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10話「材料集め」

 王国の人口が六人となって数日が経過した。


「う……ん、よっと」


 目が覚めてすぐ、ベッドから出る。

 眠気がゼロという訳ではないが「朝目が覚めたら起きる」という彼女にとって当たり前の考えが二度寝の誘惑を跳ね退ける。

 カーテンを開けると明るい光が部屋の中に入りこんだ。


「今日もいい天気だね」


 一人そう呟くとシンプルなデザインの寝巻きからいつもの服へと着替える。

 少し乱れた髪を整える事も忘れはしない。


「えーっと、今日はどうしようかな? パンとスープと……昨日の残り物でもいいかな」


 顔を洗い身支度を完璧に済ませたラウラは食堂に向かう。

 今日の食事当番は自分であったからだ。


 その為アルタを起こす役目を昨夜望に頼んである。

 最初は男に任せるのは、という気持ちもあったがラウラは望を信頼している。


 それに頼んだのは昨夜が初めてではない。

 証拠に了承を得た時の望の顔は物凄く嫌そうであった。


 以前頼んだ時は「あと五分」を二十回繰り返されたと自身に泣きついてきたのだ。

 大変苦労したようだが、それだけ無駄な時間を強いられても無理やり起こさなかった辺り望の性格がよく表れていた。


(なんだかんだ言って今回も引き受けてくれたしね)


 ヴァーニに頼んだ事もあったのだが、彼女はのほほんとした性格が災いしたのか「あと五分」というアルタに対しなぜか「お付き合いしまぁす」と言い一緒に二度寝するのだ。

 ブルーガイに至っては面倒くさいのが分かっているのか今まで一度も引き受けてくれた事はない。


 食堂へと到着したラウラは魔冷庫を開ける。

 しかし次の瞬間には少し首をかしげる事となった。


(あれ、確かに昨日は晩ご飯が余ったはず……あぁ、夜中にブルーガイ辺りがつまみ食いしたんだな)


 皆が寝静まった頃に魔冷庫を漁るブルーガイの姿が目に浮かんだ。

 度が過ぎない限り別段禁止もしていないので構わないが。


 しかしこうなった以上一品少なくなってしまう。

 何か作って穴を埋めたい所ではあるが、ラウラも料理は得意という訳ではない。

 出来ないという事もないが今のメンバーの中だと断トツでアルタが料理が上手く、次点でヴァーニ、そしてラウラとなっている。


 シンプルな味付けの野菜スープを作り、卵とベーコンを焼く。

 熱したフライパンがジュウッ、と音を立てる。

 食欲をそそるベーコンの香りが辺りを漂い、それに釣られるように足音が近づいてくるのが分かった。


「おはようさん。腹減ったぜ!」

「おはよう。今日は少し早いね」

「朝の訓練が無かったからな」


 食堂へと入ってきたのはブルーガイだった。

 望がアルタを起こす係となる日は訓練も休みとなる。

 理由としては、起こすのに時間が掛かりすぎるから、らしい。


 朝食が完成間近となるとヴァーニとフォティスが食堂へと入ってくる。


「おはようございます~」

「おはよう。美味しそうな香りじゃな」


 ヴァーニは寝巻きのまま出てきており、少し髪型が乱れている事から寝起きなのだろう。

 普段着よりも薄い為よりその大きな胸が強調されている。

 最初は着替えてから部屋を出るように言ってみたが本人が何も気にしていないかこれがいつもの光景となっている。


「じーさん毎朝起きるの早いよな。何やってんだ?」


 ブルーガイがフォティスに尋ねる。


「あぁ、薬草の選別じゃよ。薬草と言っても品質が悪いと使えない物もあるのでな」

「ナントカって機械を使ってやってんのか」

「……この数日で十回は言っておるがトランスアナライザーじゃよ」


 文明レベルが違い機械といったものに興味が沸かず名前を覚えられないブルーガイ。

 そのまま二人は朝食を待ちながら話していたが、フォティスが思い出したように手をポンと叩く。


「そういえばもう薬の材料が少ないんじゃった。悪いがそろそろ採ってきてくれんかのぅ」

「ん? この城の周辺にもあるんだったな。おーい! ラウラ、今日の予定は?」


 ブルーガイに呼ばれたラウラはパンの乗った大皿を両手に歩きながら返事をする。


「二人の会話は聞こえてたよ。そういう事ならブルーガイは薬草採りをお願いするよ」

「あいよ」

「あのっ、わたしも行きたいです~!」


 話がまとまりかけた時、椅子に座って大人しくしていたヴァーニが右手と声をあげた。


「ヴァーニさん? 別にいいですけど、どうしてです?」

「ちょっと前にこの辺りをお散歩した時に山菜や木の実を見つけたんですよ~。でも危ないから勝手に動いちゃダメって言われてたので我慢してたんですが、ブルーガイさんと一緒ならいいですよねぇ?」

「うーん。弱い魔物しか出ないから問題はなさそうだけど、ブルーガイ護衛も頼める?」

「おう、いいぞ。でもまぁヴァーニの足の速さなら魔物と出会っても逃げ切れるだろうがな」


 こうして二人の今日の目的は決定した。

 そしてラウラが全ての朝食を並べ終えるも未だ姿の見えない二人。


「遅いね……」

「もう食っちまおうぜ。どうせ起きねぇよ」

「まぁそう言わずに。今日はノゾムも心を鬼にするって言ってたし」

「それは無理だと思いますけどぉ、もうちょっとだけ待ちましょうか~」


 数分程あれこれ話していると部屋の外に足音がし始める。

 そしてようやく最後の二人が食堂へと入ってきた。


「おはようございますっ!」

「…………おはよう」


 元気なアルタとは対照的に疲れた様子の望。


「二人共おはよう。丁度準備も終わってるから席について。それとノゾム、お疲れ様」

「うん……」


 二人が席に着くと朝食が始まる。

 決まっている訳ではないがだいたいこの時に一日の予定を話し合う。


「フォティスさんはいつも通り薬の作成をして下さい。ブルーガイとヴァーニさんはさっき言った通りフォティスさんが使う薬の材料採り。アルタとノゾムは二人で簡単な依頼でも受けてきてもらえる?」


 すっかり慣れた「了解」という返事をする望をよそにアルタはラウラに質問を返す。


「ラウラは何をするのですか?」

「ん? あぁ、城の中の魔道具の残存魔力が少なくなってきてるから今日は補充をしようと思ってるよ」

「分かりました。なら、私はノゾムと依頼を受けてきますね」

「うん、お願いするよ」


 その後は雑談をしつつ朝食を済ませ、各々は準備へと取り掛かる。


 そしてそれぞれの一日が始まった。



------



 ブルーガイとヴァーニは予定通り薬の材料を取りに出発した。

 勿論ヴァーニはちゃんと着替えている。


 弱いとはいえ魔物も出る為、武装もバッチリである。

 更に二人の腰にはフォティスが製作したポーション等の道具も入っている。


 フォティスのスキルは「奇跡の調合師」というもので、作り方がどうであれ自作の道具であれば高い効果を持つ、というものである。

 今の所は材料も限られているが数さえ確保出来ればトランスアナライザーの力でどこかの商店に卸す事も出来るようになるだろう。


「どこまで行くんですかぁ?」

「城の近くに川が流れてるだろ? その周辺にあるみたいだぞ」


 返事をしながらブルーガイはヴァーニの持っているある物から目が離せなかった。


「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

「はい?」

「それなんだ?」

「私の武器ですよぉ~」


 自身の武器というそれを軽々と掲げるヴァーニ。

 柄は長く、先端に片側は尖った、もう片側は平たくなった塊がくっ付いている。


「槌か。使えんのか?」

「う~ん。多分大丈夫じゃないですかぁ?」

「疑問系で言われてもな……」


 曖昧な返答に困りながらも「平和な土地だしいいか」と結論を出す。

 それよりも心配な事がブルーガイにはあった。


「それ持ったままでいいのか? 三十分以上は歩くぞ?」

「大丈夫ですよぉ~」


 ヴァーニは槌をぶんぶん振り回し、地面に当たる度に鈍い音と共に土が舞うように飛び跳ねる。

 見た目的には力なんて無さそうな感じではるが実はそうでないのかもしれないとブルーガイは認識を改める事にした。


(戦闘経験は無いって言ってたが、ノゾムと似たようなもんか? ……おっ、あれは)


 最近みるみる強くなっている一人の男を想像しながらブルーガイはそう思った。

 そして丁度そこにこの辺りでは最弱と言われている魔物が現れた。


 ピングーという名の魔物で非常に弱い。

 シルエットだけ見れば豚に似ているが、大きさは子豚程度で頭部が赤く胴体が緑。

 三~五歳の子供ならいい勝負が出来る程度の強さしかないにも関わらずやたら突っかかってくる特性を持つ。

 食用にはなるが非常に味が悪く「弱い・ウザイ・マズイ」という三つの単語でピングーが連想される程である。


「なぁヴァーニ、試しにアレと戦ってみろよ」

「はぁいっ!」


 ヴァーニは元気良く返事をすると勢いよく駆け出す。


 しばらくは真っ直ぐ走っていたが、距離がある程度縮まると左右へとまるで瞬間移動のように動きながら進む。

 直線を走っていた時とスピードに変化はなく、戦闘経験豊富なブルーガイですら舌を巻くそのスピードに子供程度の戦闘力しかないピングーが反応出来る訳もなくまともに一撃を受ける。


 槌が地面を叩きつけた音に加え、何か異音も混じる。

 ひとまず直撃したのは見ていた為ピングーを確認するブルーガイ。


「え、頭潰れてんじゃねーか……」


 目に飛び込んできたのは即死したのが一発で分かる程に無残な姿となった魔物の姿。

 とても子供には見せられないレベルの映像がそこにはあった。


「うふふ。ちゃんと出来たの見てくれてましたぁ?」


 ヴァーニは自身のうさぎ耳をピンと立て自慢げに胸をはる。

 何も知らない人間であればそのボディラインに目がいくかもしれないが、ブルーガイは潰れた魔物に視線が釘付けだった。


「お……おぉ。すげぇじゃん」


 どもりつつも賞賛を送る。


(え、なにこれ。めっちゃ強ぇじゃねーかよ)


 未だ全力を出していないであろうヴァーニを見ながら頼もしくさと恐ろしさの二つの感情を抱くブルーガイ。

 非戦闘員だとばかり思っており驚きも強かった。


 ヴァーニはそんなブルーガイの心境なぞ知らずにとことこ歩いて戻ってくる。


「ふふ~ん。元の世界ではよくお餅をついてたのでコレの扱いは得意なんですぅ~」

「おもち……ってなんだ?」

「えぇっ! お餅知らないんですかぁ?」

「そらぁ住んでた世界が違うからお互い知らない事もたくさんあるだろ。お前だってオレの世界では有名だったパワコブ大陸って場所知らないだろ」

「あぁ~。そう言えばそうですねぇ~」


 意外に戦闘力が高いと判明したヴァーニと並び、二人は再び歩き始めた。





 四十分後、二人は目的の川へと辿り着いた。

 ブルーガイは常人より早く移動でき、ヴァーニに至ってはスキル「韋駄天」の効果もあって物凄く素早いのだが、急ぐ必要もなくのんびり歩いた結果である。


 この川は以前アルタ、ラウラ、ブルーガイの三人で名前は調べたが付いていなさそうだったので「城の近くの川」としか呼んでいない。

 唯一アルタだけは「アルタ川にしよう」と言った事があるも「この世界の第一発見者でもないしそもそもこの川とアルタが無関係」という事で却下されている。


 周囲には木々も見られ種類によっては木の実がなっていたり、地面に生えている植物は食用となったりするものもある。


 その中から目的の薬の材料となる薬草を採るべく二人は手分けして探す。

 この辺りにも魔物は生息するのだが、数が少なくピングーと大差ない程度の魔物しかおらず問題はない。


「えーっと、三角形の葉っぱ三角形の葉っぱ……」


 フォティスから教えて貰った薬草の特徴を呟きながら屈んで草を掻き分けるブルーガイ。

 目に映るのはスラリと伸びた草だったりギザギザした葉っぱだったりとそれらしきものは中々見当たらない。


 しばらく探していると、少し離れた場所から嬉しそうな声があがった。


「あったぁ! ブルーガイさぁぁぁん、こっちに来てくださぁぁぁい!」

「おう、すぐ行くわ!」


 この分ならば意外と早く終わるかもしれないと思いながらヴァーニの所へと少し足早に進む。


「早かったな。薬草はどこだ?」

「はいっ、見事なウルの実ですぅ。美味しいんですよぉ~」

「それ違うだろ。何が「はい」だよ……」


 ガックリと肩を落とすブルーガイ。

 年齢ではたった一つしか違わない二人だが、ブルーガイは子供の相手をしているような気分に陥った。


「あっ! あっちにはメルプル草がありますよぅ~。アレとっても甘いんですよ~」

「おい、薬草は……聞いちゃいねぇ」


 ブルーガイの言う事など耳に入っていないかのように自由に振舞うヴァーニ。

 朝何気ない気持ちで護衛という名のお守りを引き受けた事を軽く後悔したブルーガイであった。





「はぁ……はぁ。やっと終わったぜ」


 薬草を見つけたブルーガイは何度も脱線するヴァーニを無理やり働かせ用意していた袋を一杯にした。

 初めてくる場所ではなかったが、採取よりも好き勝手に動こうとするヴァーニの相手をするのにかなりの精神力を消耗していた。


 昼時には城に戻れるだろうと思っていたが、すっかり昼は過ぎている。


「さっ、帰りましょう~」

「そうだな。もう腹減ってしょうがないぜ」


 二人は城へと戻る事にする。

 魔物とは一切遭遇せずひたすら喋るヴァーニにひたすら相槌をうつブルーガイは「魔物と戦う方が楽」と思いながら歩く事となった。


 行きと同じ時間をかけて二人は戻り、フォティスに薬草を手渡す。


「すまんのぅ。ウード村ならワシの家のそばに生えておったんじゃが、ここじゃとちと遠くてのぅ」

「気にすんなじーさん。これくらい何でもねーぜ」

「そうですよぉおじーちゃん。いつでも頼って下さいねぇ」

「ヴァーニお前……よくそんな事をぬけぬけと言えるな。頑張ったのオレじゃねーか」

「えぇ~。わたしも頑張りましたよぉ~」


 言い争う二人を微笑ましく思いながらフォティスはトランスアナライザーを起動する。


 いつもの調合画面を表示させ、既に登録してある「ポーション」の項目を選択。

 画面から淡く光る球体の特殊空間が現れそこに材料を入れる。

 材料がその空間に飲み込まれるように入っていくのを見届けると、調合開始を決定しフォティスは操作を終える。


 十秒程待つと光は四散し残ったのはビンに入った液体。

 薬の完成である。


 フォティスはそれを手に取ると問題なさそうだと一つ頷く。


「今回も問題なさそうじゃ」

「見てても何がどうなってそれが出来たのか分からねーが凄いんだな。ノゾムが言ってた「はいてく」ってやつか」

「ワシはアナログ派じゃよ。脳波を読み取らず手動入力しておるしの」


 会話をしながら出来た薬を棚へと入れる。

 棚には瞬間的に打撲や裂傷の外傷を癒すポーション、魔力を回復するマナポーション、他にも解毒薬等の様々な薬が並べられている。





 それからしばらくしてアルタと望が城へ戻ってきて、夕食が始まった。


「――でよ、一撃で頭潰れてたんだぜ!? ヴァーニも戦えると思うぜ」

「へぇそれは驚きだね。それじゃ今度から簡単な魔物討伐の依頼でも受けてみる?」

「はぁい! 頑張りますねぇ~」


 ブルーガイが一日の出来事をラウラに話していると、望が思い出したように「あっ」と声を上げた。


「どうしたの? 料理が口に合わなかった?」

「あぁいや、そうじゃなくて。今日依頼中に「水晶洞窟」って場所を聞いたんだけどさ、ちょっと興味湧いてな」

「ふぅん」


 相槌をうちながらラウラはその場所について自身の知っている事を記憶から探し出す。


 水晶洞窟とは名の通り水晶が数多く採掘される事でついた洞窟である。

 しかし人里から離れている場所にある為魔物も多く戦えない人間からすると危険な場所と認識されている。


 中には高値がつくものも埋もれているとされているその洞窟は一時期人気にもなったが、その大半が大した収入を得られなかったのですぐに人が寄らなくなった。


「ノゾムは今日その話を聞いた時からちょっとソワソワしてたんですよ」

「しょうがないだろ? 男は冒険に憧れるんだって」


 現在特に急ぐ用事はなく、資産も食料も最低限は確保している。

 無駄に終わったとしても問題はなさそうだと判断したラウラ。

 それに危険のある場所に行きたいという望に対し反対意見を出している訳でもない。


「それじゃ明日行ってみようか。私も話は聞いた事あるけど行った事は無かったし」

「お、本当か!? 明日が楽しみになってきた!」

「ワシは留守番してていいかのぅ?」


 そしてフォティスは留守番となり五人での出発が決定した。



------



 時は遡り数日前。


「――最後にお前達の護衛だが、多少変わり者ではあるが十人編成の隊を二つ付ける予定となっている。では明日の出発に遅れないようにしろ」

「……はい」


 アルデスト帝国のとある会議室。

 その会議室には二人の人物が居た。

 広い部屋にも関わらず二人という寂しい状況であったが、たった今その内の一人が出ていった為残ったのは一人は部屋は静寂に包まれている。


 その人物は水色の髪を頭の横で一纏めにしてくくっており、髪と同じく水色の瞳を閉じつつ重いため息を吐く。

 名はアリーシャ。二十一歳の女性研究員である。

 帝国に研究所が出来て一年、当時弱冠十五歳にして父親の手伝いという名目はついていたものの、研究員の一人として名を連ねた。


 元々優秀だと言われていたが、父親が研究中の事故で死亡してからはその研究を継ぎ尋常ならざる努力の末、二年前の十九歳

で上級研究員として認められた。


 研究員としては間違いなく一流なのだが人付き合いが悪く帝国の研究所で仲の良い人物等は存在していない。


(成果は少しずつだけど上がっている……だけど)


 アリーシャが考えるのは自身の研究している世界で発生している「歪み」について。

 ごく稀に異世界人がこの世界に紛れ込んでくる事は広く知られているが、近年その頻度が異常と言っていい程に高くなっているのだ。

 歪みに触れるとこちらの世界の存在もどこかの世界に飛ばされる「世界転移」という現象が起こる

 それを防ぐという目標の元アルデスト帝国には研究所が建てられた。


 しかし現在アリーシャが行っているのは問題となっている「歪み」を発生させる、というものだった。

 上層部からは「まずは仕組みを明確にせよ」と言われており、最初は父親も存命だった為、何も考えず研究にあたった。

 なによりアリーシャは父親の役に立てるのが嬉しかった、それだけで良かった。


 だが父親は居なくなった。

 歳を重ねて大人になり、研究が進めば進む程アリーシャは疑問を持つようになった。


(本当にこれで解決するのかしら? 研究員は一人残らず「歪み」の発生だけを目的として研究している)


 最終的な目標は歪みの発生を防ぐ、又は歪みが発生しても迅速に消去する、という事だ。

 研究所が建って何年も経っているしもう解決方法を研究し始めてもいい、むしろ遅いくらいだとアリーシャは思っている。

 なのにそれを行う素振りは一切見られない。

 この施設にいる人間はただただ「歪み」の発生を研究し続けている。


(お父さん……本当にこれでいいの……?)


 今は亡き父親に問いかける。

 寂しさが襲い掛かってきたあと、しばらくしてふと我に返る。


(……何を気弱になってるんだか。明日の準備しないと)


 マイナスの思考を停止させ、意識を切り替える。

 普段研究室に篭りきりで体力のないアリーシャにはきっとキツく感じるだろう。


 だが止まる気はない。

 アリーシャは出口へと歩き出した。

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