、ブルーガイも不明なのは見た事がなく、謎のままになっている。

 一つ分かったのはスキルが無い者はそれすらも表示されない為、ドラクは何かしらのスキルを持っているという事だ。

 そしてそれはドラクの希望となった。


「もう来てたのか。早いな」

「ノゾムにーちゃんか! いやー冒険だぜ冒険! ワクワクするぜ!」


 望が一番に来ていたドラクに声をかける。

 返事はとても弾んだ声で返され、新しい玩具を与えられた子供のようにはしゃぐドラクに望は苦笑する。


「ま、危険な事には顔突っ込まないように」

「わーってるわーってる!」


 こちらで過ごした期間は少しながら望が上の為、先輩風を吹かせてアドバイスすると笑顔のままうんうんと頷くドラク。

 それに一抹の不安を感じざるを得ない。

 なにせ「ピンチになったらスキルが発動して敵を薙ぎ払うんだ!」と以前豪語していたのを聞いているからである。

 戦闘系のスキルとは限らないにも関わらずそれを信じて疑わない姿勢はある意味尊敬できた。


 ローブの中でもぞもぞと腕を動かし、サッと短剣を二本取り出し構え、斬る動作を行う。

 本人は精一杯の素早さでそれを行っているのだが正直言って遅い。

 そこらの下っ端兵士ですら簡単に対処してしまう速度だろう。


「お待たせしました」


 ドラクが目の前の見えない敵に向かって何度もその動作を繰り返しているうちにアルタ、ラウラ、ブルーガイの三人もやって来た。


 転移で城から出るのは基本的に五人となっている。

 以前水晶洞窟で転移を行った際、六人でそれを行ったのだがアルタが疲労してしまった。

 本人も正確には知らなかったのだがゲートキーを使った転移は質量が増えれば消費魔力も大きくなる。

 今までは少人数での転移しか行わなかった為アルタが疲れてしまう事は無かったのだが、今後は負担を抑えて同時に転移するのは五人までだとした。


 依頼をこなすのならばムラっ気はあるが採取、索敵、戦闘も行えるヴァーニが適任なのだがドラクが駄々をこねたのでこのメンバーとなっている。



「では行きますね」


 全員が転移陣の中に入った事を確認したアルタがそう言い、五人は転移した。





 シャト街道。

 帝国の帝都に近い位置に存在しているシャトという名の町から伸びている道はどの方向に伸びていようがそう呼ばれている。

 帝都に行く道、帝都から離れる道、他にも別の町へ行く道等があちこちに伸びており、その道の一つにアルタ達は転移した。


 昼夜問わず人通りも多く、本来ならば誰かに見つかりそうではあるが幸いにして外からは見えにくい道からズレた場所に転移陣があり見つかりにくくなっている。

 もし見つかったとしても「転移」の使い手だと思われるだけなので驚かれはするだろうがゲートキーの存在さえバレなければ特に問題はない。


 望も薄々感づいてはいたが、ゲートキーは世界にアルタしか所有者が居ない。

 町で見かける商人などは全員が全員馬車を使っていたからだ。

 世界各地を転移出来るという事の意味が分かる商人ならばそんな魔道具があるのならば放っておかないだろう。

 タチの悪い者ならば何をしてくるか分からない。


 故にもし何かあれば転移はアルタのスキルという事で誤魔化すようになっている。


「魔物は居ないのかっ!? 俺の力を見せてやるぜ!」


 ドラクは勢いよく転移陣から飛び出す。

 しかしここは人通りも多く町にも近い場所である。

 依頼を受ける冒険者も多数シャトの町に滞在している為、魔物の掃討もされている。


「多分この辺りには居ないと思うよ。さ、シャトの町に行こうか」


 興奮気味のドラクを嗜めるように声を掛けるラウラ。


 五人が見晴らしの悪い場所から離れると、すぐ町が目に入る。

 街道に出ると少し遠いが後ろから馬車がやってきているのが分かった。


「何かあの馬車たくさん人が乗ってないか?」


 目のいいブルーガイがそう呟く。


「定期便だと思うよ。シャトは色んな町に道が繋がっているからね。人を乗せるための馬車も一定時間ごとに出ているんだ」

「ほぉー。それは便利そうだな」


 望が今まで足を踏み入れた町では商人に交渉し、賃金を払うなり護衛を請け負うなりで人が移動していたが、シャトの町は人口がそれらの町に比べて多い。

 移動一つ取っても町によって違いがあるのだ。





「到着ですね。予定通りまずは依頼所に行きましょうか」


 町の入り口につくと、アルタがそう言った。

 栄えているだけあって道路には綺麗に石畳が敷かれている。

 木造とレンガの家が町中に入り乱れているがごちゃごちゃした印象は無く、むしろ整った町、というのが望達の感想であった。


 初めてこの世界の町を見た時の望は大層はしゃいだが、今では多少慣れができておりワクワクとした感情が湧いてはくるがテンションが振り切らない程度の態度となっている。

 変わりにドラクが目を見開き食い入るように町を見ている。


 話を聞く限りドラクの世界は望の世界と近い。

 ドラクの世界にはこういった雰囲気の町は無かったのだ。

 まるで物語の中に飛び込んだ気分になったドラクは以前の望同様にテンションが上がっている。


 シャトの町はかつて望がアルタに髪飾りをプレゼントしたハーファの町のように露店がそこかしこに見られ、食べ物やちょっとした小物などが売られている。

 種類も様々なものが置かれドラクだけでなくアルタの目もあちこちに移っている。


「どれも美味しそうですねぇ」

「はいはい、依頼が終わって時間があったら食べようね。というか私達朝ごはん食べたばっかじゃない」

「ん? なぁ皆、あれって……」


 依頼所に向かう途中、今までに二度出会った帝国の兵士を望が見つけた。

 人数は多く、あちこちで町の人間と話している。

 賑わいのある町で真っ黒の甲冑を着てガチャガチャと音を鳴らして歩いている兵士はかなり浮いていた。

 だが、周囲がそれを気にしている様子はない。


「なんだろうね。まぁ、この町に来たばかりの私達には関係ないさ」

「そうだな。さっさと依頼所に行こうぜ」


 ラウラがそう結論付けるとブルーガイもそれに同意する。

 一度は敵対し、一度は共闘した帝国の兵士。

 あちらが自分達に反応しないのであればこちらも特に用事はない。


「おっ! あれが依頼所かー!」

「おいおい人多いんだ。危ねーぞ」

「ブルーにーちゃん達も早く来いよ! 冒険が待ってるぜ!」

「聞いてねーな……子供かよ」


 依頼所である一際大きなレンガの建物が見えるとドラクは笑みを深めて駆け出した。

 それを追い四人も横開きになっているドアをくぐる。


 建物の中には冒険者とその話し声で溢れ、とにかく活気があった。

 パーティーで次の依頼の予定を話し合っていたり、よそのパーティーと情報交換をしていたり、受付嬢を食事に誘っていたりと様々である。


 騒がしくはあるが不思議と不快には感じられない雰囲気の中、五人は依頼が出されている掲示板を見る。


「ふむ、流石大きな町だけあって依頼の種類も豊富だね」

「魔物と戦おうぜ!」

「俺は特に希望はないかな。今日はラウラに任せるよ」


 ドラクは相変わらず好戦的な発言で、望は特に希望も無かったのでお任せとなる。


「オレは討伐系にしてくれ。最近は平和だから体がなまっちまうぜ」

「うーん。あっ、これフォティスさんの使う薬草と同じ種類じゃないですか? これ受けて余った物は持って帰りましょう」


 ブルーガイが討伐依頼を、そしてアルタが採取依頼を希望する。


「ふむ。それじゃあ――」


 四人の希望を聞いたラウラは少しの間考え結論を出す。


 危険度は低いが討伐依頼をブルーガイとドラクに。

 町の外へと出る採取依頼をアルタと望に。

 そしてラウラ自身は図書館の資料整理となった。


「えー、全員でデッカイ獲物を狙ったりはしないのかよー」

「おいおいそんな事するわけねーだろ。死ぬぞ、主にお前が」


 ドラクは不満そうにそう言うが勿論しない。

 戦えないドラクが一緒だというのも一つの理由ではあるが、別れる事で路頭に迷う異世界人を探す目的もあるからだ。

 更に言えば複数の依頼をこなす事で短時間でそこそこのお金が稼げるから、という理由もある。


 説明されたドラクは「なるほど」と納得し、三組に別れそれぞれが依頼を開始した。

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