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52.何からも守るために

 例の銃を抜き、引き金を引く。

 鉄で出来た的に、次々と放たれた弾丸が衝突し、魔法式が展開される。

 的は次々と吹っ飛んで、草の上を転がった。


「んー、だいぶ挙がってきたかな……」


 僕は銃に弾が残っていないのを確認してから、腰のベルトに固定する。あいにく、的は全自動で元通りにはならないので、自分の手で治しに行かなきゃならない。

 そしてこの銃、どうも安全装置なる便利機能がないらしく、前に数発残ったまま動き回っていたらどこかに引っ掛けて暴発。それはそれは見事な青痣の花が、僕の足に咲いてくれた。

 さすがに二度目は遠慮したいので、そこらへんは特に気を使っている。


『そのうちパメラに送り返して、そのアンゼンソーチってのをつけてもらおう!』


 と、僕の痣を見ながら、涙目で訴えるお師匠は……かわいかったな。

 まぁ確かに、安全装置は欲しいので、そのうちお師匠に頼んで送ってもらう予定だ。

 最近の日課になっている訓練も、少しだけだが成果が出てきている。しっかり狙った場合はそれなりの命中率をたたき出し、とっさに抜いて撃つ場合でもだいぶ精度が上がってきた。

 弾丸もいくつか実用的なものが作れていて、今は訓練ついでに試し撃ちもする。


 とりあえず現在試作中なのは、殺傷能力のない護身用のもの。たとえばスタンガンのように当たった相手をしびれさせ、動けなくさせたり意識を少々手放してもらうなどの魔法式。

 あとは物理的に対象へ衝撃を与える――ゲームでいうと、おそらく通常攻撃というヤツに該当するであろう効果の弾丸も作成中だ。ちなみに、こっちはほとんど完成している。

 最近、ゴタゴタしていたけど、こっちもちゃんと練習しなきゃいけない。

 武術の類がまるで期待できない上に、魔法式もうまく使えない。

 これも扱えなかったら、僕は完璧にお荷物だ。

 一つ一つ並べ終わった的から、さっきよりも距離をとる。


「――」


 左から右へ。

 腕を動かして狙いをつけ、引き金を引く。

 ……さすがに疲れてきたのか、さっきより的にうまく当たらない。そろそろ休憩でも挟もうかと思ったとき、かさり、と草を踏みつける音が僕のすぐ後ろから聞こえた。


「なぁ、ニンゲン」


 そこにはヒトの姿をしているアウラ。

 変化が始まって微熱が出ているはずなのだが、出歩いても平気なのだろうか。

 けれど僕がそれを言う前に、彼は距離を詰めてくる。

 ずいぶんと、本当にずいぶんと大きくなった気がする。十歳近く離れて見えた初対面の頃と比べれば、本当にいい意味で見る影が無いというか。あっという間に、身長も抜かれたし。

 今の彼は高校生……いや、大学生かもしれない。

 たぶん、僕より年上に見えるはずだ。僕でさえそう思うのだから。

 そんな彼は僕が握っている武器を、実に不思議そうに見て口を開いた。

「お前、なんでそんなの使うんだ?」

「僕は魔法式が扱えないからね……でも、コレなら何とかなりそうでさ」

「……誰か、守りたいのか?」

「まぁ、そうだね」

「俺はミーネを守りたいんだ。アイツはあんたより、弱い」

「彼女だって魔女だよ。そんなに弱くは無いはずだけど」

「ニンゲンだったら強い方だよ。でも……『俺達』からすると、そうでもない。セラ姉ならさすがに勝てる気があんまりしないけどさ、ミーネはムリだ。アイツの魔法じゃムリだ」

 俺達のうろこは壊せないよ、とアウラは苦笑する。


 一度触ったことがあるけれど、確かに彼に限って言えば、そのうろこはかなり硬い。ちょっとやそっとの攻撃では、はじき返されるのがオチという感じがする。

 あれをどうこうするには、相当なパワーが求められるだろう。

 ……しかし、どうして攻撃だの何だの、戦うことが前提の話になったのか。

 僕が、こうして練習していたせいだろうか。


「あのさ、俺がミーネをヨメにするって言ってるのは、冗談じゃないんだよ。だから俺は国に帰ってない。俺がいないと、傍にいないと、誰もミーネを守ってくれないだろうから」

「そんなことは無いと、思うけど……ほら、ミーネさんの同僚さんとかいるじゃないか」

 近所には同僚さんや、そのパートナーのドラゴンも住んでいるという。

 何かあった場合は、彼らが助けてくれるはずだ。

 けれどアウラはゆるゆると、首を横に振る。

「ドラゴンはさ、エルフについで同族結婚を重視する。混血を嫌う。俺がしているのは、同族にとったら信じられないような、ありえない裏切り行為だ。……誰も守らないさ」

「そんな……」

「成人の儀式で国に戻るのだってさ、結局は早く縁談をまとめるための便利な理由だし」

 だからずっと帰らなかった、と、誰かをバカにするようにアウラは言う。


 ――ずっと?


 その言葉に僕は、お師匠の姿を思い出した。

『それにしても彼はウソが多いね』

 そう言って微笑んだお師匠。

 ミーネさんの変化が始まったのはほんの少し前だ。日付をメモしたわけではないが、一ヶ月も経っていないはず。その頃にアウラは成人の儀式を行う年齢になった……はずだったけど。

 それは、はたして『ずっと』といえる時間なのか。

 僕が認識しているものに、どこか気づいていない穴があるのか。


「まぁ、でもこれで第一段階は終わった。後は……俺が」


 ――俺が何もかもから、あいつを守ってやるんだ。

 僕が頭の中に浮かべた疑問など露知らず、アウラは決意を新たにしている。

 とりあえず、今は彼の言葉を信じよう。

 彼が口にするミーネさんへの想いは、本物のように思うから。

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