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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -3-
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71.お菓子の行方不明事件

 最近、お菓子のヘリがやたらひどい。

 一つ二つどころか、買い置きの缶ごと消えている。この世界にもそういう保存食的なお菓子というものはあって、ミーネさんが時々持って来てくれるのでいくつか買っているのだけど。

 これが、そう安価なものじゃなかった。

 というのも、元の世界でいう安いお菓子の類は、こちらでは基本手作りする。缶などに詰められて売られているものは、あまり買わないし売れなくて、いつしか準高級品扱いだった。

 とはいえ、パっと出せるのは便利なので、だいたい一家に一缶はあるという。

 それにならって、僕もミーネさんからまとめて買っておいたわけなんだけれども。


「……お師匠、懺悔ぐらいなら聞きますよ?」


 腕を組んで見るのは、かごの中に納まったお師匠の姿。

 まぁ、どうせそうだろうと思っていたので、さほどのショックはなかった。あるとすればありあわせの材料で作り出した、こんなわかりやすいトラップにお師匠がかかったことだ。

 うー、とかごの中でうなるお師匠。

 戸棚を開けると、それで発動する仕組みのトラップに、見事ひっかかったのだ。

 悲しいことに、誤爆ではない。

 僕が犯人ではない場合、まぁ……お師匠しか残らないわけだ。

 毎日ちゃんとおやつを作っているのに、どうしてそんなに食べたがるのやら。ともかく、現行犯確保した以上、僕がすべきことはしっかりと犯人に雷を落とし、次の被害を防ぐことだ。

「弟子くんのばーかーぁ!」

 嫌い嫌いぃ、と叫ぶ声が聞こえるけど、僕は心を鬼にしてそっとお菓子を戸棚の奥へ。ここは鍵がついていて、それをかちゃりとかけてしまえば、後はもうどうにもならない。

 まったく、加減して食べないお師匠がいけないんですからね。

「弟子くんはわかってなーい。セラは頭を使うんだよぅ!」

「はぁ」

「頭を使うから、糖分がいるの! おいしいお菓子がほしいのー! 特にね、メルフェニカ王都の『カフェ・ミルマーニャ』の焼き菓子最高なんだよぅ。缶のやつ、たくさん買ったの」

「……」

 えぇ、知っています。

 それがまさに、お客様用のお菓子ですから。


 カフェ・ミルマーニャというのは、遠くはメルフェニカ王国の王都にある、素朴だけどすごくおいしいと評判のお店。魔法式を用いて、長期間保存できる焼き菓子を作っている。

 缶を開けなければ、半年はおいしいまま食べられる商品だった。

 一つの缶には二十個ほどが入っていて、一つ一つ手作りのため形が微妙に違っている。その素朴さがたまらないと、今ではかなりの人気商品で……つまり、なかなか買えないわけだ。

 それをこの前、三つほど買っておいたのだけど。

「どうして数日で、一缶しか残ってないんでしょうね」

 少しぐらいはいいか、と見過ごしたのが運のつき。ちょっと別のものを取り出そうと扉を開いてみれば、そこには一瞬言葉を失い、呼吸すらも忘れる光景が広がっていたわけである。

 そう頻繁に、お菓子を作ることはできない。

 そういう時にこそ、このお菓子を使おうと思ったのに。

「だって、だって」

 おいしいんだもん、とか細い声で呟くお師匠。

 まぁ、それは認めますけど……。

「食べすぎはだめですよ。しかも無断で。僕が怒っているのは、そこです」

「……はい」

 しょんぼりするお師匠を見つつ、僕は思った。この人にあのお祭り――ハロウィンを教えたら最後、どんな『脅迫』が飛んでくるかわからないな、と。



 向こうと類似点が多いこの世界、あの祭りが少なくとも近隣にないのは幸いだった。

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