表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -2-
40/74

40.弟子のお仕事

 荷物の整理もひと段落し、僕とお師匠は夕食をとっていた。

 ……のだが、お師匠は行儀悪く、届いた手紙をチェックしながら、だった。今日は前に手に入れたレシピ本を参考に作ったこの世界の料理で、あまり味に自信がない。


 この料理は、初めて作ったものだった。


 僕が食べたことが無い料理で、味はトマト――のようなものを使っているからか、そこはかとなくハヤシライスのような感じ、だろうか。程よく酸味があって、白米が少し恋しくなる。

 塩漬けの肉を軽く水に浸して塩を抜き、その間にタマネギやらトマトやらを薄く細かく切り刻んでいく。オリーブオイルのような油でさっといためて、肉を入れて、水を入れて。

 それから分量を守って調合したハーブを入れて、コトコトと煮込む料理。

 沸騰するまでの時間で、芋といくつかの野菜を一口大に切る。さっき入れたトマトとタマネギは言うならば出汁のようなもので、最終的には全部溶けて消えてしまうからだ。

 材料をすべて入れて、最後に取って置きの調味料をどばっと。どうやらこの世界のデミグラスソースのようなものらしく、これのせいでハヤシライスっぽいんだろうなぁ、と思う。

 ここからはひたすら煮込むのが仕事で、その間に荷物を整理したわけだ。


 部屋の中に満ちるいい香りは、非常に胃袋を刺激する。

 なにぶん、初めての料理だったので、香りだけで僕の中で期待がぐんぐんと育った。

 味見は最後に、さっと整えるだけになる。肉の塩気と野菜の甘みや酸味、ハーブやソースの風味で充分に味がついているからだ。ちょっとだけ塩コショウをして、完成となる。

 途中からハヤシライスっぽいと思ったけど、食べてみると味もやっぱりそうだった。ハーブのせいかスパイシーというか、僕の知るハヤシライスとは異なる点もあるけど普通に美味だ。


 とはいえ、それは僕の味覚の感想で、お師匠がどう受け取るかはわからない。

 これはこの世界の料理で、レシピを見ているときに、食べたことがあるといっていた。

 いくつか手元に無いハーブなどもあったから、辞典を片手に代わりになりそうなものを使ったのだけれど……それが、どういう方向に効果をもたらしたのか。


 とりあえず、食べられないってコトはない……はずだ。

 この世界の標準的な味覚と、僕が培った味覚にズレはない。

 その僕が普通に食べられると判断できたなら、たぶん……きっと、大丈夫。


「あの、どうですか?」

「……」

「お師匠、あのですね、味の感想を」

 ダメならダメ、と一思いにグッサリとください。

 生殺しほど、辛く悲しい苦行はないんです。

 しばらくモグモグしていたお師匠は、とろけるような笑みを浮かべた。

「弟子くんはさー、料理の腕がぐんぐん上がるよねぇ。セラ、大満足なんだよぅ。弟子くんが弟子で、セラはほんとーによかった! んー、おいしいおいしい。すっごくおいしいよぅ」

 と、連呼される。

 あんまりそんな風に言われると、だんだん恥ずかしくなってきた。

 本気で僕を褒め殺す気なんだろうか、お師匠は。僕が赤面しているであろうことは、目の前にいるのだから絶対にわかっているはずなんだ。なのにお師匠は、絶えず褒め続けている。


「あの、そのですね……もう、いいですから」

「なんで? だってセラはほんとーにうれしいんだよ?」


 お師匠はにっこりと笑って、そしてあっという間に完食してさらにおかわりを。小食なお師匠にはありえない行為に、僕は思わず絶句して……胸の奥が、ほっこりと暖かくなった。

 早く早く、とせかすお師匠に、まだまだありますから、と返事をして立ち上がる。きれいに食べつくされたお皿を受け取って、少し量を加減しながらおかわりを注いだ。


「んー、おいしいなぁ。セラって幸せ者だよねっ」


 明日にはもっとおいしくなってるよね、とお師匠はとてもご機嫌だ。

 その笑顔の前に、僕はもうニヤニヤする表情を止めることなど、出来はしなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ