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2×××年7月某日:彼女が【エール】を始めた訳(牡丹)
なんちゃって方言です。
東北地方です。
おれの名前は、奥山黒羽。
「黒羽。これ、やる」
ある日、おれの部屋に来てそう言ったのは、双子の弟の湯月。
「え? 『コクーン』を?」
湯月が持って来た『コクーン』は初の国産VRゲーム用ハードで、現在は【アンゲロスライフ】(略してALから更に縮めて、エールと呼ばれている)のクローズドβテストだけに使われている。
その【エール】は来月8月1日日曜日正午から、正式サービスが開始されるらしい。
「あー。俺には、向いてねっけから」
『コクーン』は、サナギ形の全身入るタイプのハードだ。ヘッドギアタイプの物は、まだ発売すると聞いた事は無い。
湯月はそれをおれの部屋に運び込み、設置を始めた。
「湯月に向いてねーなら、おれにはもっと向いてねーで。運動音痴だし」
「んー。でも、所有者変更手続きも、正式版移行特典の譲渡手続きも終わってっし」
特典って、普通、譲渡出来ねあんじゃ?
「一回やってみで、無理なら止めれば?」
「ん~……。まあ、興味は有っし……」
そんな経緯で、おれは【エール】を始めた。