73.お仕事は大変
お師匠は、今日も仕事が忙しそうだ。
さっきから、いろんな姿で家の中を慌ただしく飛び回っている。
何やら、急ぎの仕事が大詰めにようだ。少し前にいきなり舞い込んだ仕事で、準備などいろいろ面倒だったようで、ミーネさんに荷物などなどを預けるなり。
「ふいー、疲れたよーう」
と、机の上に墜落した。
なお、そこにはクッションの山があるため、特にダメージは無いと思う。お師匠は、できないことは無いけれどあまり裁縫は得意ではないらしく、わりと不恰好なクッションが多い。
ただ、ちんまりとしているそのフォルムといい、ところどころ柄の違う布で修繕されているところといい、これはこれで味があっていいと僕は思っている。
「お疲れ様です」
愛クッションの山でゴロンゴロンするお師匠に、僕はそっと紅茶を差し出した。
よろりと浮かび上がったお師匠は大きくなり、紅茶を受け取る。
「うー、セラね、もうあんな無茶な仕事はこりごりだよぅ」
「じゃあ、無理に受けなければよかったのに……」
「弟子くんは子供だからわからないんだよぅ。世の中ね、断れないこともあるのー」
ぐびぐび、とぬるくはない紅茶を飲み干していくお師匠。
「セラはちょっとした組合にいるんだよぅ」
「魔女の組合、ですか?」
「そんなとこかな。そこに所属するとね、楽に商売できるんだよぅ。個別にルートを探さなくたって作ったものが売れるし、買う側も良質なものを手に入れることができるんだぁ」
「それが組合、と」
「そ。でも組合も一応ちゃんとしたしょーばいだからね、セラ達をタダであれこれしてくれるわけじゃーないんだな。月ごとにノルマってのがあるんだよぅ」
それがあれなの、と息を吐くお師匠。
お師匠のように触媒を作る魔法使いの場合、よく使う類の触媒を一定数作って収めることが義務付けられているらしい。買う側は主にあちこち回っているものが多く、見つけた触媒の材料を納めているという。つまりそれらは、組合に所属するための『会費』らしい。
ただ、お師匠はそれとは別に個人でもいろいろ仕事が回ってきて、今回はそれらといい感じに重なってしまって、てんてこまい、というわけのようだ。
「セラの場合、その個人ルートだって『組合所属の魔女だから』ってことで、信用されて繋がっている部分が多いからねー。やっぱり持つべきものは評判なんだよぅ」
何とかなってよかったぁ、とお師匠は笑っている。
またこんなことにならないようスケジュール帳をしたためようかな、と僕は思った。