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47.おれさまがかんがえたさいこうのぷろぽーず

「すみませんでした、取り乱して」

 死んだようにぐったりとするアウラを抱え、ミーネさんは家の中に戻ってくる。ホウキは後で新しいものを買ってくる、とのこと。……へしおれるか何かしたんだろうな、と思う。

 アウラをソファーに寝かせたミーネさんに、僕はそっと紅茶を差し出した。

「どもっす」

 ずずずう、と緑茶をすするように紅茶を飲む。

 湯飲みだったらサマになるんだけどな。

「ところで、弟子くんがそれにすごいことを言われたんだよね」

 諸々の事情より何より、お師匠はまずそこをついてきた。

 楽しんでる……間違いなく、この一件を楽しんでいる。

「あのさ。そういう仲なわけかい? 君とアウラは」

「違います。だいたい、見たでしょう? ヒトのアウラは、あんなガキんちょっすよ」

「じゃあ、どうして俺のもの宣言したのさ、弟子くん相手に」

「……知りませんよ、そんなの。わたしにとっては、これはただの」

 ただの、と繰り返してミーネさんは口を噤む。


 まぁ……気持ちはわからないでも、ない。

 いくら可愛いだの可憐だのと思っても、僕にとってはミーネさんや、あとハルなんかは妹のような存在だし、もしも告白されてもそういう対象とみなせるかというと、答えはノーだ。

 ミーネさんにとってのアウラがどうであれ、同じような感覚なんだろうと思う。

 手のかかる弟、あるいは相棒。

 アウラのヒトとしての姿を見る限り、好きだ結婚してくれ、と言われてもね……うん。


「大体、自分が今『どういう姿』かも忘れて、バカみたいにはしゃぐお子様なんて、最初から眼中に入ってもないですよ。最近はそうでもないけど、昔はよくモノを壊して……」

 その挙句に、とミーネさんは、そもそもの発端を語り始める。

 すべての発端は例の――ミーネさんの性別は確定しきった数日前の夜だったそうだ。いつものように一緒に暮らしている、こじんまりとした一軒家で、仲良くご飯を食べていたという。

 その日は少しだけ豪勢なメニューで、ちょっとしたお祝いをかねていた。

 とはいえ、誕生日ほど祝うわけでもなく、いつも通りに時間が流れていた……のに。

「あいつ、いきなり言うんですよ」

 はぁ、と深いため息をミーネさんが吐き出す。

 洗い物も済んで、お風呂も入って、さぁ寝るだけというタイミング。おやすみを言って部屋に戻ろうとしたミーネさんを呼び止めたアウラは、近所に響き渡るような大声で。


 ――ミーネは俺のヨメだから、俺と結婚するんだぞ!


 と、叫んだそうだ。

 それは告白とか求婚とかではなく、ただの命令じゃないだろうか。実際、ミーネさんもそう思ったのでかなりこっぴどく、いや徹底的にフってやったらしい。気持ちは理解する。

 それから、同じように『俺様と結婚するんだ』『死んでもヤ』というやり取りを、それこそ配達中でもわぁわぁぎゃあぎゃあと繰り返し、そしてとうとう……アウラは家出をした。

「たぶん、弟子さんの話をしてるせいっすね……料理が上手でうらやましい、とか」


 ……あぁ、それであの流れなわけか。


「弟子くんが年上っていうのも、アレだよねぇ」

「ったく、ほんとーに、どーしようもないガキなんだから」

「でもそのアウラがいいって言ったのは」

「……わたし、ですけど」

 少し浮上していたミーネさんは、またうつむいてしまう。お師匠、彼女はもぐらたたきのもぐらじゃないんですから、そう浮上するたびチクチクと改心の一撃を見舞わなくても……。

 とはいえ、この二人は思いもよらないほど複雑な関係のようだ。

 アウラの心情としては、大人になっていく年上の思い人を、何とかして早く手に入れんとする感じなんだろうか。実際、アウラが大きくなる頃には、ミーネさんはたぶん、もう。



 焦り、なんだろうな。

 恋愛関係ではなかったけど、そういう焦りは、僕にも覚えがある。

 どの世界でも、子供はみんなそういうものなのかもしれない。

 彼の恋――だと思われる感情が成就するにせよ、相棒のままでいるにせよ。どうか悪い結果にだけはならないように、二人がいつも仲良く一緒にいられるように、僕は祈った。

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