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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -3-
72/74

72.ちゃーはん作るよ!

 食材の準備はできた。

 僕はフライパンをぐっと構え、そこに油を注ぐ。そこに細かく切った鶏肉を入れて、じんわりと焼き目がつくように火を通した。次にたまねぎを細かく刻んだものを大量に投入して、焦げ付かないようへらでざっくざっくとかき混ぜて綺麗にいためていく。

 肉を先に入れるのは、僕――というより、僕の母のやり方。

 この方が最初に使う油を減らすことができて、肉をかりかりにできるからだそうだ。先に野菜から入れていくと、肉がかりかりになる頃には野菜が焦げてしまうというのも理由らしい。

 そんな感じに次々と具材を投入。

 軽く塩と胡椒を降りかけて――最後に、僕は『それ』をまわしいれた。

「いいにおいだねー」

 お師匠が、うっとりした様子でこっちを見ている。手にスプーンを握って、食卓におとなしく座っている姿は、マテをされた犬か何かのようでかわいらしい。その隣にいるミーネさんもおなじような感じでかわいいけれど、さらに隣にいるアウラはちょっと……。


 ほら、アウラは僕よりずっと体つきがいい、成人男性の見た目だし。

 中身はともかく、うん。


「ヒメモリ自治領の料理って、あんまり食べたことないっすよー」

「俺は時々。焼き鳥とかいうのを食べてた。うまいぞ」

「アウラはすぐお肉なんだねー。ぷっくぷくに太ってもしらないよぅ」

「いいんだよセラ姉。俺はドラゴンだから、肉食なんだ」

「……肉食って言うか、ただのケダモノじゃん」

 ぼそ、とぼやくミーネさんの、十代前半という若さからは想像もできないほど疲れきった声は聞かないことにした。まぁ、相思相愛なんだから、抱き枕ぐらい我慢してもいいような。

「抱き枕だけじゃ、ぜんぜんすまないから困るんです!」

「まだ何もしてない」

「……まだ、ね」

 自信満々に告げるアウラに、僕は苦笑をこぼすしかできなかった。

 アウラの種族――ドラゴン種だけじゃないけれど、この世界の一部の種族は、成人の儀式というものを行わなければいけないらしい。僕が知る成人式とは違い、必要不可欠なんだとか。

 それを行わなければ、身体が成長しなくなるのだとか。

 実際、このアウラは十年前後、その必要なことをしないままでいた。

 そのせいなのか、アウラは精神的な部分がだいぶ幼い。それでいてそれなりのいろんな欲もあるようで、ほしい、と思うとどうしても抑えきれないのだそうだ。


 いつか、お師匠が『何年待てるの?』なんて尋ねていたっけ。

 ……ほんと、何年待てるんだろうか、このドラゴンは。


 などと思いつつ僕は、がさがさと荷物からその瓶を取り出す。こちらの世界の文字で描かれたラベルの中に、見慣れた『漢字』や『ひらがな』を見つけ、つい笑みがこぼれた。

 いつか知り合ったお師匠の友人の魔女、カグヤ・ヒメモリ。彼女の先祖は、その名からもわかるとおりに僕と同じ世界から来た。年号的には明治や大正あたりで、服装もそんな感じだ。

 彼らはここより北のほうに位置するエルディア王国の、ヒメモリ自治領と呼ばれる場所に暮らしている。聞いた話だと、そこは僕が知る日本の、古い風景がそのままあるのだそうだ。

 神殿のような『お寺』や『神社』があって、変わった料理もあるのだとか。

 前に町並みを描いたものを見せてもらったけど、間違いなくそれは日本の光景で。

 集団だったとはいえ、いきなり見ず知らずの異世界に飛ばされた彼らが、必死に故郷の姿を再現しようとしたのは明らかだった。だからこそ、僕はある『期待』をしたわけだ。

 すなわち、和風な調味料の入手。

 きっとあるに違いないと思った僕の予想は、見事的中した。

 とりあえずミーネさんに頼み、手に入れてもらったのは醤油。

 そして作ろうと思ったのは――無難に、焼き飯だった。

 味噌汁にしようと思ったけど、悲しいことに豆腐が無かった。あれはナマモノだから、さすがのミーネさん――いや、魔女宅配でもどうにもならなかったらしい。

 いっそ材料を手に入れて手作りしようか、と思っている。

「はい、弟子くん。これご飯ね」

 いつの間にか僕の傍に、ほかほかご飯入りのボウルを手にお師匠が立っていた。ありがとうございます、といってそれを受け取ると、一気にフライパンの中へと入れる。

 火を弱くして、丁寧に混ぜつつ軽くいためれば完成だ。

 適当な皿にもって、テーブルに並べる。

 この世界、意外と白米を食べる文化がどこにもあるようだけど、こうしていためたりするのはあまり無いらしい。主食類には混ぜ物をしないようで、パンも普通のパンが大半だ。


「いっただきまーす!」


 お師匠の明るい声を合図に、出来立ての焼き飯を食べる。

 うん、我ながらおいしい。親がいないときとかにさっと作っていたから、焼き飯は一応得意料理と言えるだけの経験がある。あぁ、それにしても和風な食べ物、久しぶりだなぁ……。

「ミーネもコレくらい作れるようになればいい。俺は肉が好きだ」

「うー」

「そうだよー、ミーネ。だんなさんは胃袋で掴まなきゃって、セラも聞いたの」

「せ、セラさんお料理しないじゃないですか!」

「だって弟子くんのほうが上手なんだもん」

「そもそも作れないミーネと、ここで一人暮らししていたセラ姉を比べるな」

「うううー!」

 アウラのばかっ、とミーネさんが怒り出したり。それをお師匠が宥めたり、アウラが撫で回したりなどしてさらに怒らせたり。今日の食卓も実に、実に賑やかなものでした。

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