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2×××年8月2日(月):フレンド登録(牡丹)

※去年の変更内容については削除しました。

 昨日と同じぐらいの時間で『コクーン』に入った。

 湯月に聞いた所、蜘蛛と戦っている茶髪のキャラが『雷音』だそうなので、OPをスキップせずに見る。

 巨大蜘蛛と戦っているのは全部で十二人で、その内の六人が飛鳥さん達だと言うのは昨日聞いた。

 いよいよ、レイドボスの巨大蜘蛛と戦うプレイヤーの遠景に続いて、レイドボス戦推奨【スペシャルアビリティ(略してスペシャル)】を次々発動するシーンが始まった。

 飛鳥さん達六人の攻撃の後、知らないキャラが五人攻撃し、最後に表示されたのが唯一の茶髪……これが『雷音』か。

 これまでの【スペシャル】と同じく、画面上部に技名や台詞が表示される。

『これで終わりだ!』

『食らえ! 神の鉄槌、【百雷】!』

 白い雷の魔法が画面を白く染めると、邪神教団らしき集団に場面転換する。


 さて、【スペシャル】は、攻撃系アビリティのどれかがLv30になると出現するらしい。かなり種類があるらしく、βテストでは【スペシャル】が被らなかったとか。

 覚えるには30AP必要だそうなので、今日がらAP取得したら使わねで取って置ぐが。


<テルスパエラに移動します>



 天気予報では雨だったので濡れるのを覚悟してログインすると、運動会とかでよく見るタイプのテントが一張り設置してあった。三方に幕も付いている。

 テントの中には、おれとサポート天使しかいなかった。

 『モバイル』で何人ログインしてっが確認してみる。昨日、飛鳥さん達が全員揃ったのが判ったのは、これのお陰だそうだ。

「……一人」

 見間違いかと思ってジッーと見るが、間違い無く『1/1000人』。

「げ! 雨かよ!」

 その声に振り向くと、ログインしたばかりらしい男の人が、サポート天使にログアウトを頼んでいた。

 また一人になった。

 どうすっかな?


 生産施設にでも行くがど思った時、数人ログインして来た。

 見れば、飛鳥さん達と昨日隣に座ったβテスターのカウガールの人だった。彼女は、黒髪ストレートロングで、黒い目だ。

 そう言えば、掲示板に書き込むよう頼まれでだっけな。

「こんばんは。忍者さんとカウガールさん」

 飛鳥さんに挨拶された。

「おばんです。うちは、漢字で山吹や。花の名前やな」

 山吹さんは、関西の人のようだ。

「山吹さんですか」

「こ、こんばんは。私も花の名前で、牡丹です。漢字で」

「牡丹さんですね」

「済みません。まだ、書き込んでなくて。今書き込みますから」

 おれは、『モバイル』を操作して掲示板を起動しながら謝った。

「急がなくて大丈夫ですよ」

 【エール】の公式掲示板は、運営報告掲示板以外は、ログインしてねど書き込みも閲覧も出来ね仕様だそうだ。

 『隠し・進化・統合アビリティ総合スレッド』を開ぐど、誰かが今日おれが『成長調理』について書き込む事を報告したらしぐ、待ち焦がれるレスが多くて申し訳ねぐなった。



「ところで、お二人はβ版でも同じ姿と名前で?」

 書き込んで掲示板を閉じると、ジェイクさんに質問された。

「うちは違うんよ。浮気と婚約破棄の慰謝料として、譲渡させたんや」

 『コクーン』は高っげけど、浮気と婚約破棄の慰謝料としては安いよなぁ?

「無理矢理ですか?」

 ジェイクさんが眉を顰めた。

「浮気相手の親御さんが、娘と結婚したいならゲーム止めろって言うたらしいねん。うちが慰謝料として要求してたから、こっちにくれた訳や」

 浮気されて乗り換えられたなんて、ショックだろうなぁ。復讐しでぇとか思わねなんがな? 相手が【エール】さハマってだら、ある意味復讐なってっがも知んねけど。

「それなら、問題ありませんね」

「因みに、その人が使ってたキャラ名は?」

 飛鳥さんが尋ねる。

「ローマ字でORIBEやったな。知っとる?」

「いいえ。全く」

「で、牡丹さんは?」

 ジェイクさんが、おれの事を聞く。

「弟が、もうやらないからって譲渡してくれました」

「もうやらないって、どうしてですか?」

「VRより従来のゲームの方が良いみたいです」

「なるほど。因みに、キャラ名は?」

「雷の音で、雷音です」

 それを聞いて、ジェイクさん達は驚いた。

「え?! 雷音さんのお姉さん?!」

 これはサフランさん。

「OPでモンスターと戦ってるの、知ってるっすか?!」

 教えてくれたのは銀河さん。

「はい」

「雷音さんのお姉さんと一緒のサーバーになるなんて、奇遇ですね」

 そう言ったのは、飛鳥さん。

「雷音さんのパーティー、リア友じゃなかったっけ? あの人達も引退したのかな?」

 ルートさんがジェイクさんに確認する。

「でしたね。しかし、リア友だからって、一緒に引退するとは限りませんよ。まあ、高確率で一緒にMMOをすると思いますけど」

「今日、リア友とMMOしてましたよ」

 だからと言って、引退したどは限らねけど。


「やっぱ、引退したかな? あ、そうだ。牡丹さんと山吹さん。良かったら、フレンド登録しませんか?」

 おれと山吹さんは承諾して、『モバイル』を出して登録し合う。

 すると、横から『モバイル』を手にした女の手が混ざって来た。

 見れば、金髪ロングヘアの女の人だった。全体的に細いが、胸は大きい。巨乳と言うか、爆乳? 防具は皆と同じ、肩当て(左のみ)・ブレストプレート(左胸のみ)・チュニック・ゆったりしたズボン・頭巾・布の靴だ。

 【記録】のスキル『解析』で表示されたステータスの名前欄は『愛守姫』だった。愛を守る姫? 愛されて守られる姫? 何て読むんだろう? あいまもりひめ?

「何かご用ですか?」

 サフランさんが尋ねる。

「何って、フレンド登録するんでしょう?」

 愛守姫さんは、登録したくないけど仕方ないみたいな表情でそう言った。

「貴女とするとは、言っていませんよ」

「照れなくても良いのよ。貴方達が、ボクとフレンド登録したいと思っているのは、解っているんだから」

 凄い自信だ!

「貴女に照れる理由など一つたりとも有りませんし、フレンド登録したい気持ちも微塵も有りません」

 凄い冷てえ!

「……貴方達は違うわよね?」

 愛守姫さんは、飛鳥さん達に視線を向けて尋ねた。

「我々の中に、フレンド申請ぐらいで照れる人は居ませんよ」

 グレープさんが、フレンド申請も出来ないヘタレと馬鹿にされたと思ったのか、怒っている様な表情で言う。

「それとこれとは別でしょう?」

 同じでね?

 愛守姫さんはリアルでは関わりたくないタイプの人だども、見た目も名前も変えているゲームでの事なので、皆に断られたら可哀相だと思ったおれは、『モバイル』を操作してフレンド申請を送った。


<フレンド申請を断られました>


「ん? 牡丹さん、どないしたん? 『モバイル』見詰めて」

 唖然としていたおれに、山吹さんが気付いて話しかけて来た。

「その人にフレンド申請したら、断られて……」

 押し間違えだんがな?

「は? ……ちょっと、あんた! どういう事?!」

 山吹さんは、愛守姫さんを振り返って怒鳴った。

「フレンド登録したいんやろって申請要求しておいて、いざ申請したら断るなんて! 断る為に、照れずに申請しろ言うたんか!?」

「ち、違うわ! 彼女の申請を断ったのは、他人から貰った大量のAPで楽するようなズルイ人を許せないから」

 愛守姫さんは、怯えた様子でそう説明した。

「何が違うんや! うち等八人全員、他人から貰った大量のAP使ってんのに!」

 確かに、運営も他人だな。

「そ、それとこれとは」

「違わんわ!」

「ですね。特典APは、βテストの時に取得したAPより遥かに多いですし」

 サフランさんが同意する。

「で、でも、それは貴方達がβテストで頑張ったからでしょう?」

「頑張った覚えは有りませんが。意外ですね。貴女は、狡い事をしていない牡丹さんを狡いと称した人ですから、私達の事も狡い人だと思っていると考えたのですが」

「ズルしたじゃない!」

「何がですか? 弟さんが自主的に『コクーン』と特典を譲渡した事ですか? 運営側が特典の譲渡をあちらの判断で認めた事ですか?」

「特典を使った事よ!」

「それの何が狡いのでしょう? 貴女は、譲渡された物……例えば親の財産等をズルイからと使用しないのですか?」

 それを肯定出来ねがった愛守姫さんは、こう喚いた。

「寄って集って虐めるなんて酷いわ!」

「自分から因縁付けて来て、その言い分を否定されたら虐め呼ばわりかい! 被害者ぶるあんたの方が狡いわ!」

「だ、だって……」

 愛守姫さんは、山吹さんの剣幕に怯えった。

「自分で言わずに人に言わせるなんて、ズルイ!」

 それでも言い返すのは、勇気あんな。

「言いたいから言っただけや! サフランさんかてそうやで! そんなに牡丹さんから言い返されたかったんなら、何か言って貰おうか?!」

 山吹さんとサフランさんに否定された人に追い打ちかけたくねえけど、おれに言われてーなら、仕方ねえな。

「貴女は、家族から貰った物を壊れていなくても・古くなくても・汚くなくても、直ぐ捨てて同じ物を買うのかもしれませんけど、私は貴女と違ってそんな感じの悪い事はしませんので」

「捨てろなんて言って無いじゃない! 特典APを使わなければ良かったの!」

「貴女なら、『コクーン』を貰った事も狡いと思っているかと思ったんですけど」

「嫌な人ね!」

 そこへ、ジェイクさんが薄笑いを浮かべて口を挟んで来た。

「もしかして、貴女。誰かに『コクーン』を買って貰ったんですか?」

「……もう、良いわ!」

 愛守姫さんは、顔を真っ赤にして怒ると、ログアウトした。

「図星だったんでしょうか?」

 サフランさんが呟く。

「面白い人でしたね」

 冗談なのか・本気なのか、ジェイクさんは、笑みを浮かべてそう言った。

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