44.森の拾い者
弾丸研究は意外と早く進んでいる。
お師匠の、これまで培ったノウハウが惜しみなく注がれている結果だ。
的に命中する前に破裂するということも無くなり、あとは詰め込む魔法式の威力や撃ち出される速度などを計算し、それを考慮したうえでさらに試作品を作る。
実用性のある弾丸が作れるまでは、試作しては試し撃ち……という繰り返しだろう。
残る問題は、僕の射撃の腕前だ。
ついでに反射神経も、それなりに何とかしなければいけない課題の一つ。
こればっかりはすぐにはどうにもならず、僕はヒマさえあれば散歩途中に練習するようにしていた。例の音と煙だけが出るヤツをたくさん作って、適当な箇所を狙う訓練。
別に庭でもよかったのだけれど、森のような視界の悪い場所で戦わないとけなくなった場合を想定している。というか、ここに住んでいる以上、それを想定しないわけにはいかない。
何かあった時に、僕とお師匠が逃げ込むのはおそらくは、この森なのだから。
「いや……そんなこと、無いのが一番だけどね」
ははは、と独り言をもらしながら、森の中を散策する。
また迷子にならないよう、何やらきれいなお守りを持たされた。今、僕が首にかけているペンダントがそれだ。名前は知らないけれど、少し透明感のある青い鉱石が使われている。
滑らかな加工など施されていない、原石をそのまま使ったシンプルなデザイン。
僕としては、こういうヤツの方が好みといえば、好みだ。
とりあえずこれを持っていれば、精霊にいたずらされずにすむという。以前、ひどい目に合わされた、嫌な記憶はなかなか忘れられない。精霊というより妖精じゃないかと思う。
この世界の妖精は、お師匠のように普通の人が多いようだ。けれど僕の世界の妖精は、まさにこの世界でいう精霊そのもの。好奇心の塊で、ヒトにいたずらするのは日常茶飯事。
とはいえ、対処法があるだけマシだろう。
それ相応の魔法使いになれば、いたずらされたりしなくなるというし。僕もこの魔改造されてしまった道具を使いこなせたら、お守り無しでも散歩ができるようになるだろうか。
「そのためにも、鍛錬鍛錬っと」
適当な木の幹のくぼみに狙いを定める。
僕の腰には例の拳銃――だったモノが二丁、箱の底から発掘されたベルトに固定されてぶら下がっている。すばやく抜いて、狙った場所に向けて、ぐっと引き金を引いた。
森の中に音が響き、狙った場所からかなりずれた付近から煙が生まれる。
「あー、だめか……」
時間をかければそれなりに命中率はあるんだけど、こういう早撃ちはどうにもダメだ。
実践では、こっちの方を使いそうだから、重点的に練習するんだけど……やっぱりドラマとかのようには行かない、ということか。初期よりはマシだ、と前向きに考えておこう。
しかし、こうしていると銃でよかった、という気がしてならない。
畑仕事に使うクワでヘトヘトの僕に、剣なんて振るえる気がしないし。でもこれなら足手まといにならない程度には、たぶん使えると思う。魔法式前提だから反動なんてないし。
適材適所ってことなんだろう、うん。
さて、あんまり散歩を続けていても意味はないし、お師匠が心配するあまりにすっ飛んできても困るので、そろそろ家に帰ろうか。僕は家に向かって歩き出して。
「う……」
かすかに聞こえた、その何かに気づいた。
ヒトの、うめき声のような音、だったような気がする。ここは僕やお師匠しかいないように見えて、結構人が入ってきているらしい。精霊のいたずらで、遭難して被害者なんだろうか。
僕は適当な茂みの向こう側を覗く。
……が、声の主はいない。
「ん、う……く」
だけど、近くから明らかに『声』がした。
聞こえた方向に僕はまっすぐ走る。
茂みの向こう側へ飛び込んで、僕は声の主を発見した。地面に突っ伏すのではなく、木に背を預ける形で、もはや動くこともままならないのか、目を閉じたままぐったりしている。
それは――黒髪の、幼い子供だった。