言い訳
「今すぐ学校に来てくれたまえ!」
時刻は20時。
自室でうたたねをしていたら、突然先輩に呼び出された。
「え?ちょ、先輩!?」
一方的に電話が切れる。
先輩の突発的な呼び出しはいつものことだ。
しかし、今度は一体何をしようというのだろう。
前回は雨の中、わざわざ海まで行った。
今回、学校に集合ということは、肝試しでもするのか?
なんにせよ、先輩のところへ行けば分かることだ。
そうして僕は学校に急いだ。
「おそいぞ!」
校門に到着すると、先輩は腕を組んで待っていた。
「で、先輩?こんなところに呼び出して一体何をするつもりですか?」
僕の問いかけに先輩はいつもの笑顔で、
「わっはっはっは!今日はこれをやるぞ!」
そういって取り出したのは、大量の花火だった。
「そんなに用意して、どうしたんですか?」
「そんなのここでやるに決まっている」
そう言って、胸をそらす。
「ほら、ボーっとしてないで行くぞ」
僕を校門まで引っ張っていく。
「先輩!引っ張らないでくださいよ!」
先輩に腕を引かれながら、校門を乗り越えて体育館の裏に回る。
その辺のバケツに水を入れている間に、先輩は早速包装をはがして花火をやり始めた。
「わははは!二刀流だ!」
「ちょっと先輩!こっち向けないで下さ……あっつう!?だから危ないって言ってるでしょ!?何で分からないんですか!?」
そうやって、1時間弱花火が切れるまで僕らはじゃれ合った。
一通り終わったあと、僕らは肩を寄せて線香花火をした。
さっきまでの大騒ぎがうそ見たいに、静寂が僕らをやさしく包む。
それが、なぜか妙に気恥ずかしくて。
「と、ところで先輩、どうして僕を呼んだんですか?」
「私はいつまで先輩なのだろうな……」
「は?」
意外な言葉に僕はしばし硬直する。
「私は、一応君の……、その……、あれだろ?」
顔をうつむけて、耳まで赤く染めながら言葉を紡ぐ。
「だ、だからな?な、名前で呼んで欲しいとか思って……。べ、べつに不安とか寂しいとかそういうわけじゃないんだからな!?」
その場つなぎの僕の言葉が、先輩の核心だったらしい。
「名前で呼んでもらえないことが不安で、悶々としていたら会いたくなったとかじゃないんだからな!?」
必死言いつくろうつもりで、本音が駄々漏れになっている。
いつもはクールぶっているのに、実は不安でびくびくしているそんな姿が愛しくて。
先輩の耳元に唇をよせる。
僕の吐息を感じたのか先輩はかすかに身をよじる。
いつの間にか線香花火は二つとも消えていた。
僕は大切な人の不安をぬぐうべく、魔法の言葉をそっと囁いた。
『――――』
耳元から口を離すと、先輩はこっちをにらんで
「そ、それは反則だ……」
そして、顔を一度そむけてからもう一度僕と向き直って、
「し、しかえしだ……っ」
僕の顔に唇を寄せてきた。
実はこの『先輩』と『僕』シリーズは夏から書き始めたので、春編がごっそり抜けています。機会があれば春編を書いてみたいと思います。
でわ