63.大団円のエピローグ
あれから、数日経った。
僕とお師匠は、いつもと変わらない日常を過ごしている。
朝起きて、ご飯を食べて、実験やら作業やら畑仕事をして。お風呂でさっぱりして、ふかふかのベッドで眠る。時々、お師匠がやっぱり僕のベッドに不法潜入する以外、いつも通りだ。
変わったことといえばミーネさんとアウラが、この家に『一番最後』に来るようになったことかもしれない。仕事終わりに寄ったりもしてくれる。で、四人でお茶をする。
相変わらずアウラは見た目だけ大人という感じで、ミーネさんは大変そうだった。
でも、幸せそうだから、よかった。
「弟子くん弟子くん。ちょびっとだけね、手伝って欲しいのー」
「はい、お師匠」
ぱたぱた、とそう広くない研究用の部屋を、右往左往するお師匠。
僕は今日も彼女の手伝い担当だ。前よりも扱っていい薬品も増えたし、独自の研究の許しも出た。まぁ、それでも本業の魔女であるお師匠からすると、明らかに見習い仕様なんだけど。
弾丸の研究をしたいところなんだけど、現在あれはパメラさんの所にある。
例の安全装置を、どうにかしてつけてもらうのだ。
ちなみに渓谷での大騒ぎは伝わっているらしく、サイコーだね、という言葉が綴られた手紙が昨日届いた。うん、確かにあの人が、泣いて喜びそうな事件だったなぁと思う。
「弟子くん弟子くん」
「はい、お師匠」
「名前で呼んでほしいなぁ」
「……はい、セラ」
少し迷って名前で呼んであげると、違うよぅ、と頭を叩かれた。セラフィア、と呼んで欲しいらしいのだけれど、僕という人間ははそんなに甘くは無い。
特別なものは、特別な時に、かつ適切に、適量を与えてこそ効果的。
たとえば、甘いものが欲しいと喚くお師匠に囁くとか。夜更かししようとするお師匠を寝かしつける時に囁くとか。照れて真っ赤になるお師匠は、この上なくかわいらしくて最高だ。
あぁ、せめてヒトの姿をしているお師匠がもうちょっと、本当にもうちょっとでいいから大人寄りの容姿をしていれば……いや、なんでもない。僕はそんな煩悩は抱いていない、はず。
それに今のお師匠は、正直に言えば非常に抱き心地がいい。
腕の中にすっぽり納まるサイズ、というか。
というか、今でさえ時々目を奪われるというのに、あれでたとえばプラス五歳って感じの大きさになられたりしたら、正直なところ、アウラを笑えない状態になるのは間違いない。
……今度、そんな話を彼としようと思った。
そこに。
「こんちゃーっす!」
空から聞こえたのは、聞きなれた小さい魔女の声。
僕はお師匠を肩に乗せて、彼女を出迎えるために玄関に向かった。
ちなみに、アウラは二年しか『待て』ができなかった。まぁ、たった二年でびっくりするほどに綺麗になったミーネさんを、一番近くで見ていれば……気持ちは、わからないでもない。
とはいえ待てなかったのは手を出すことであり、眷属にしたのはさらに三年後。第一子が生まれたのはさらに一年後。そこからとんとん拍子に子供が生まれて、気づいたら十人いた。
ケダモノだね、とはお師匠のつぶやきというかボヤキである。
僕とお師匠の関係も、その頃にはいろいろと変化していたのだけれども。
これはまだ、ずっとずっと先の話になる。