旅の剣豪
今日は、滝にも負けないような雨が降っている。
そんな中、一人の若者が外を歩いていた。
その若者は、旅人の様で宿を探して、そっけない村に入り込んだ。
その村は、妙に物静かである。
若者は、貧相な宿に一泊する事に決めた。
貧相と言っても、ここの村は不可思議な事に、全て貧相だった。
ずいぶん貧しい村だ。税に苦しんでいるのか?
この村の人は皆暗い顔をしている。
まるで死人の様な顔。
不思議に思った若者は、宿の人に問うてみた。
宿の人は、暗い顔をより一層暗くした。
「この村を襲う山賊がいるんですだ。
その山賊は、金目のものを全部盗っていっていくんで、
この村にはお金がほとんどありませんだ。
もう私は、いっその事村を出ようと思ってますだ。
あなたさんもとっと、この村から出て行くのが身のためですだ。」
なるほど、貧相なわけだ。
若者は、村の人の死人の様な顔を見て気の毒に思い、助けたいと思った。
「拙者がその賊を退治してまいりましょう。」
宿の人は、大きくため息をついた。
「あなたはあの賊の強さが分かっていない。
過去に何度も腕の立つ剣豪が戦ったものの、
あの大男に挑んで勝ったものはいないんですだよ。
あなたは見たところ、小柄でほそっりとしていているだ。
それならまだいいんだが、あなたが腰に下げているのは木刀。
まさか、木刀であの大男の剣豪に挑もうとしてるだか?」
宿の人が若者には、少々呆れ気味といった感じだ。
外がなにやら騒がしくなった。
「出たぞーー!かたな傷の男だあ!」
天地にとどろく様な声が響いた。
「賊が来ましただ。旅の人。
退治してくださるんですよねぇ?」
少し馬鹿にしたような言い方で、宿の人はそう言った。
若者の表情は変わらない。
余裕な態度をとっている。
「もちろんでござるよ。」
若者は宿をでた。
滝の様な雨は終わっていた。
宿を出た時、ばったり大男に出会った。
大男は、頬に刀傷を負っており、2Mを超える大男だった。
「おい、そこの旅人。
金目のものをだせえい!」
若者が恐れる様子はない。
大男はそんな若者を見て、こいつは珍しい奴だ。そう思った。
「痛い目にあわなければわからないらしいな。」
大男は剣を抜いた。
それと同時に若者は木刀を抜いた。
「わしをなめているのか?小僧。」
「勝負願おう。」
その時には、周りには金目のものを持ってきた村人が大勢集まっていた。
大男は刀を振り回すが、若者にはかすりもしない。
若者の木刀は目にもとまらぬ速さで、大男の小手を突いた。
大男の剣は地に落ちた。
大男は信じられないという顔をしている。
周りに集まっていた村人達は、何があったのかわからない。
若者の木刀が見えなかった。
まさに、電光石火の神業と言ってよい。
宿屋の人は、目を大きくしてこちらを見ている。
村人達は大男を睨みつけた。
当然の事である。
今まで苦しめられていたから。
早く死ねという目を向けている。
しかし、それをよそに若者はこう言った。
「おぬしはこんな事をする理由があるんでござろう?」
その言葉を聞いて大男は涙をながした。
大男には似合わぬ姿だ。
大男は理由を話し始めた。
「私の父は、悪役人に無実の罪をきせられました。
悪役人は、私に略奪を命じたのです。
従わなければ、私の父は殺されます。
だから、しかたなくこんな事をしていたのです。」
「その悪人を倒そうという気にはならぬでござるか?
その気があるのであれば、援助いたすでござるよ。」
大男は感謝の気持ちでいっぱいだ。
何と詫びたらいいのかわからない。
「私に、援助してくださるのか。
私と共に、悪人を懲らしめてください。」
村人達は少々きにくわなかった。
だが、村を助けてもらったので何もいえなかった。
「では、その悪人のもとへむかうでござるよ。」
「待ってください、せめてお礼だけでもさせてください。」
と村人一同。
「雨もやんだし、急ぎのようができたでござる。
もう去らなくては。」
「そんな・・・。せめて、名乗りだけでもしていってくださいな。」
「そうでござるね・・・。名も無き旅の剣豪とでも思っててくだされ。
では、さらば。」
名も無き旅の剣豪と大男は、村をさっそうと去っていた。