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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -3-
64/74

64.お師匠の嘘、僕の嘘

 ことの始まりは、朝のこと。

 ついつい、夜更かしして寝過ごしてしまって、日はすでに高いところから落ちる頃合。びっくりするほどの空腹は、今が朝ではなく、そして昼すらも通り越したと教えてくれる。

 けれど一番の『異変』は、残念ながらそれじゃなくて。


「きゃああ!」


 何やら高い悲鳴。

 僕の上にあった重みが無くなる。

 何事かと身体を起こしたら。

「だ、だれですかっ」

 瞳を潤ませるお師匠――に酷似した女性がいた。お師匠の寝巻きを着た、同じような薄緑色の髪と瞳の、色白の、少し身体の起伏が乏しいように見受けられる、僕より年上の女性。


 彼女は部屋の隅にうずくまって、僕を見ていた。

 怯えて、いた。


「え、あの……ど、どちらさま?」

「……」

 彼女は答えない。

 えっと、これはどういうことなんだろう。まさか、僕は気づかないうちに夢遊病的な何かを患ってしまって、このお師匠にそっくりな女性によからぬ行為をしてしまったのか。

 ど、どうしよう。

 お師匠にこんなことが知られたら、僕は確実に軽蔑される。いや、それどころかここからたたき出されてしまう。まだまだ一人で生きていける力なんてないのに、そんな。


「……ふふ、んふふふふ」

 どうしようどうしよう、と文字通り頭を抱えていると、件の女性が笑い出した。

 実に、聞いたことのありまくる、声で。

 ゆらりと女性の姿が溶ける。

 その向こう側でふわふわと浮いているのは、手のひらサイズのお師匠だ。その笑みに、僕が自分が騙されたことを、からかわれたことを悟った。たぶん、魔法を使ったのだろう。


「どうだった? セラの『変身魔法』は」


 妖精種の十八番――といっていいのかわからないけど、妖精としてのすがたからヒトの姿になる仕組みを応用し、お師匠は身体をさらに大きくしてみたとのこと。

 普段はぐっと疲れるので、やらないそうだ。

 どうやら僕は、お師匠とっておきのイタズラを仕掛けてもらえたらしい。

「ふっふっふ、我ながら最高の演技だったと思うんだよ、弟子くん。弟子くんは普段、あんまり表情が変わらないからさ、驚いたり青くなったりするのは見ていて面白かったの」

「……そうですか」

「ほら、前に弟子くんの故郷では『嘘をついていい日』があるときいたからね、とりあえず今日がその日ってことにしたの。他にも考えたけど、これが一番おもしろそうだったんだよ」

「……そうですか」


 そういえばそんな話を、前にしましたっけ。

 祝日のようなものの有無を尋ねた時に、エイプリルフールを話題にしましたっけ。かなりいい食いつきっぷりを見せてましたよね、そういえば。あの日から狙ってたんですねどうやら。


「さぁ、弟子くんも嘘を付いていいよ!」

「……お師匠、嫌いです」

「え」

「あと嘘を付いていいのは午前中だけらしいですよ。今は午後ですが、まぁ、それは真偽が分からない話なので、信じるも信じないもお師匠の自由ってことで、僕は散歩にいきますね」

「え、あの」

 唖然としたお師匠を一人残して、僕は家の外へ。

 おなかが空いていたので、果物を一つ籠からくすねて出て行った。

 数時間はぶらぶらと森の中を、当てもなく歩いたり、立ち止まったり。すぐに帰るのはなんだか癪だったので、夕暮れで空が赤く色づくまで森の中にいた。


 ……決して迷子ではない、はずだ。

 ちゃんと家に帰りつけたのだから違う。


 家に帰るとお師匠が、ひたすら謝ってきたので……まぁ、許すことにした。そもそも、お師匠がそんな楽しそうなイベントに、食いつかないわけが無いことを失念したのも悪いだろう。



 そんなこんなで、勝手に決められた『嘘の日』は、終わった。

 この日、僕がどんな嘘をついたのかは――そもそも嘘をついたのかは秘密である。

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