2×××年8月1日(日):正式サービス開始日(山吹)
※去年の変更内容については削除しました。
2016.05.11 取得AP等変更した為、修正しました。
八月一日日曜日。
正午から【アンゲロスライフ】の正式サービスが開始されたけれど、うちは正午から始めるほどこのゲームに入れ込んでいる訳やないから、昼は引っ越しに伴う作業を終わらせた。
『コクーン』を貰った後、こんな事があったんで引っ越したんや。
ある日。買い物に出かけたうちは、ばったりあの二人に遭った。
「行き遅れの貴女が可哀相だから、披露宴に招待して上げるわ。幸せのお・す・そ・わ・け☆」
見下したように嘲笑を浮かべてそう言う女に、うちは失笑した。
「披露宴台無しにして欲しいなんて、変わり者やな。そんなサプライズ、ウケると思うのあんた等だけやで」
可哀相なものを見る目で言うたったら、殴られそうになったわ。
「前科付けてまで披露宴キャンセルしなくても、あんたのパパに言うたらええやないの。『うち、友達おらへんから、披露宴しとうない』て」
腹立ったんでそう言うた直後、凄い形相で「キーッ!」と金切り声を上げて掴みかかって来た所を、彼女の後ろにいた女の人が殴った。
「何すんのよ! 訴えてやる!」
勢い良く振り向いた女が硬直する。
「マ……ママ?!」
母親だったんか。
「何で私を殴るのよ! 悪いのはこの女なのに!」
「悪いのは、あんたの頭やろ」
娘は絶句する。
「披露宴は中止や。結婚披露宴は、花嫁の馬鹿さ加減を披露する宴や無い。そんなんに出す金は無いわ。勿体無い」
因みに、ママに怒られてるお嬢ちゃんの運命の恋人は、彼女を置いて立ち去りたそうに見えたわ。お似合いやなぁ。別れて良かったわ。
その後、今後も馬鹿娘が迷惑かける恐れがあるからと引っ越し費用をくれたんで、引っ越した訳や。
元彼から、『お前の所為で、俺の金で披露宴をする破目になった。お詫びにコクーンを返せ』とメール来たんで、社長さんに転送しておいたわ。
消毒済みの『コクーン』に入って起動すると、OP曲が流れた。
空を飛んでいる天使視点なのか、街などの風景が表示される。こんな風に空飛べるんやろか? ん? 水中に神殿っぽい建物が……。彼処も行けるんか?
そして、巨大な蜘蛛らしきモンスターと天使達の戦闘シーン。超必殺って感じの強力な攻撃を一人ずつ全員が繰り出す。最後に、神殿らしき場所にいる白いローブの集団の一人をアップで映す。悪人っぽい表情やったから、こいつ等が邪神教団なんやろな。
次回からOPはスキップ出来るらしい。
<ORIBEさんの特典300APを加算します>
『ORIBE』と言うのは、数年前、うち等が高校生の時に女性人気No.1やった某ロックバンドのボーカル名やな。なりきってたんかな?
ま、それはどーでも良いんで、先ずは外見を変えようか。
青い下着姿のうちそっくりのキャラ。癖っ毛やから、ストレートにしよ。顔は勿論変えたけど、後は……ウエスト細くする? 胸大きくする? どないしよ? 止めとく? やる? 虚しくならん?
悩んだ末に実行した。これはゲームのキャラや。うちは操縦するだけ。ゲームのキャラならスタイル良いのは普通やし。
さ、次はアビリティやな!
……多いなぁ。選ぶのも一苦労や。このゲームはアビリティを使う事で強くなるゲームやから、【HP増】とか【攻撃力増】とかは必須やろなー。折角の特典、全部覚えるか。
ステータス強化系を全部覚えると、隠しアビリティ【経験値増】が出現した。必要AP多いな! 覚えるけど。
<統合して【総合強化】に出来ます。30APを消費して統合しますか?>
メインアビリティ枠は十個やし、特典なのか【飛行】(移動不可)が有るから、今覚えた十二個のアビリティの内の三個はセット出来へん。いや、攻撃系とか必要なんやし、四個か? まあ、統合すれば解決する問題やから、悩む事は無いんやけど。
統合すると、APが一部返還された。
採集系アビリティ必要かな? 生産するなら必要か。【料理】ぐらいかな? 出来そうなの。
物理攻撃は何にしよう? あんまり他人が使わんようなのにしようかな? カワイソウやん。使われへんの。
鞭とかどうやろ? 威力低そうなイメージやし、選ぶ人少なさそう。
ちょ、調教者? ああ。テイマーか。猛獣使い、良いかも。
支配者……。鞭で支配者……。女王様?
騎乗者も覚えるか。
<統合アビリティ『カウガール』が出現しました。統合しますか?>
統合すればその分メインの枠が開くし、統合する。
後は、……何や、このアビリティ? オシャレ用?
モンスターの位置が判る【気配察知】は必須やろなぁ。夜に遊ぶなら【暗視】も必須かなぁ? 弱点とか判った方が有利やろう。
折角やから、魔法も使ってみたいわー。どれにしよ。……【風魔法】で良いか。理由は特に無いけど、強いて言うなら見え辛そうやから?
あ。【料理】覚えるの忘れてた。
で、入れ替えて、最終的にこうなった。
メインアビリティ
【飛行】Lv1(移動不可)
【総合強化】Lv1 【カウガール】Lv1 【気配察知】Lv1
【解析】Lv1 【暗視】Lv1 【風魔法】Lv1
【採取】Lv1 【調教者】Lv1 【支配者】Lv1
控え
【美容師】Lv1 【理容師】Lv1 【料理】Lv1
【撮影】Lv1
以上十四個やな。残り9AP。
後は名前を……『山吹』にした。うちの好きな花や。
<確定後のキャラクターの作り直しには1万円必要です。このキャラで本当に宜しいですか?>
宜しいですー。
<『山吹』さんを作成しました>
すると、下着姿からカウガールっぽい服装に変わり、天使の輪っかと背景が透けて見える二対の黄色の翼が表示された。
<貴女がログインするのは、第10サーバーです>
<テルスパエラに移動します>
数秒画面が白くなった後、目の前に三対の白い翼を持った美女が現れていた。
「最後の街『ポンスウィークス』へ、ようこそ」
最後?
「あ! 来た来た! こっち来てください!」
男の人の声に振り向くと、大勢のプレイヤー(?)が何列かに並んで座っていた。
何かのイベント?
大人しく列の後ろに座ると、隣に柿色の忍び装束の女の人が座った。
辺りを見渡すと、天使の輪っかが有るのはうちと隣の彼女、そして、列の正面に立つ六人の男の人達だけやった。
自己紹介した彼等の説明で、この輪っかはテスターの証・三対の翼を持つ美女は『サポート天使』と分かった。
「さて、既に建物を見てお気付きの人もいらっしゃると思いますが、私達プレイヤーは、巨人です」
へー。じゃあ、馬とか雀とか皆ちっちゃいんか?
「ですから」
「おい!」
突然声を上げたんは、数人前の行に居た男の人だった。
「そんなどーでも良い話に、これ以上、俺を付き合わせんじゃねーよ!」
せっかちやなぁ。
「これから重要な話を」
「おせーんだよ! 俺はもう行くからな!」
そう言って立ち上がった男は、最近(2×××年現在)チャラ男に流行っている右側の髪を一部逆立てた髪型をしていた。
「チッ! どいつもこいつも、自分の意思がねーのかよ!」
自分以外に誰も行こうとしないからそう怒鳴ったそいつは、がに股でドスドスと足音荒く去って行った。
因みに、その男は五分ぐらいで死に戻って来たけどね。
「畜生……! ログアウトどうやるんだよ?!」
振り向いて見ているうち等に気付いているのかいないのか、ブツブツと呟いている。
「情報って大事ですよね」
嘲笑う声が聞こえたようで、男の肩がピクリと動いた。
「ログアウトは、サポート天使に頼むんですよ」
呟きが聞こえたとは思えんけどそう教える声に、男は身体を振るわせ「ログアウト!」と怒鳴って消えた。
初日で引退するには『コクーン』は高いし、作り直すか・開き直るか、どっちかやな。
それにしても、【陶芸】かー。9APやから覚えられへん。粘土採集して【陶芸】覚えとる人に売るか。【採取】じゃ粘土採集は出来んやろうなぁ。出来そうなアビリティは……【採掘】かな?