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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -3-
69/74

69.故郷のお味

 じゃ、じゃ、と野菜が焼けるいい音がする。

「んふふー、ふーん」

 鼻歌交じりにフライパンを振るっているのは、僕じゃなくてお師匠だ。なにやら、作ってくれるらしい。今は台の上に立って、野菜をこんがりと焼いている……のだと、思われる。

 僕はリビングにいるので、音が聞こえるだけだ。

 かすかに後姿というか、髪が見えるだけ。

 何でも、野菜たっぷりの香辛料が利いたスープを作ってくれるそうだ。

 昨日から、野菜の一部と肉を、じっくりと煮込んでいる。


「ちょうどねー、スパイスとか安かったんだよぅ」


 という一言を発しながら、お師匠はたくさんの香辛料などを買い込んだ。そして、古くなっていたストックを一気に使い切る、という作戦に出たわけだ。

 街道がそれなりに整備されているとはいえ、この辺りにはなかなか回っては来ない。

 だから何かを買う場合は、少し多めに買い込むのだという。特に調味料関係は。最初はスパイスなんていつ使うのかと思ったけれど、肉にまぶすなど結構使いどころが豊富だった。

 元の世界のように、すぐに使える状態で売られているから、便利だな。

「弟子くん弟子くん」

 こっちきてー、とお師匠が呼んでいる。僕は読みかけの本を置き、台所に向かった。くったりした野菜を混ぜているお師匠が、隣のコンロにある大きめの鍋に目を向ける。

 そこには、じっくり煮込まれた肉と、とろとろに溶けた野菜。


「んとね、セラがこれの中身をお鍋に入れるから、弟子くんにちょっと混ぜててほしいの。その間にフライパンを洗ってね、残りの材料とスパイスの準備するから」

「はい、わかりました」

 僕はお師匠から形の変わったお玉のようなものを受け取り、鍋の前へ。フライパンの中身が加えられたその中は、これという味付けがない今の段階でも充分においしそうに思えた。

 背後にあるテーブルでは、お師匠がいくつかの瓶や袋を取り出している。

 赤やオレンジ、暗い茶色など、暖色系の粉末を、丁寧にさじで計量していった。

 まるで実験か何かをしているかのように、その様子は真剣そのもの。もしも不必要に声をかけたら、僕はこの鍋の中身にありつけないのではないだろうか、とさえ思う。

 気になるけどおとなしく、鍋を焦がさないようかき混ぜていると。

「よーし、できたよぅ」

 明るい声とともに、お師匠が隣に立った。


 その手には粉末が盛られた皿。

 かすかにスパイシーというか……何とも、カレーのような香りがする。


「入れたら綺麗に混ぜてね。ダマになったらおいしくないの」

「はい」

 さらさらさら、と鍋に入る粉末。僕は言われたとおり、丁寧にかき混ぜていく。お師匠は少しはなれたところで野菜をいくつか取り出し、まな板の上で細かく切っていた。

 今も充分野菜たっぷりだけど、まだ入れるつもりらしい。

 細かく切られた野菜も入れてしまうと、後はさらに煮込むだけだ。

 この調子だと、夕飯には間に合うだろうと思う。



 かくして出来上がったスープは、仄かにカレーのような香りのするものだった。全体的にサラサラしていて、少しぱらっとした白米のようなものに良く会う。

 ……うん、完全にスープカレーというやつだ。

「んとね、これ、セラの故郷のきょーどりょーりってヤツなの」

「へぇ……」

「雪国で寒いから、暖かくなるスープとか、香辛料とかよく使うんだー」

 たまに食べたくなるの、と嬉しそうに肉を頬張るお師匠。


 彼女が、今度は弟子くんの故郷の味を食べたいな、なんていうので、どうにかして味噌と豆腐とワカメに似たモノを探し出し、お師匠のために味噌汁を作ろうと僕は心に誓った。

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