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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -3-
67/74

67.三つの始まり

 ある日、空を見上げていた僕は、それに気づいた。

 空を時折飛んでいく、黒い――どこかで見たことのあるその影を。最初は鳥かと思っていたそれは、魔女宅配の彼女らとの出逢いで、鳥ではないことを知らされた。

 最初はアウラの同族かと思っていたけれど、どうやらそれでもないらしい。

 今日も空を群れを成して飛んでいくその影を見て、僕は隣にいるお師匠に声をかける。


「お師匠、この世界ってドラゴンなんているんですか?」

「んー、いるよぅ?」

「ドラゴン種とは、違うんですか?」

「そだねー。違うけど同じもの?」

 ちょびっと説明するね、とお師匠はどこからか書物を一つ、取り出した。 

 タイトルは見えなかったけれど、なかなかに小難しそうな見た目。

 こほん、とお師匠はせきを一つして、その本を開く。魔法か何かで浮かせたのか、本はお師匠の手から離れてぷかりと宙を上下した。その前に浮かぶお師匠は、にやりと意味深に笑う。


「弟子くんは、どうしてこの世界にたくさんの種族がいると思う?」

「えっと……」

「元々、弟子くんがいた世界には、人間種――のようなヒトしかいないんでしょ? でもここにはセラみたいな妖精種とか、いろいろいる。さて、どうしてなのかわかるかな、弟子くん」

「ん……」

 どうやら、解説ではなく『講義』らしい。

 僕はこの世界と、元の世界の違いを挙げていく。


 まず、魔法式の有無。

 こちらでは魔法式――魔法は日常の一部となっているけど、あっちではフィクション。使えると自称している人はいるかもしれないけど、はっきりと在るとは言いがたい。

 あとは何だろう。

「んとね、弟子くんの故郷にはいないでしょ?」

「何が、ですか?」

「精霊とドラゴンが」

「……?」

 確かにどっちも、魔法と同じくフィクションの、ファンタジー世界の住民だ。これらもいると言い張っている人はいるかもしれない。でもはっきりと存在は確認されていない、はず。

 僕が知らないだけで、何かの映画のように極秘に存在が確認されていたり、あるいは飼育されていたりしなければだけど。まぁ、さすがにそこを考え始めたら終わりが来ないか。


「あのね、この世界は人間種と精霊とドラゴンしかいなかった。どうして、その三つしかいなかったのかとか、なぜその三つなんだとか、そういう細かいところはまだわからないけど」


 ぺらり、と本のページがめくられる。

 三つしかいなかった種族は、基本的に互いに不可侵でいた。

 精霊に至っては、そもそも関わる手段もなかったけど。ドラゴンは高い山奥に集団で巣を作って暮らし、人間は野山に集落を作った。ドラゴン種が渓谷にいるのは、その流れらしい。


 そんな位置関係でいた三つの種は、けれど時折関係を持った。

 種を超えた、恋愛関係というヤツが生まれたわけだ。

 恋愛の先にあるのは結婚、そして彼らの間に授かる新しい命。

 ドラゴンとの間にはドラゴン種という、二つの姿を持つ種が生まれて、そして。


「精霊は人間との間に、たくさんの種を生み出した。たとえば精霊が持つ特殊な力と長命を引き継いだ『エルフ種』に、精霊との繋がりが強く残った『妖精種』。精霊の中でも悪さをするような類との間に『悪魔種』。ドラゴン種を筆頭とした一部以外は全部精霊からだよ」

 精霊はいくつもの姿を持っていて、それぞれの特徴を残した種が生まれた。

 エルフの耳も、お師匠の蝶のような羽も、僕は見たことがないけど獣人の耳や尻尾も。

 例外的に悪魔種だけは見た目は、人間と変わらない。ただ、精霊の『数多の姿』とも言われる変異性が引き継がれた。そう、彼らは力さえあればどんな姿にもなれるのだ。

 ゆえに、悪魔種は特に精霊に近い存在とされているという。僕的には、お師匠のような妖精種の方がよっぽど精霊に近いように思うけど。大きさというか見た目的にも、とても。


「話を戻すけどね、普通、ドラゴン種は背中にヒトを乗せたりしないんだよ」

 プライドが凄く高いから、とお師匠は言う。

 かつて、世界で一番強かったドラゴンという種。

 それの血と姿と力を引く彼らは、自らがそうであることを好む。渓谷という、同族ぐらいしかマトモに入れない場所に住むのも、自分達はヒトではなくてドラゴンなのだという意味。

 一方のドラゴンが、ヒトを背に乗せて運送業に携わる、今の世で。

 彼らはかつてドラゴンが貫いていた孤高を、あえて背負って生きようとしている。

「ま、背に乗せるって言っても、いろいろ面倒だってミーネは言ってたよ。そういうヒトのことを一般的にドラゴン使いとかいうんだけど、百人候補を集めて数人要れば御の字だって」

「それはまた……凄い狭い門ですね」

「ドラゴン種のプライドの高さは、間違いなくドラゴンの血の結果だとセラは思うの」

 僕のイメージでは、それはエルフの専売特許というイメージだけど。

 やっぱり、単語の類やその意味が似ていても、違う世界なんだなと改めて思う。


「まぁ、そんなわけで人間種という『苗床』を中心に、この世界にはたくさんの種族が生まれてしまったわけなんだよ、弟子くん。他にもいろいろいるけど、基本はこの形なんだよぅ」

「なるほど、わかりました」

 とりあえず人間は万能だということらしい。

 まぁ、性別さえその気になれば思春期ぐらいで変わる種族なのだから、その程度の臨機応変さというか自由さは、むしろ自然なことのように思えるけど。

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