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はぐれ問題(2)

 一気に三話投稿です。

 これで書き溜めはゼロです。

「はぐれにも、ピンからキリまでいるが、確実なのは盗賊よりも余程手ごわいということだ」


「俺じゃ勝てないって言うのか?」


 心底不思議で、俺は聞き返す。

 ゲーム中では、多少の強いモンスターならブレイクだけでも充分に倒せたはずだ。


「おそらく、勝てる。だが、問題は」


 そこでバルクが言いよどむ。


「ブレイク、万が一、あんたがはぐれを一人で倒すところを誰かに見られたらまずいんだよ」


 ジェシカが言葉を引き継ぐ。


「えっ、あっ」


 そこで、ようやく思い至る。


「そうか。上級モンスターを軽々と倒すところを見られたら、俺がウォードッグだってバレバレだもんな」


「そうだ。完全に、誰もいない森の奥深くで倒せるなら別に構わないが……」


「どっちにしろ、誰かにはぐれが見つかる前に殺さないといけないから、同じ話なんじゃないのか?」


 国に見つかったら、どっちにしろ山狩りされちゃうわけだろ。


「そうだ、だからこそどちらにしろ協力者が必要だ。狩りの専門家がな」


「ハンターだなあ」


 マイクが口を挟む。


「ハンター?」


「狩りの専門家だあ。モンスターを狩って、暮らしてる連中だよお」


「そうだ。戦うのはお前一人で可能でも、一刻も早くはぐれを見つけなければいけない。お前、そんな能力を持っているのか?」


 若干の期待を込めてバクルが聞いてくるので、俺は少し後ろめたくなる。


「いや、獲物を追跡するような能力……スキルは、持っていないな」


 『知覚強化』はあくまで五感を強化するものだから、近くにいないモンスターを追跡するのには向いていない。


「やはり、専門家が必要だ。そして、その専門家に、お前がウォードッグだとはばれてはならない」


「けど、その専門家には、はぐれを追うように頼むわけだろ? どっちにしろ、はぐれのことを報告されちゃうんじゃないのか?」


 俺の質問に、俺以外の全員がため息をつく。


 あれ、何だ、そんなに俺は間抜けなことを言ったか?


「あのね、ブレイク」


 アーシャが横から覗き込むようにして話しかけてくる。


「ハンター、それも上級モンスターを追跡できるようなハンターっていうのは、モンスターを狩って、手に入った素材を売ったりして生計を立ててるの」


「ああ」


 ゲームでも、全く同じようなプレイヤーはいくらでもいるから想像がつく。


「そのハンターが、はぐれの情報を易々と他に漏らすと思う?」


「ああ、そっか」


 俺がウォードッグなのは秘密にしておいたところでハンターには何の得もないから情報が広がるかもしれないが、はぐれに関しては生活がかかってるからそうそう情報が広がらないわけか。


「つまり、ハンターと協力した上で、ただの傭兵や冒険者程度の戦力しか持たないように擬態しながら、一刻も早くはぐれを探し出して倒さなければならない」


「無理難題だな」


 バクルの話を聞いて、あまりにもきつい条件に俺は少し笑ってしまう。


「まずは、明日一番に素性を隠して町へ行き、そこの仲介屋で一流のハンターを雇う。二束三文でな。さらに、圧倒的な実力を隠してはぐれを倒さなければいけない以上、それ以外にも協力者を雇わなければならないだろう」


「二束三文で?」


「無論だ。我々に金などない」


 きっぱりと言うバクル。


「それって、俺が町まで行くのか?」


「ああ。この村から最寄の町までは、森を突っ切らなければならない。とはいえ、お前だけを町に向かわせても不安だ。口の回るタイプではあるまい」


「うるせえよ」


 余計なお世話だ。


「アーシャ、頼めるか?」


「ええ、アルを、お願い」


 躊躇うことなく、アーシャが頷く。


「え、アーシャが?」


「この娘、中々したたかだぞ」


「それは、何となく知ってるけど……」


 だからといって、この話にアーシャを巻き込むのは気が引ける。


「気にしないで、ブレイク。それに、そっちの方が安全かもしれないわ」


「えっ?」


 驚く俺に、


「まあ、そりゃそうだなあ」


 マイクが頷く。


「ブレイクがいない時に、もしもはぐれがこの村を襲ったらおしまいだあ。山狩りが始まっても、それでもおしまい。だから、急いでくれよお、二人とも」


 ああ、そうか。

 俺がいない間に、村がそのはぐれに襲われたり、あるいは山狩りが始まったら、それでおしまいか。


「はぐれが確実にこの村を襲うなら、ブレイクに待ち構えてもらえばいいから話は楽なんだがな」


 ため息と共にバクルは呟き、


「ブレイク、依頼の正式な内容に関しては、アーシャと話し合って決めてくれ。二人とも、頼んだぞ」


 深く頭を下げる。





 会合が終わると、アーシャに夕食に誘われる。


 もうそんな時間か、と空を見上げれば、茜色から闇色へとちょうど変わっていくところだった。


「なんか、最後の晩餐みたいだな」


 俺が思わず言うと、


「ばか」


 と頭を殴られる。


 二人で、アーシャの小屋のドアを開けた途端、


「あっ」


 と声をあげ、とてとてとアルが走り出てくる。


「アーシャ! と、ブレイクも!」


 ぴょんぴょんと飛び上がって喜ぶ。


「おお、久しぶりだな、アル」


 俺が背をかがめて頭を撫でてやると、アルは気持ち良さそうに目を細める。


「今日は、アーシャとも全然会えてなかったし、寂しかったー」


「ああ、今日、色々あったからな」


「ほらほら、二人とも、入り口にたまってないで、中に入って夕食にしましょ」


 呆れ顔のアーシャに促され、三人で小屋に入る。


「さて、じゃあ、今から料理作るから、二人ともテーブルに座っていい子して待っててね」


「うん、いい子してるー」


「俺もいい子しとく」


「ブレイクは大人らしくしといてよ」


 しょうもないやり取りを流しながらアーシャは手早く料理の準備を始める。


「ねえねえ、ブレイク」


「ん、どした?」


「ブレイクの世界の話、してよ」


 テーブルに身を乗り出すアルの目はきらきら輝いている。


「好きだなあ」


 ちょっと呆れながらも考える。

 どんな話しようか。アルが喜びそうな話がいいよな。


「そうだ、学校の話でもしようか、俺はあまり好きじゃなかったけど」


「がっこうって、何?」


「同い年くらいの子どもが集まって、一緒に遊んだり、勉強したりするんだ」


 言ってから、この世界にも学校がある可能性に気付く。

 というより、あった方が自然か。


「へえ、面白そう!」


 無邪気に喜ぶアル。


 多分、アルはこの隠れ里のような村にいるから、学校の存在自体を知らないんだ。

 そうだ。

 不意に、自分の中に一つの目標ができあがる。

 この世界で何をなすべきか。ウォードッグとして、馬鹿げている力を持ってしまった俺が一体、この力で何をするべきか。いまいち決まっていなかった。

 けど、こう考えればいい。俺はウォードッグで、この村に雇われている。だから、この村の人達のために働く。それは、別に命を守ったりするだけじゃあない。例えば、この村に隠れ住まなきゃいけない理由、それを解決していくのだって村の人達のためだ。

 解決なんてできない。だからこの村に隠れ住んでいるんだ。

 そう言われるかもしれない。

 けど、俺ならできる。まだ未熟かもしれないけど、とにかく力はある。この有り余る力を使えば、きっとできる。

 そう、最終的に、アルが町にある学校なんかに行って、同世代の子どもと遊ぶことができるようになるまで、俺はこの村のために働く。

 それでいいんじゃないか?


「ブレイク、なににやにやしてるのー?」


 突然笑い出した俺を、アルは目を真ん丸にして不思議そうに見てくる。


「ああ、いや、ありがとう。ようやく、やるべきことが見つかってな」


「やるべきこと?」


「そうよ。あたしとブレイクは、やることがあるから、明日も留守番お願いね」


 ちょうどタイミングよく、そこにアーシャが鍋を持ってテーブルに来る。


「えー、またー? やだ、一緒に行きたあい」


 手足をばたつかせるアルに、


「こら、わがまま言わないの」


 鍋を手早くテーブルに置いてから、アーシャがでこぴんする。


「いたーい、頭が割れたー!」


 大騒ぎするアルに、俺とアーシャは顔を見合わせて笑う。


 夕食は野菜を煮たものだった。

 単純な料理だが、アーシャの煮物はかなり工夫してあるらしく、葉物はしゃきしゃきと食感が残っているし、根菜は口にいれた途端にほろほろと崩れるほどに柔らかい。


「うまいな、これ」


「おいしー!」


「煮る時間を具材ごとに変えるのがコツよ」


 俺とアルの賞賛の声に、アーシャは少し自慢げだ。


 やがて夕食が終わると、


「眠ーい」


 と言うが早いか、アルはとことことベッドまで歩いて、そのまま飛び込んだかと思うと即座に寝息を立てる。


「漫画みたいな寝つきの良さだな」


「マンガ?」


「俺の世界にあった、作り事だよ」


 そうして、俺とアーシャはふと真面目な表情になって向き合う。


「本当を言うとね」


「ん?」


「あたし、はぐれを狩るの、乗り気じゃないの」


「え?」


 意外な言葉に、俺は思わず、


「ど、どっ、どうして?」


 と慌てて聞き返す。


「……ブレイク、本当は、皆、無理してるの。あたしやアル、ブレイクには隠しているけど」


「何の話だ?」


「疲れてるの。この村の、生活に」


「いや……」


 言いたいことは、分かるけど。


「だからって、この村での生活、やめるわけにはいかないだろ、皆」


「どう、かしら」


 そうして、アーシャは表情を揺らす。何かに迷っているようだ。


「この生活が正しいのか、自信がないの、もう。よかれと思って、皆、この村で生きているけど、本当は……この村は、滅びるべきなんじゃあないか。そう思ったりもするの。今回のはぐれの騒動も、神様が与えてくれたいい機会だったって」


 そこまで言ってから、ふとアーシャは目を見開いて俺を凝視する。まるで、自分が口にしたことが信じられないようだった。


「ああ、冗談よ、もちろん」


「いや……」


 とても冗談には聞こえなかったけど、と言いかけて、アーシャのでこぴんで黙らされる。


「明日、朝一番で出るんでしょ。もう、眠った方がいいわよ」


「ウォードッグだから、別に睡眠必要ないんだけど」


「それは失礼。でも、あたしはいるの」


 もう一度でこぴんを繰り出してから、


「おやすみなさい」


 そう挨拶をするアーシャは、いつも通りの顔をしている。けれど、どこかに壁を作ってしまっている気もして、結局俺は真意を聞けずにそのまま小屋を後にする。


 何か、色々と事情があるみたいだけど。


 倉庫に戻って、ベッドに転がってから、俺は自分の握りこぶしを見つめる。


 俺の力なら、その事情も解決できるはずだ。





 翌朝、俺とアーシャは村の外れに立っている。

 見送りに来てくれたのは、マイクとジョージ、ジェシカにバクル。要するに、いつものメンバーだ。


「じゃあ、行ってくる」


「あれ、アルはどこだあ?」


 マイクがのんきに辺りを見回すので、


「こんな時間に、あの娘を起こしとくわけないでしょ。ぐっすり眠ってるわよ。私がいない間、あの娘、お願いね」


「うむ……ブレイク」


 バクルが歩み寄ってくる。


「悪いが、頼んだ」


 そうして、今度はアーシャに顔を向けて、


「済まんな」


「ええ、でも……」


 アーシャはその場にいる全員を見回すようにして、


「……皆こそ、頑張ってね。いえ……」


 何かを言おうとして、諦めたように首を振る。


「アーシャ。分かっている、分かっているさ」


 幾分疲れた顔をして、バクルは頷く。


「今から出れば、夕方には町に着く。もう行くがいい」


「いや、そんなにはかからないよ」


 俺がそう口を出すと、その場にいる全員が頭の上にクエスチョンマークを出すような顔をする。


「え、う、馬でも使う気か?」


 ジョージの質問に、


「いやいや」


 俺は背負っていた進撃を片手に持つと、アーシャに背を向けて、腰をかがめる。


「え?」


 アーシャが呆けたような声を出す。


 なんだよ、この姿勢で分からないかな。


「おんぶだよ、おんぶ」


「えっ、嘘でしょ」


「いいじゃない、アーシャ」


 反射的に大声を出すアーシャを笑いながらジェシカがなだめる。


「役得ってもんよ、ねぇ?」


「悪くはない」


 バクルは冷静だ。


「その手があったな。人の目がないルートを選んで通って、町の手前で降ろすのなら問題あるまい。乗れ」


「ええー……」


 なおも渋るアーシャに、


「大丈夫だ、アーシャ」


 俺は背中を押してやる。


「お前がいくら重くたって、すぐに町に着くくらいのスピードは出る」


「その心配してるんじゃないわよ」


 後頭部にでこぴんを食らう。

 まあ、少しは場の雰囲気が明るくなったかな。やれやれ。

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