62.何年待てるの?
次の日、カグヤさんのいない朝食の席。
「ねぇ、アウラ。何年待てる?」
パンをかじっていたお師匠は、肉をかじっているアウラにそんなことを言い出した。絵に描いたような朝の団欒に投げ込まれたその問いかけに、誰もが答えを見出せない。
「だから、何年待てるのかなって、セラは疑問に思ったの」
「……いや、だから何が」
「だって、ミーネはまだ十三歳だもん。さすがに子供には無理だと思うよ」
子作りとか、と笑顔でお師匠は言い放つ。
何度もいうけれど、今は朝だ。
家族の団欒のような穏やかな空気漂う、爽やかかつ穏やかな朝だ。
間違っても、そんな話題が出るようなタイミングでもない。
お師匠の直球の発言に、アウラはしばし唖然とする。ミーネさんなんか、真っ赤になってうつむいてしまった。かわいそうに、と思いつつ、ぽかんとしたアウラに不安が募る。
想像もしていなかったというよりも、出鼻をくじかれたような、その表情に。
「……駄目、か」
あぁ、やっぱり『待つ』気はなかったようだ。
お師匠、いい質問でした。グッジョブ――とは、まさにこのことだろう。
「母子共に健康でいてほしいなら、あと数年は待たないとねー。実際に出来る出来ないはともかくとして、出来かねないような行為も禁止だよぅ。女の子はね、とてもデリケートなの」
「……ダメなのか? 本当に?」
「ダメです」
アウラは完全に、今すぐに父親になる行為をするつもりだった……のだろう。
むしろ、成人を焦ったのはそっちが目当てだったんじゃないだろうか。ミーネさんが成人してしまったから、これで手を出しても大丈夫的な。同性ながら、最悪だといわざるを得ない。
「ミーネ、ダメか?」
「だ――ダメにきまってんじゃないのっ、ばかーっ!」
ちら、とミーネさんを見たアウラは、赤面した彼女に横っ面を張り倒す。そこまでは乙女心というのものを想像するに、ひっぱたかれても仕方ないよなぁ、と僕は思ったけど。
その後、押し掛けてきたアウラの身内の女性陣――お姉さんや妹に、本音を言った彼がしこたま説教と折檻を施されているのを見て、さすがに少しだけかわいそうだな、と思った。
「子供は早く作らないと、俺の理性が持たない……どうしよう、ミーネ」
「そんなの知るかあああっ!」
いや、やっぱりもっと殴られた方がいいよ、うん。
見た目だけは立派な成人男性なのに、中身はどう考えても子供だった。