41.恥じらい?
この世界には、いろんな種族がいるらしい。
以前聞いた『世界にはあらかじめ用意された素材がある』という、パメラ・シェルシュタインによる仮説。僕は、これはもしかすると当たっているんじゃないか、という気がしている。
なぜなら、この世界はやっぱり、知れば知るほど僕の知識と同じだったからだ。
人間、妖精、エルフといった種族名だってそうだし、それらの特徴も似通っている。人間の性別が一定年齢になるまで不確定で、変わる場合がある……というのは、びっくりだけど。
まぁ、ともかく、そういう細々したポイント以外は、かなり同じといっていい。
ハルの一件でパメラさんとは顔をあわせたけど、ほとんど話を出来ないままだった。
今度、彼女に会うことがあったら、僕はいろいろと話してみたいことがある。たぶん、僕の話をお師匠以上に理解し、そして信じられるのは……異世界を研究するあの人だろう。
などといったら、お師匠がすねてしまうので、心の中だけで思う。いや、口に出して嫉妬やら何やらの狭間でジダモダするお師匠を、一度眺めてホクホクしたいなぁとは思うけど。
基本、お師匠は『師匠』だから、意地っ張りというか弱みを見せない。
僕をどんなに引き止めたくてもガマンして、一人でひざを抱えてしまう人だ。
それが僕にとっては、とにかく可愛いわけである。
さて、そんな心のうちの欲望はともかく、この世界には他にもいくつか種族がいる。ミーネさんたち『魔女宅配』の社員が乗るあのドラゴンも、ドラゴン種と呼ばれる立派な種族だ。
魔石を生み出す精霊も、一つの種族と捕らえてもいいかもしれない。
そんな多種多様な種族の中に、やはりというか、その名前を持つ種族もいた。
「悪魔も、いるんですね」
「うん、いるよー」
そして今日も、お師匠の『講義』が始まる。
この世界における悪魔は、精霊に近い存在なのだそうだ。
エルフのように長い寿命と高い魔法式適正を持ち、姿を自在に変えられる。彼ら自身のコミュニティを持っているが、中には魔法使いと契約して協力しているものもいるらしい。
彼らが変える姿は多種多様あって、巨大なドラゴンになれる悪魔もいるんだとか。強い存在になれるほど、その悪魔の力がすごいのだというアピールになるのだと、お師匠は言う。
他の種族と違って、高位と下位、という区分があるのも特徴らしい。
その区分は彼らにとって絶対的なもので、それこそ一般市民と王侯貴族ぐらいに立場やら何やらが変わるのだという。もっとも、悪魔種のコミュニティ限定での話なのだそうだが。
「セラの知り合いにも、悪魔と契約してるのがいるよぅ。その人は黒猫だから、そんなに高位の悪魔じゃないみたいだけど、こんくらいの魔石なら結構頻繁に作れるんだってさ」
こんくらい、をお師匠は人差し指と親指の間で表現する。その幅は、僕が知る標準的な豆と変わらない感じだろうか。よく節分で使う豆ぐらいというか、グリンピースというか。
とはいえ、そんな小粒でもかなりの貴重品で、お師匠も使わない分は売って生活費などにしているぐらいだ。それが結構頻繁に得られる、というのはかなりの恩恵じゃないかなと思う。
しかし、お師匠は少しだけイヤそうな顔をして、続けた。
「ただねぇ、悪魔って意味不明な契約を結んでくるらしくってさ。さっき言った知り合いなんてかなりのモンだよ。セラだったら、提示された時点で、断固拒否っていう感じなの」
「そんなに、面倒なんですか? いけにえ、とか?」
「んーん、たぶんセラやあの子じゃなかったら、たとえばパメラだったら、何だその程度でいいのかいって笑うような内容。でも、セラやあの子は恥じらいがあるからヤーなの」
「……恥じらい、ですか」
これまでの言動を思って、どこにあるのかといいそうになる。
……が、後が怖いので僕は口を閉ざした。
「で、そのお知り合いが交わした契約って?」
「んーとね、添い寝と、キスと、あと……最後まではしないナニか」
「……」
「する内容と、どれくらいやるかによって魔石の大きさが変わるんだってさ。まぁ、今のところ添い寝ぐらいしか許してないって本人は言ってたけど、何年も前だからどうかなぁ」
たまには様子を見に行こうかなぁ、とお師匠はつぶやく。
何と言うか……いろいろと、魔法使い界隈も身体を張って大変らしい。




