61.穏やかな夜のひと時
一通りの騒ぎが終わり、僕とお師匠はあてがわれた部屋に戻っていた。ちなみにここからだいぶ離れたところに、カグヤさんとゼロさんがいるという。
周囲には誰もいないような場所がいい、と、魔力を使い果たしてぐったりモードのカグヤさんを抱えたゼロさんが言ったからだ。お師匠曰く、実にいい笑顔だった、とのこと。
でも何で、そんな辺鄙な客間を選んだんだろう……。
「弟子くんはニブいなー」
「はぁ」
それは元の世界でも、友人知人、果ては従兄弟にも散々言われたので、いい加減自覚はしているのですけども。それにしたって、ずいぶんと久しぶりに『鈍い』といわれた気がする。
「さっき、セラが二人に何をしたと思ってるの?」
「えっと……あの、何か唱えたり抱きしめたりしてた、あれですか?」
そうだよ、とお師匠はベッドの上に着地する。
その上をころんころんするお師匠は、ちょっとだけ酔っていた。夕食に出たお酒を、グビグビと結構飲んでしまったからだ。一番いい終わり方をしたので、気分も高ぶっているらしい。
ちなみに僕はお猪口のような入れ物で、味見程度に少々。
今日は祝いだから、と押し切られてしまったのだ。
アウラとミーネさんの、とりあえずは婚約を祝う宴。そういわれると、未成年ですからと断ることも出来ない。ちなみに香りは日本酒のような感じだった。味もすごくおいしかった。
「んとねー。あれは祝福なの。かなり略した結婚式」
「……え?」
「カグヤとゼロはー、結婚したの。ふふん、初夜だよ、しょーやー。新婚のかっぽーが初めての夜に致すことといえば、一つしかないとセラは思うの。明日ね、カグヤ起きてこないよ」
「あー、はい、もういいです、説明いいです」
小さい口を指先で押さえ、とりあえず黙らせた。
するとそれが気に入らなかったのだろう。
むっとした表情で、お師匠はヒトの姿になる。そして。
「弟子くんのバカーぁ」
「うわっ」
飛びつかれ抱きつかれ、ぐるんぐるんと回った末に、ベッドに倒された。
あぁ、どうしようこの酔っ払い。両親共に兄弟仲がよく、何かあるたびにどこかに集まっては宴会をしている環境のおかげなのか、この手の酔っ払いには慣れている、高校生なのに。
しかし直接絡まれることは少なく、ましてや抱きつかれるなど起きたことも無い。
ましてや、相手は他ならぬお師匠だし……。
「弟子くんはー、バカなのー。むぅ……」
「はいはい」
仕方が無いので、このまま眠ることにする。……どうせ、離したところで、朝起きれば同じような状態になっているだろうから、体力を無駄に使うだけだ。大人しくするが吉。
毛布などを手繰り寄せ、お師匠を上に乗せたままもぞりともぐる。
「弟子くん、あったかいねぇ……大好きだよーぅ」
……それは、どうも。
声にならないので、頭をなでることで答える。本当に、この人はこうして、僕のいろんなものを試すのが好きなんだろうか。困った人だと思いつつも、悪くは無いので笑うしかない。
すっかり寝入ったお師匠をぎゅっと抱きしめ、僕も目を閉じた。