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即席パーティー結成(2)

 歩いて現場のキャンプまで行く、という話になった時も、マトとダイは文句を言わず、それどころか深く納得したような顔をする。


「はぐれの情報はお宝ですもんねっ、こっそり行くしかないですよねっ」


 マトが飛び跳ねる。


 俺は全然そんな意識がなかったが、どうやらこの世界でははぐれが俺が思っている以上に貴重な存在らしい。正確に言えば、上級モンスターを狩る機会が、か。


「今から町を出て現場に行けば……ええと」


 サイに来る時は全速力で走ったから、普通に四人で歩いていくとどれくらいかかるかいまいち分からない。

 俺はアーシャに目線で助けを求める。


「必要なものを買ってすぐに出発すれば、現場に日の沈む前には着くはずよ」


「そうそう、そんな感じ」


 すかさずアーシャに乗っかる。


「それじゃあ、さっそく出発だ」


「はいっ、ご主人様っ」


「ぐあ」


 俺の号令に、マトもダイも返事を返してくれる。

 ありがたい。無愛想なアーシャにも見習ってほしいものだ。


 回復薬、いわゆるポーションと簡単なキャンプ道具、そして全員分の武器を揃えると、残りの十万ギルもほとんどなくなってしまった。


 だが、それはまあいい。結局のところ、はぐれが狩れればそれでいい。


 サイを出る時には、俺は片手剣、アーシャは弓矢、マトはナイフと革製の軽い鎧、そしてダイは斧に鉄製の鎧という重装備だ。重くないか不安だったが、熊の獣人は基本的に力が強いらしく、このくらいなら平気ということだった。


 いやあ、これで何の問題もない。


 さっそく盗賊のキャンプ後に向かって歩いて出発する、が。


「……普通に歩いてたら、こんなもんか。ゲーム内でもそうだったっけ、そう言えば」


 数キロ町から離れただけで、俺達はモンスターに囲まれていた。


 モンスターは灰色の狼の、十数匹の群れ。

 グレイハウンドだ。ゲームでは、いわゆる『初心者殺し』のモンスター。常に数匹で群れ、素早い動きで連携攻撃をしてくる、操作に慣れていないプレイヤーの天敵。

 もちろん、ブレイクなら瞬殺だ。


「ブレイク」


 弓を構えながら、アーシャがちらりと俺に目をやる。


「分かってるよ」


 それなりにやるよ、それなりに。


「ご主人様っ、来ますっ」


 マトが叫ぶのと同時にグレイハウンドが一斉に飛びかかってくる。


「ふっ」


 そのグレイハウンドの素早い動きよりもさらに速く、マトが動く。

 牙と爪をかわし、グレイハウンドの一匹の懐に潜り込むと同時にナイフを振る。俺から見ても惚れ惚れするような手際の良さで、グレイハウンドが一匹、二匹と倒れていく。


「お見事」


 思わず呟く。


 ダイは、対照的な戦い方をしてる。


 鎧を信頼して、あえてグレイハウンドの爪と牙を受ける。数匹のグレイハウンドに組みつかれても、ダイの巨体は揺るぎもしない。

 そうして、グレイハウンドに攻撃させて動きを止めたところで、


「ふん」


 斧を振り下ろす。


 数匹のグレイハウンドが吹き飛ぶ。


 間合いが遠いグレイハウンドを確実に射抜いているのはアーシャだ。

 単なるポーズかと思いきや、弓矢の使い方がなかなか堂に入っている。


「さあて」


 それでも、グレイハウンドを全て倒すことはできない。

 数匹はマトの背後に回り、あるいはダイの死角から鎧の隙間を狙い、そしてアーシャとの距離を詰める。


 つまり、こいつらの始末が俺の仕事ってわけだ。


「ほら」


 ええと、適当に力を抜きながら。


 とはいっても、刀剣系のスキルは最高レベルだから、適当にやっても体が最適な動きをする。

 力を抜いている分、逆に剣がするりとスムーズに振られて、いつも以上の速度で斬撃がはしる。

 音も立てずに、グレイハウンドの首が落ちていく。


 やべ、やりすぎたか。

 とは言うものの、こんなところでパーティーに無駄に怪我をさせるのもあれだしなあ。


 適度に力を抜く、というやり方が分からないまま、味方の危険になるグレイハウンドだけを狙って切り殺す。


 結局、グレイハウンドとの戦闘は十分もかからずに終わる。


「凄いですっ、アーシャさんもご主人様もっ」


 手際よく、グレイハウンドを解体しながら、マトが顔を上気させて言う。

 さすがにハンターだけあって、獲物から素材を採取するのはお手の物らしい。


「絶妙なフォロー。ご主人様、達人のいき。こんなに簡単にグレイハウンドを倒せたのは、始めてだ」


 ダイもごろごろと喉を鳴らす。


「はいっ、それに、ご主人様の剣術、凄かったです」


「いやあ、まあ、剣術にはちょっと自信があるんだ」


 笑ってごまかす。

 まずい、これ、はぐれを狩るまで持つか? 先にバレたりして。


「これまでに何度かはぐれを狩ったことのある一流の剣士よ、ブレイクは」


 弓を仕舞いながらアーシャがフォローを入れる。


「へええ、やっぱり、尊敬しますっ」


 耳をぴこぴこ、目をキラキラさせるマト。

 ハンターの種族なだけに、はぐれを狩ったことがあるということイコール尊敬の対象らしい。


「はっはっはっ」


 無理矢理に乾いた笑いをしてから、


「さあ、じゃあ、行こうぜ。素材採取も終わっただろ」


「はいっ、これだけで、ちょっとしたお金になりますよっ」


 嬉しげなマトだが、手が血まみれだ。ギャップが凄い。


「そうね、こうやって道中モンスターを狩りながらキャンプまで行けば、それだけで買った装備とかアイテム分は稼げるかもね」


 アーシャが冷静に金勘定する。


 いやあ、こいつ、頼りになるな。マジで。


 俺の視線に気づいたのか、アーシャが無言ででこぴんしてくる。





「ここだ。確か、ここの辺りだ」


 日暮れ。

 赤く染まった森の中を歩きながら、俺が言うと、ずっと歩き詰めだった他の三人はさすがにほっとした顔をする。


「すぐ近くに例のキャンプ跡がある。そこで、いったんストップだ」


「ふう」


 大きな袋を背負ったダイが大きく息を吐く。

 ダイが背負っているのは、これまでにであったモンスターからマトが採取した素材の山だ。

 正直なところ、俺が持ってもいいのだが、ダイですら重そうなそれを俺が軽々持っているとかなり怪しいので、ダイに持ってもらっていた。


「あっ」


 耳を動かしながら、マトが小さく叫ぶ。


「ご主人様っ、血の匂いがしますっ」


「ああ」


 あの場所が近い。


 そして、ようやく木々を抜けて、あの場所が見えてくる。


「ひどいな、これは」


 思わず、といった感じでダイがつぶやく。


 その気持ちも分かる。

 何度見ても、暗澹なる気分になる。

 散らばる手足、乾いた血の海、衣服や剣の破片。ここで、戦闘とも言えない、虐殺があったことを雄弁に語る現場だ。


「あっ、うん、そうだ」


 きょろきょろとマトが顔を見回す。


「どうしたの?」


 アーシャが問いかけると、


「確かに、強いモンスターの気配が残ってますっ、はぐれですっ」


「おっ、いいね、今、そのモンスターがどこにいるかは分かるか?」


「ちょっと待ってください」


 辺りを見回したり、目を閉じたり開けたり、耳を動かしたり、歩き回ったり、マトは忙しく動くが、


「ううーん……」


 申し訳なさそうに、マトは沈んでしまう。耳もへたりと垂れる。


「ごめんなさい、ここからそう離れていない場所にいるらしい、とは思うんですけど……どうも、寝てるみたいです」


「寝てる? まだ夕方なのに?」


「えっ、ご主人様……」


 俺の思わずの発言にマトがきょとんとしたところで、


「ブレイク、夜行性のモンスターとした戦ったことがなかったのよね、あなた」


 若干慌てて、アーシャが割って入る。


「え、あ、そうそう」


「あ、そうなんですか、ご主人様っ。モンスターの中には、一日の半分を寝て過ごす、早朝から昼過ぎにしか活動しないモンスターなんかもいるんですっ」


「へえ」


 ゲームではモンスターの活動時間なんて関係なかったから、結構本気で勉強になるな。


「上級モンスターの多くは気配を消して眠るから、寝ている間はちょっと追跡が難しいです、ごめんなさい、ご主人様……」


「いや、そういうことなら仕方がない。とりあえず、今日のところはここの近くでキャンプを張ることにしよう」


「あっ、でも、ご主人様、気のせいかもしれないですけど、モンスターの気配だけじゃなくて、人の気配も感じたんです。それもたくさん」


 げっ。

 それ、ひょっとしなくても村だよな。


「ああー、まずいわね。ひょっとして、あたし達以外にはぐれを狩ろうとしているライバルかも。その気配からは、なるべく離れましょう」


 ちょっとわざとらしくアーシャが言う。


「そうですねっ」


「早くいこう、ここ、気分悪い」


「ああ」


 俺もダイの意見に賛成だ。


 少し離れた場所でキャンプを張っているうちに、日が落ちる。


 マトが手早くおこしたたき火を囲んで、俺達四人はアーシャが作ったグレイハウンドの内臓と山菜の煮込みを食べる。


「美味しいですっ、アーシャさん、ご主人様っ。こんな美味しいもの、マト食べたことありません」


「ぐう」


 同意するようにダイが唸る。


 二人の言うことは大げさじゃあない。

 材料が新鮮なためか、煮込みはあっさりとしていながら、深いコクがあって俺が元の世界で食べた色々な美味しいものと比べてもトップクラスのうまさだ。


「褒めても何も出ないわよ」


 ぶっきらぼうに言いながらも、アーシャの頬が赤いのはたき火のせいだけじゃないだろう。


「あの、ご主人様」


 おずおず、マトが煮込みの入った椀を片手に尋ねてくる。


「ん? おかわり?」


「えっ、いえいえっ」


 ぶんぶんと首を振って、


「ご主人様、マト達は、はぐれを倒した後は、何をすればいいんでしょう? その……売られちゃったり、とか」


 マトの目は既に潤みつつある。


「いや、その気はないよ」


 反射的に答える。

 売るなんて考えてもいなかった。

 余計なことを言うな、とばかりにアーシャが睨んでくるが、仕方ないだろ、言っちゃったものは。


「よかった。じゃあ、マト達は、これからもご主人様達とハンターをしていれるんですね」


「いや……」


 ハンターをする気はない。

 というよりも。


「え、じゃあ、マト達は何をすれば?」


「なあ、確か、奴隷ってその首輪を使った契約で縛られてるんだよな?」


「えっ、あ、はい」


「そうだ」


 戸惑ったようにマトとダイが答える。


「はぐれを狩ったら、それで終わりだ。契約は。奴隷契約を破棄する。主人の俺がそう契約すれば、首輪も外れるんだろ。それでいい」


 この二人をずっと奴隷として扱うつもりは初めからなかった。


「えっ……」


「ぐぅ?」


 言われたことの意味が分からない、というようにマトとダイはぽかんとしている。


「まったく、お人よし」


 アーシャには冷たい目で睨まれる。


「あ、あの、マトにはよく意味が分からないんですけど」


 困ったようなマトに、


「言った通りだ。俺は、今回のはぐれを狩ったら、マトもダイも解放するよ。というより、今だって奴隷として二人を所有している、なんて気はないんだ」


 煮込みを食べ終わった俺は、立ち上がる。


「言っただろ、パーティーを結成するって。俺は、二人とも仲間だと思ってるんだ」


 マトの目が潤んで、涙でいっぱいになっていく。

 ダイもふるふるとその巨体が震えている。


「まあ、今は申し訳ないけど奴隷契約を利用しているけど、約束だ。ここで、契約する。はぐれを倒したら、二人はもう奴隷じゃないし、俺も主人じゃない。なあ、アーシャ」


 俺のセリフに、アーシャは無言でため息と一緒に肩をすくめる。


 まだ茫然としているマトとダイを背に、


「さあて、もう寝るか。明日、早くからはぐれを追おうぜ」


 気恥ずかしくなった俺はそう言って寝床に向かう。

 何だか、色々とやってしまった感があるけど、とりあえず寝てしまおう。こういう時は寝るに限る。寝て、全部忘れてしまおう。

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