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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -3-
66/74

66.不思議なお弟子さん

 その人は、とても不思議な人だった。

 わたしのパートナーの彼と同じ色合いの容姿なのに、何かがぜんぜん違う。どこから来たのかも知らないその人は、気づくとお得意先の魔女――セラさんの『弟子』だった。


 ずっと森の中で、一人で住んでいたあの人の、弟子。

 でも、魔法式はあまり得意じゃないらしい。


 もっぱら、日々の食事の準備や畑をいじってばかりだった。本人は、とても楽しそうにそれらの作業をこなしている。普通、魔女の――魔法使いの弟子だったら怒るだろう、雑用を。

 魔法使いの弟子は、魔法式を教わるために弟子入りする。

 それをさせてもらえないのは、屈辱であり、苦痛。

 けれどあの人は、出来ることをやるだけという感じに日々を過ごす。セラさんもそんな弟子のことを大事にしていて、危なくない魔法式からゆっくり教えているらしい。

 簡単な魔法式を扱う魔女の一人であるわたしからすると、ちょっと不思議な関係だ。

 良くも悪くも貪欲な人々を、見すぎたせいなのかもしれない。


 今日もわたしは、はるかな空を巡る。

 わたしは世界を巡る運送業『魔女宅配』の、従業員。ドラゴン族とペアを組んで、わたし達は荷物を運ぶ。わたしが扱うのは、魔法式で纏められる荷物が中心。

 魔法式に使う触媒だったり、その材料だったり。

 家具のような大型の荷物とか、牛や馬といった生き物は運べない。

 後者はともかく前者がなぜ無理かというと、魔法式による専用の別空間への収納には、幾つかの制約が存在している。生きているものはムリだし、大きさにも限度があった。

 量に関しては結構余裕があるので、細かいものを纏めるのは便利。

 なのでわたしとパートナーのアウラが扱うのは、そういう細かい荷物や、急がなければいけないようなナマモノが中心。アウラは早さが売りのドラゴン種だから、一気に空を移動する。


 担当区域はノイン王国の国境沿い。

 そこにある森の中に、件の魔女とお弟子さんは住んでいた。


「アウラ」

 遥か下方に見慣れた森を見ながら、わたしはぺしぺしとドラゴンの首を叩いた。

 ちらり、とわたしに視線を向けた彼は、小さくうなづく。

 それから数秒待って、アウラはゆっくりと、旋回しながら下降していった。上に乗っているわたしに負担がかからないように。そんな優しいところがあるから、ついつい甘えたくなる。

 少し前に――意図的なところがあったけれど、ほぼ同時に成人したわたしとアウラ。

 ドラゴンとしての姿は変わらないけど、ヒトの姿はずいぶんと変わってしまった。わたしよりずっと小さかったはずの彼は、わたしが知る誰よりも身長が伸びて、実年齢も上がった。

 ……というか、やらなければいけない成人の儀式を、ずっと遅らせていたとか。

 わたしと一緒に、いたかったから。

 バカだなぁ、と思う。でも、少しだけ胸の奥が苦しい。これがきっと、愛されている、ということなんだろう。恥ずかしいけど。だっていきなり、アウラが大人になってしまったから。

 だけど、何も変わっていないことをわたしは、ちゃんとわかっている。

 アウラはアウラだし、中身の年齢はまだまだ幼い。ずっと子供のままでいた結果だと、彼の父親は呆れ気味に苦笑していた。本人は、自分は大人だと主張したけど。

 うん、アウラはまだまだ子供だとわたしは思う。

 人のことは言えないけど、だからこそ、アウラはわたしと『同じ』だった。


 元々血の気が多いドラゴン種でも、結構頭に血が上りやすいところも。欠点や失敗などを指摘されると、すぐに機嫌が悪くなるところも。あと、ガマンがどうにも出来ないところも。

 たぶん……だから、あの人は自分の身長をあっという間に追い抜いた、実年齢も実は年上だとわかってしまったアウラを、子ども扱いしているのだと思う。

 アウラは、それが何よりに気に入らない様子だけど。

 本当に不思議な人だ。

 普段はセラさんと同じでほわんとしていて、でもいざって時は凄い。もしアウラが子供のままだったら、なんて思うくらいに、わたしはあのお弟子さんが好きなんだと思う。


 ――なんて言ったら、またアウラが機嫌を悪くするから、言わないけど。


 だけどね、彼がいたからきっと、今がある。

 こうして一緒に、空を飛んで一緒に過ごす時間がある。

 だから少しぐらい褒めるのは、許してくれてもいいと思うよ、アウラ。

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